国民から見れば「どっちもどっち」である。はっきりしたのは、消費税増税が公約違反かどうか-を問い詰めようとしても、結局は堂々巡りの「水掛け論」だということではないか。
社会保障と税の一体改革に向けて「決められない政治」からの脱却を訴えた野田佳彦首相の施政方針演説に対する代表質問が国会で始まった。
自民党の谷垣禎一総裁は、首相が再三呼び掛ける一体改革素案の与野党協議には応じない姿勢を鮮明にするとともに、早期の衆院の解散・総選挙で民意を問い直すべきだと主張した。
谷垣氏の言い分はこうだ。民主党は2年半前の衆院選でマニフェストの実現を国民に約束して政権の座に就いた。しかし、その政権公約に消費税の増税は盛り込まれていない。
マニフェストに書いていないから公約違反ではないと言い張るのは「詭弁(きべん)」である。国民にウソをついたことをおわびして、主権者の審判を仰ぐべきだ-。
これに対して首相は、公約違反ではないと反論した。素案で明記したように段階的に消費税率を引き上げる時期は、現行5%から8%の第1段階が2014年の4月であり、来年8月末までの衆院議員の任期中ではない。
消費税率を引き上げる際には国民の信を問う方針に変わりがない。ただし、それは「やるべきことをやり抜いた」うえでだと早期解散の要求は突っぱねた。
政権公約にないことを手掛けるのは公約違反と一刀両断する谷垣氏の論法は、乱暴だと指摘せざるを得ない。新たに生じた政策課題や行政需要に臨機応変に対応することも、政治の役割だからだ。そんなことは、長年政権を担当してきた自民党こそ、百も承知ではないか。
その一方で、政権公約の後退や撤回に対する民主党政権の説明不足や開き直りも、確かに目に余る。
その最たるものが、行政の無駄を根絶して総予算を組み替えれば、マニフェストの財源は生み出せる。だから政権を担う4年間は消費税を上げる必要はない-という民主党の当初の主張である。
たとえ、増税する時期を任期後に設定し、その際は民意を問うとしても、政権公約との落差は覆い隠しようがない。
谷垣氏は、消費税増税反対派を抱える民主党の党内調整で引き上げ時期を半年ずつ繰り下げたため、財政健全化の道筋が不鮮明になってしまったと追及した。
また、民主党が政権公約に掲げた月額7万円の最低保障年金を創設すれば「消費税率6%分の増税が必要なのに、なぜ素案に追加財源を書き込まなかったのか」と問うた。いずれも、素案の核心的な問題点を突く質問である。
解散要求の一点張りでは、自民党が掲げる「責任野党」の看板が泣く。
一体改革の論点を深く掘り下げ、国民的な論議を巻き起こす政策論争で野田政権に真っ向勝負を挑んでほしい。
=2012/01/27付 西日本新聞朝刊=