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〈ニュース圏外〉密かに続くネット流出 さらす側の本音

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ウイニーでの情報流出の仕組み

 ネット上の情報流出は、水面下で今も続く。「さらす側」の人物に、記者が接触した。

 ファイル交換ソフトを介した情報流出の被害は最近、あまり聞かれなくなった。だが実は、流出自体は今も続いている。「さらす側」と「さらされる側」の事情が、被害を潜在化させているのだ。

 情報セキュリティー会社「ネットエージェント(ネット社)」によると、ファイル交換ソフト「ウィニー」の利用者数は、最盛期だった2006年ごろの約6分の1に減ったが、いまだに7万5千人いる。

 個人情報や企業秘密の流出は、ファイル交換ソフト上の「暴露ウイルス」に感染して起きる。だが、感染だけなら、流出情報が他の利用者の目に触れる可能性はゼロに近い。ウィニーなどのネットワーク上には数百万のファイルが常に流れていて、情報が一つ増えても気付かれない。

 ところが、暴露ウイルスが絡んだファイルを根こそぎダウンロードし、閲覧可能にする、つまり「さらす」人がいる。彼らが目ぼしいものを匿名掲示板「2ちゃんねる」などに書き込んで「さらす」ことで、流出の事実が知られる。

 ネット社や、同様にウィニーのネットワークを解析してきた日本IBMによると、「さらす側」の中心メンバーはわずか2、3人。うち2人が取材に応じた。

■「当局への報復」

 一人は、首都圏に住む50代の男性だ。昨年、掲示板に流出情報を「さらす」ことをやめたという。興味本位で、06年から収集と公開を続け、今も1日あたり、平日なら5件、週末は10件のペースで流出情報を拾う。記者に見せた「未公開ファイル」には官庁職員からの流出情報や原子力施設に絡む内部情報もあった。

 09年、ある情報流出事件に絡んで別件で逮捕された。1カ月の勾留と罰金刑で済んだが、慎重になった。流出情報の公開をやめたわけではない。特定のネットワークにこっそり流す。匿名の数百人が拾っていることは確認済みだ。

 「これは当局への報復ですよ」と男性は言う。「不特定多数が閲覧できる掲示板に公開しなければ、捜査当局は手が出せない。数百人が認めてくれれば、それで十分」。一方で、「もっと過激なやり方もできる」と含みを残す。

 もう一人は東北地方の60代男性。彼の目的は「カネ」だった。

 企業絡みの情報流出を流出元に知らせ、「詳しく知りたければ、私と契約を」と迫る。05〜08年には1件5万〜15万円で年約100件を契約。年間1千万円弱の収入があったという。

 記者が「恐喝では?」と問うと、「ゆすりと受け取られないよう注意を払った」。だが「態度が悪かった」企業の流出情報を掲示板にさらしたこともある。

 09年に足を洗った。最近は流出自体が減り、カネにしにくくなったからだという。現在は、不動産会社の営業関連部門で働く。

 「さらされる側」の企業の意識も変わった。

 かつては流出が明るみに出るたびに会見が開かれ、役員が頭を下げた。いまは「事実の確認をしている」などとして表向きは静観を決め込む企業が多い。

■企業、発表慎重に

 ネット社は、企業を対象に暴露ウイルスへの対応を請け負う。流出させてしまった情報に、顧客や取引先の情報が含まれていれば、個別に謝罪を尽くす。ただし、報道発表はしないよう指導する。

 同社の杉浦隆幸社長は「顧客や取引先は流出自体で傷ついている。マスコミが報道すれば二重の傷を受けることになる。企業イメージが悪化し、何のメリットもない」と話す。

 かくして情報流出は、実態を知られないまま続く。ネット社によると、ウイルスにかかって流出する情報は、いまも月数百件に上るという。(神田大介)

     ◇

 〈暴露ウイルス〉「ウィニー」などのファイル交換ソフトで流通する映像や音楽などのファイルを装い、感染する。ファイルを視聴しようとすると、パソコン内の文書を勝手に集めてネット上に公開する。2003年に出現。捜査情報、防衛機密など流出分野は広く、06〜07年を中心に連日、被害が報道された。開発者は不明。

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