中小企業が共同で工場やショッピングセンターなどを整備する際に県と独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が融資する制度「中小企業高度化資金」で、県内で約108億円が不良債権化し回収困難となっている。主にバブル経済崩壊前後の融資先で、競売を繰り返しても落札されないケースもある。県は先月28日、第三者委員会を設置し、回収の方法について検討を始めたが、問題解決のめどは立っていない。【岡田悟】
「ここ20年でこれほど景気が落ち込むとは」。甲府市塩部4の住宅街にあり、改装工事が進む「塩部ショッピングセンター」。事業協同組合の男性債務者は語る。建物は競売で買い手がついたものの、複数の組合員が連帯保証人となって抱える残りの債務は計約1億8000万円に上る。
同センターは94年、理髪店や和菓子店、果物店など7店が入ってオープン。事業総額約3億3000万円のうち、同制度で約2億4500万円の融資を受けた。オランダ製の鐘を設けるなど、ぜいを凝らし半年はにぎわったが、やがて店舗の撤退が相次ぎ、今年8月に閉鎖。この男性は近くで理髪店を続けながら返済を続けている。「今の返済ペースでは100年かかると言われる。償還期限を過ぎると金利も上がる」
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整備機構によると、同制度は、連携や集積による中小企業の活性化を目指す事業に対し、主に機構の融資に県が追加して貸し出す。起源は1949年に国が始めた補助事業だ。
ただバブル崩壊や収支見通しの甘さで、他県でも回収困難になる例があり、和歌山県は08年、約26億円の債権放棄を決めた。
山梨県内の貸し付けはこれまで計93団体780億円で、うち未回収は25団体178億円。その中で7団体108億円が不良債権化している。89~97年の融資で、主にバブルやその後の回復を見込んだものだった。県商業振興金融課は、景気が回復せず「失われた10年」と呼ばれる低迷が続いたため破綻につながったと説明する。
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債権回収について、県はノウハウ不足などから08年2月、破綻金融機関の債権処理などを担う「整理回収機構」に委託。先月25日現在、回収額は3億3281万円にとどまる一方、委託料は計2億2003万円に。同課によると、9月ごろに競売で約1億3000万円が回収できたが、それまでは委託料が回収額を上回っていた。
今後の見通しは暗い。18億円超の債務を抱える「身延ショッピングセンター事業協同組合」の土地と建物は3度競売にかけたが、価格が約3600万円に落ちても買い手がつかない。融資先の破綻から時間も過ぎ、連帯保証人には高齢者も多いという。
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さらに来年度以降は、預金保険法の改正で回収機構へ委託できなくなる。このため県は、法務省の認可を受けて債権を回収する民間会社「サービサー」への委託を含め、第三者委員会で今後の回収方法を検討していく。
ただ、県側が問題を報告した9月定例県議会農政産業観光委員会では、委員から「車を乗り回して生活を謳歌(おうか)している債務者もいる。民間の回収能力はすごい」(臼井成夫委員)、「県の貸し付けを民間が回収するのはどうか。高齢の債務者に影響はないのか」(小越智子委員)など賛否両論だった。
同課によると、回収できなかった場合でも、未回収額や回収委託料の半分近くを整備機構が負担する可能性もある。
県は第三者委員会で年度内をめどに結論を得たい考えだ。
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(県商業振興金融課まとめ、10月25日現在、千円以下切り捨て)
味のふるさと協業組合 55億 679万円
甲南食品協業組合 1億9372万円
協同組合コウフシティジュエリーセンター 207万円
身延ショッピングセンター事業協同組合 18億 784万円
山梨ニューマテリアル協業組合 26億8973万円
玉穂商業開発協同組合 4億3655万円
塩部ショッピングセンター事業協同組合 1億8068万円
合計 108億1740万円
うち県貸し付け分 49億6344万円
中小企業基盤整備機構貸し付け分 58億5395万円
毎日新聞 2011年11月10日 地方版