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国会が始まった。税と社会保障の一体改革、とりわけ消費税の増税をめぐり、衆院の解散・総選挙もありうる150日間の論戦に注目だ。まっ先に代表質問に立った自民党の谷垣禎一総裁[記事全文]
日本の昨年の貿易収支が、31年ぶりに赤字になった。大震災で自動車や電機などの工場が被災して輸出が鈍り、原発事故を受けて燃料の輸入が急増したためだ。ただ、一時的要因ばかり[記事全文]
国会が始まった。税と社会保障の一体改革、とりわけ消費税の増税をめぐり、衆院の解散・総選挙もありうる150日間の論戦に注目だ。
まっ先に代表質問に立った自民党の谷垣禎一総裁は、改めて早期の衆院解散を求めた。
マニフェストに消費増税を書かなかった民主党が、増税に突き進むのは許せない。
マニフェストという偽りに満ちた国民との契約で多数の議席を得た民主党政権は、消費税率を引き上げる権限を、主権者から与えられていない――。
なるほど、一理ある。
さらに、こうも言った。
「現在の財政赤字に責任を感じるがゆえに、わが党は、選挙公約においても、消費税を含む税制抜本改革を断行することを堂々と掲げ、国民と直接向き合ってきた」
ということは、自民党には法案提出の「権限」があるということではないか。
だから私たちは提案する。
自民党は独自の消費税率の引き上げ法案を、速やかに国会に出すべきだ。それでこそ、責任政党だ。
もともと消費税10%を先に言い出したのは自民党だ。長年の政権運営の経験もあり、法案づくりはお手のものだろう。
利点はたくさんある。
本会議や委員会で、政府と自民党がそれぞれの案を説明し、長所を売り込める。疑問もぶつけあえる。
ほんとうに増税が不可欠なのか。増収分は、何に使うのか。将来的には、どのくらいの率にしようというのか。
議論を尽くし、必要があればお互いに修正すればいい。衆参ねじれのもとで、迷走を続ける国会が、結論を出せる議論の場に衣替えする第一歩になる。
特別委員会をつくれば、社会保障制度改革も同時に議論していける。
国会で審議すれば、議事録がきっちりと残る。テレビやネットでも中継される。それに、増税に反対する政党も加われる。
これ以上の正々堂々たる議論の場はない。
谷垣氏は、なぜ、自民党の支持率が回復しないのかを見誤ってはならない。党内に大量にいる落選組にせっつかれ、とにかく早くやれば勝てそうだからと解散を要求する姿勢に、有権者は共感していないのだ。
実は自民党も民主党と同じように党内に増税反対派を抱え込んでいる。いざ法案提出となれば、もめるに違いない。
それを克服してこそ、谷垣総裁の面目躍如である。
日本の昨年の貿易収支が、31年ぶりに赤字になった。
大震災で自動車や電機などの工場が被災して輸出が鈍り、原発事故を受けて燃料の輸入が急増したためだ。ただ、一時的要因ばかりではない。円高の定着で製造業の海外移転が加速すれば、赤字が続く可能性がある。
政府は国内での工場建設を促す立地補助金を増やすなど、対策に必死だ。雇用を守るために当面の手当ては欠かせないが、モノづくりと輸出を柱とする貿易立国が大きな曲がり角にさしかかった、といえるだろう。
注目すべきは、貿易収支よりも経常収支の動向だ。
経常収支は、サービス取引や投資に伴う収益も対象となる。2010年は17兆円強の黒字。昨年も貿易赤字を吸収して10兆円程度の黒字となった模様だ。
日本は巨額の国債発行の9割超を国内資金でまかなっているが、支えとなっているのが経常黒字である。
その原動力は所得収支の黒字だ。海外証券の購入、海外での子会社設立や企業買収などに伴う利子、配当所得である。黒字額は05年に貿易黒字を上回り、10年は12兆円弱だった。
対外収支と国の発展段階を結びつけた学説がある。国家は貿易収支、所得収支とも赤字の「未成熟な債務国」として出発した後、まず貿易収支が黒字になる。所得収支も黒字に転換する段階を経て、貿易収支が再び赤字になる「成熟した債権国」に移る、という主張だ。
日本に照らすと、高度成長期の60年代後半に貿易黒字が膨らんだ。80年代には所得収支も黒字になった。貿易収支が赤字に転落し、いよいよ「成熟した債権国」になりつつあるのか。
巨額の財政赤字を抱えるなかで、少子高齢化が進む。経常収支も赤字となる「双子の赤字」に陥ると、国が立ちゆかなくなる恐れがある。
所得収支の黒字を有効に使い、国内外への再投資に回して日本経済を活性化する。そうして国内の雇用を守り、経常収支の黒字を保つ。そんな循環をつくらねばならない。
奇策はない。エネルギー・環境、医療・介護、農業を中心に規制緩和を進め、内需を拡大する。他社の買収を含む企業の投資を後押しする。研究開発の促進や人材育成も怠れない。
貿易赤字を機に、「何をするべきか」を改めて考えよう。