つらつら日暮らし

仏教、禅宗を学ぶ曹洞宗の禅僧によるつらつらなる日暮らし。時事ネタ、野球ネタもあります。

「折伏」すべきは一体何か?

2012-01-25 08:10:09 | 仏教
何か、最近では多少おとなしくなったとも聞くけど、一時期の日蓮宗系教団の「折伏」っていえば、それはそれは酷い話であった。要するに、彼らなりの理論を立てて「法戦」を挑み、相手を屈服させて、それまでに所属していた宗教教団から離脱させるという話である。相手を屈服させる様子が、「折伏」という語として考えられたわけだ。

昨年のことだが、山梨県内の御寺院様にて、ミャンマーから来た上座部仏教の三蔵にお会いした。とても温和であり、理知的であり、まさに学僧そのものである。三蔵とお話しさせていただくとき、たまたまその部屋には、禅宗で用いる「掛け軸」が掛かっていて、そこには「竺土大仙心」と大書してあった。これはもちろん、中国禅宗の石頭希遷禅師が詠まれた『参同契』の冒頭句である。

そして、拙僧の方から、簡単に字句の説明を申し上げたのだが、その時の三蔵は、「「心」が仏教ではとても大切なことです」と感想をいわれた。確かに、「竺土大仙心」は、禅宗にあっても、仏陀の御心に触れるのが大切だということを意味している(無論、仏心が本具することも意味するが)。心の統御は、仏教では極めて大切なことだ。禅宗でもそれを忘れたことはない。禅問答という言葉遊びに興じているばかりではないのである。

そんなことを思っていたとき、我々大乗仏教にとって、大切な経典の一である『仏遺教経(仏垂般涅槃略説教誡経)』に以下のような文脈が見えた。

 心の畏るべきこと毒蛇・悪獣・怨族よりも甚だし。大火の越逸なるも、未だ喩えとするに足らず。譬えば、人有り、手に蜜器を執って、動転軽躁し、ただ蜜のみを見て、深坑を見ざるがごとし。また、狂象の鉤無く、猿猴の樹を得て、騰躍跳躑して禁制すべきこと難きが如し。まさに急やかにこれを挫いて放逸ならしむること毋るべし。
 この心を縦にすれば、人の善事を喪う。これを一処に制すれば、事として弁ぜずということなし。
 この故に比丘、まさに勤めて精進して汝が心を折伏すべし。


『遺教経』で折伏すべきだといわれているのは、「比丘の心」である。修行者の心である。つまり、恣に活動しがちな心を、良く統御するように説いているといえる。そして、そこに「折伏」という訳語を用いているのである。折伏とは、いたずらに相手にのみ向かうことではない。ただ、統御するということである。

さて、そのようにいうと、一部の日蓮宗系の方々は、「我々の信念に基づく統御をしてやっているんだ」とか、「折伏による広宣流布こそが、もっとも良いことなのだ」とかいうのかもしれない。だが、それは大きなお世話である。一部の、他力門の方々には申し訳ないが、仏教の基本は、自力門である。歴史的には、それが末法思想などによって信用されなくなって、阿弥陀仏の本願を期待する信仰が出て来たわけだろうし、或いは日蓮聖人は、『法華経』そのものを信仰の対象にし、それから直接救済されようとしたのだろうが、これらは、「心」を統御できなくなってしまった時代に生み出された、或る意味方便である。無論、専修念仏も、日蓮教学も、それが方便ではないように、様々な「教義体系」を生み出してはいるが、結局は時宜相応説に過ぎない。

拙僧はいたずらに、禅こそが本来の仏教だ、等というつもりはない。無論、拙僧に於いては、両祖の教えこそが普遍的道理であって、余事は所詮余事に過ぎない。なお、念仏であろうと、唱題であろうと、それを「行」として考えれば、心の統御に繋がると思う。無論、その程度に収めないような教学こそが、彼らの生命線であるのだろうが。

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12 コメント

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Unknown (通りすがり)
2012-01-25 13:48:39
かなりご自身の己義が入っているように感じられます。
コメントありがたいのですが・・・ (tenjin95)
2012-01-25 14:29:17
> 通りすがり さん

> かなりご自身の己義が入っているように感じられます。

まぁ、そもそも、個人のブログなので、御指摘のようなことは、あって当たり前。なお、それであっても、「拙僧はいたずらに、禅こそが本来の仏教だ、等というつもりはない。無論、拙僧に於いては、両祖の教えこそが普遍的道理であって、余事は所詮余事に過ぎない」と論じている、或る種の自己への「制限」については、よくよく読み解いていただきたいと思います。
Unknown (あべひ)
2012-01-27 00:07:50
記事を引用させていただき反論をブログに掲載しました。
コメントありがたいのですが・・・ (tenjin95)
2012-01-27 06:35:19
> あべひ さん

> 記事を引用させていただき反論をブログに掲載しました。

アハハ(笑)
過剰反応も良いところですな。笑えます。
反論っていったって、その権利すら無いでしょ?
こっちの都合も聞かず、勝手にこのブログの文章を引用する権利があると思っているんでしょうかね?その「規定」を良く良くご覧なさい。

http://blog.goo.ne.jp/tenjin95/e/578b9d5a0f582b8d06701a4ec037cad3

なお、貴方のような人には、引用を許可しませんので、もし、そんなたわけた反論記事があるのなら、直ちに削除するように要求いたします。
おはようございます (あべひ)
2012-01-27 09:42:01
※反論っていったって、その権利すら無いでしょ?

いえいえこちらのブログで論評されることは憲法に保障された権利ですよ。
反論されたから権利侵害だというのは少々大げさな発想です。

※勝手にこのブログの文章を引用する権利があると思っているんでしょうかね

引用の権利は法律にて保障されております。
和尚のように、無断引用禁止などというのは著作権上なんら法的な拘束力はないのです。

※直ちに削除するように要求いたします

従って上記の要求は承伏いたしかねます。

それよりも、『仏遺教経(仏垂般涅槃略説教誡経)』における和尚の解釈と
反論は不可だという仏典的な根拠おさがしねがいたいものです。
追記になりますが (あべひ)
2012-01-27 09:58:25
トラックバックという機能をつかうと被リンク者の和尚には解るようになるそうですが、いまひとつ私には意味が分からないので直にブログ内でURLを貼ったことを通知するためにあえてコメントを残しました。

和尚はけっこうネットを使って広報活動をなさっていますね。
貴殿が思った事をテキストなどで表現されるという事はその記事に対して論評の対象にもなりえます。
表現の自由は批判できる権利も含まれていますし、和尚の今回の記事も全く問題在りません。

お互いがお互いの権利を尊重したうえでやりとりをするのは仏法的にありえないことでしょうか?
出家もしていないドシロウトに指摘される事が不快だとおっしゃるのなら心の統御という概念自体が空虚だなと私は感じました。
少々残念です。
コメントありがたいのですが・・・ (tenjin95)
2012-01-27 11:58:07
> あべひ さん

> いえいえこちらのブログで論評されることは憲法に保障された権利ですよ。反論されたから権利侵害だというのは少々大げさな発想です。

思い違いをされているように思うのですが、確かに、「言論の自由」はありますが、同時に、お互いに「信教の自由」もあるわけで、拙僧には、このブログで自分の想い・信念をぶちまける自由を有しています。或いは、この記事は拙僧自身の信教の自由の発露です。

無論、貴方にも貴方のブログに於ける表現の自由はあると思いますが、それはどうぞ、そちらが持っているネタを使って行って下さい。こちらを巻き込む必要性はないと思います。

つまり、お互い名指しで非難する権利については、無用な争いを惹起する問題点を鑑み、止めた方が良いと思われます。当方は、貴方を名指しで非難したわけではないので、貴方も当方に対する反論をすべきではない、というのが当方の結論です。

> お互いがお互いの権利を尊重したうえでやりとりをするのは仏法的にありえないことでしょうか?

仏法を持ち出すまでもなく、ネットに於ける「良識」でもって、議論はすべきではないと考えます。敢えて仏法的に、というのなら、そもそも、議論したって、救いには繋がらないと思います。まぁ、貴方はそれで救われると思っているかもしれませんが、当方はそれでは不可能だと思っています。ここでも、信念が違えば、議論をしても無駄です。

よって、時間の無駄です。

> 出家もしていないドシロウトに指摘される事が不快だとおっしゃるのなら心の統御という概念自体が空虚だなと私は感じました。

不快に思っているわけではありません。時間と労力の無駄だと思っているだけです。不戯論ということで、諦めて下さい。こちらは、そちらの身勝手な反論に付き合う必要性を感じていません。それでは失礼します。
ご丁寧にありがとうございます (あべひ)
2012-01-27 12:27:56
※同時に、お互いに「信教の自由」もあるわけで、拙僧には、このブログで自分の想い・信念をぶちまける自由を有しています。或いは、この記事は拙僧自身の信教の自由の発露です。


もちろんそういった事は承知の上で反論をさせていただいております。
その権利に関して和尚は反論する「権利がない」かのように錯誤されれいるようですね。
私の記事もまた自身の信教の自由からの発露です。
感情論の「快・不快」と実際に権利の侵害とはまったく別問題だとおもうのですが(笑)

※敢えて仏法的に、というのなら、そもそも、議論したって、救いには繋がらないと思います。

御坊は人間の心理的「変化」を否定されているのでしょうか?
私は「救い」というのは「迷わない(惑わない)」という一面も持っているとおもいます。
もちろん和尚さんがブログのみで人を「救おう」なんておもっておられないとは思います。
だからこそ気さくな話題にも触れておられるのだと考えています。

どこの誰ともハッキリしない相手に対してこのようにしてお時間を割いてもらう事は申し訳ないとおもいますが、「時間と労力の無駄」と判断するには時期尚早なのではないでしょうか。

私は、私の信じる宗派に対する邪難を和尚が掛けたなどという立場で反論をしたわけではない事をご理解いただければ幸いです。
ただ単純に「曹洞宗の和尚」を称されるいわば1宗の専門家として「それは喝破の論拠としておかしくないですか?」と冷静に反問しているつもりです。

最初はちょっと驚きましたが丁寧に応対されなおされている事を考えれば決して無駄にはならないと私は「思いたい」です(笑)
あれ? (みれい)
2012-01-27 12:34:34
ネットにおける著作権はブログ著者本人の意思により記事に適用されるはずですよね?
少なくとも最低限のマナーとして、あべひさんのブログはどこにあるのか、引用したリンク先はどこかに明記しているのでしょうか?

tenjin95様

うちの地域の日蓮正宗系の一部の団体の方は、まだまだ活発(というか過激)で、今でも苦情相談がきます。
ストーカー規制法にあたる行為もみられるのですが、会員の中には布教の為なら違法もやむをえないと考えている方もいて、それをその団体が認識・容認しているのか確認しようとすると、地域責任者の答えも名前も明かさない。
「会員意外に明かすと悪用される、警察は別の某団体が操作している」と教え込まれているようです。

少し前の話ですが、とある会員さんと会ってお話ししているときに、法華経の第二(の一部)と第十六(もどうやら一部)しか読んでないということで、
「二十八品すべて法華経なわけだけど、もしもその中に人権差別的な内容があったら、それも日蓮大聖人様の教えだと思って行動したり、発言するの?」と尋ねたら、「日蓮大聖人様の教えだったらする」と答えてました。

いずれにしても団体の会長さんが言ってるのだから間違いはない、疑うなんてありえない(そんなことしたら罰が当たるし地獄に堕ちる)と。

もっともその会員の皆さんは独自の「功徳と正義感」と共に、相当の「罰と地獄観の恐怖心」と戦っているので、話し合う時は、信仰すること自体は否定せず、恐怖心で思考停止にならないよう、気をつけるようにしています。

ということで、社会認識やコンプライアンスにズレがあるのを踏まえたうえで、相談・対策も、もっと社会側も取り組んでいかなければならない部分だなと思っています。
コメントありがたいのですが・・・ (tenjin95)
2012-01-27 12:59:45
> あべひ さん

議論をしないと申し上げたので、もう、こちらは取り合いません。なお、どうしても、というのなら、メールに寄越して下さい。まぁ、そちらでも答えるか保証はしませんが。

以降、コメントを頂戴しても、削除します。
Unknown (あべひ)
2012-01-27 13:00:18
みれいさん初めまして

※ネットにおける著作権はブログ著者本人の意思により記事に適用されるはずですよね?

ネットでなくとも「引用」は本人の意思とは別なのです。
全く公開されていないのなら、意味合いが変わってきます。
「引用と転載」というワードで検索してみてください。


※少なくとも最低限のマナーとして、あべひさんのブログはどこにあるのか、引用したリンク先はどこかに明記しているのでしょうか

大変失礼しました。ご指摘の通りですね。
ブログ村というランキングサービスの方しか意識できていませんでした。
HNの所にリンクさせておきます。
了解しました (あべひ)
2012-01-27 13:03:54
※以降、コメントを頂戴しても、削除します。

ではこれからはお互いのブログで論を交わすという事でお願いします

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