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『茜空の軌跡』
第四十二話 狙われたプリンセス・クローゼ、山猫号も大ピンチ!
<ツァイス地方 セントハイム門>

エステル達がアルバ教授に同行してセントハイム門に着くと、門の警備が厳重になっている事に気が付いた。

「もう脱走の事が知れ渡っているのね」
「うん、さすがに行動が早い」

アスカのつぶやきにヨシュアが同意した。

「あたし達、王都に入れるかな?」
「アルバ教授を王都に連れて行くって言えば大丈夫だと思うけど……」

エステルとシンジは不安を口にした。
そんな2人の様子を見て、アルバ教授がエステル達に尋ねる。

「エステル君達は王国を巡る旅をしているのですから、その中で珍しい物を手に入れたりはしていませんか?」
「うーん、アタシ達は他の街の支部へ移動しなくちゃならないから、荷物は少なくしなくちゃいけないのよ」
「そんな事言って、アスカはリボンとか髪留めとか色々買い込んでいるじゃないか」

新しい街に行く度に荷物が増えるシンジはウンザリとした顔でため息を吐き出した。
すると、アスカはふくれた顔になってシンジに言い返す。

「何よ、女の子がオシャレをしちゃいけないって言うの!?」
「そうよ、女の子にとってオシャレは大事なのよ」
「エステルはスニーカーだけでしょ」

アスカはジト目でエステルに低い声でツッコミを入れた。

「僕も興味を引かれた本を買ったりしていますが、希少本は持ち歩いていないですね」
「だいたい、貴重品は旅に持って行かないわよ、盗まれたら大変だし」
「そうですよね」

ヨシュアとアスカの返事を聞いて、アルバ教授は残念そうな表情になった。

「あっ、これはどうかな? あたしのマスコットなんだけど」

エステルがリュックサックから取り出して見せると、アスカはあきれた顔になる。

「アンタ、こんな物を大事に取っていたの? 気持ち悪いから捨てなさいよ」
「うーん、話の内容によっては使えるかもしれませんね」

アルバ教授は少し苦笑しながらそう言った。
そしてエステル達がセントハイム門へ行くと、やはり兵士に足止めされた。
女王生誕祭でテロを企てている者が居るとの情報があったので、王都に入る人間は制限されているとの事だった。
関所を守る兵士は、リシャール大佐の部隊は優秀で、近い内に犯人は捕えられて封鎖は解除されるだろうからそれまで待っていて欲しいとエステル達に告げた。

「どうやらリシャールさん達は作戦が終わるまで、誰も王都に近づけさせたくないみたいだね」
「封鎖が解かれるまで待って居られないって事か」

ヨシュアの意見を聞いて、シンジはつぶやいた。

「では、私に任せて下さい」

アルバ教授はそう言って、エステルに同行を頼んで関所を守る隊長に声を掛ける。

「お願いですから、私達を通しては頂けませんか?」

隊長がしばらく我慢してくれと答えても、アルバ教授は緊急の用事があるからと食い下がった。
その用事とは、王都の博物館に新種を発見したと報告する事だと告げる。
不思議そうな顔をする隊長に、エステルがリュックサックの中から取り出した巨大なカブトムシの剥製が入ったケースを見せると、隊長は仰天した。
興味を持った他の兵士達も寄って来て、自分達もこんな立派なカブトムシは見た事が無いと口々に言った。

「こんなカブトムシは滅多に居ないとは思いますが、もし仮に他の人が先に申請してしまったら発見者が私達では無くなってしまいます」

リベール国内での新種の発見者の公告は、王都の歴史博物館が行っており、偶然にも数時間、博物館への到着が遅かっただけで負けてしまった話は広く知れ渡っている。
兵士達の中にもエステル達を通してあげた方がいいのでは、と同情的な声も上がった。
悩んだ末に隊長は、アルバ教授の身分の確認が取れたので、エステル達の通過を認めると決定を下した。
兵士達からも隊長の粋な計らいに歓声が上がる。
応援の声を背に受けて、エステル達は隊長の気が変わらないうちにさっさと関所を通り抜けてしまう事にした。

「まさか、そんな物が役に立つとは思わなかったわ」

アスカは少しあきれたような表情でつぶやいた。

「だけど、本当に新種なんですか?」
「残念ながら多分、異常な個体だと思われますけどね」

シンジが尋ねると、アルバ教授は落ち着いた声でそう答えた。

「別に新種じゃ無くても構わない、だってこれはヨシュアとの大切な絆だから」

エステルは嬉しそうな顔でカブトムシの剥製が入ったケースを抱いた。

「虫が絆だなんて、どう言う事よ?」
「ちょっと、色々あってね」

不思議そうな顔をしたアスカに、ヨシュアはごまかし笑いを浮かべた。

「シンジ、アタシは思い出の品が虫だなんて絶対に嫌だからね」
「いったい何の心配をしてるんだよ」

シンジはアスカにあきれ顔で答えた。



<ツァイスの街 遊撃士協会>

エステル達と別れたアガットとティータは、夜の街道を歩いてツァイスの街へと帰った。
疲れが溜まっていたティータを遊撃士協会のベッドで寝かせ、アガットは受付でキリカと今後の行動について話し合った。

「セントハイム門から封鎖の通告。理由は女王生誕祭でテロ行為を企む者がいるらしいとの事で、遊撃士協会にも協力の要請があったわ」
「要塞からの脱走を知って手を打って来やがったか」
「ええ、だから事態が長期化して他の関所の通過も制限されるようになる前に、あなた達にはこの街を出てルーアンへと向かって欲しいのよ」
「分かった、だがどうしてルーアンに行かなきゃならねえんだ?」

アガットが疑問をぶつけると、キリカは少し間を置いてからゆっくりと答える。

「ルーアンに、ティータと同じようにリシャール大佐達に狙われてしまう恐れのある人物が居るのよ。クローゼ・リンツ、ジェニス王立学園の学生よ」
「何でリシャール大佐に狙われるんだ、大貴族の娘だからか?」
「彼女の正体はアリシア女王陛下の孫娘、クローディア姫よ」

キリカが続けてその人物の詳しい素性を話すと、アガットはショックを受けた表情になる。

「マジかよ……」
「彼女が親衛隊が反乱を起こしたと聞いたら、自分から王都に向かおうとするかもしれない。でもそれこそリシャール大佐達にとっては『飛んで火に居る夏の虫』だわ」

キリカの言葉を聞いて、アガットは息を飲んだ。
そこまで情報を利用するとは、リシャール大佐はかなり頭の良い人物だと実感させられた。

「だけど、彼女はツァイスの遊撃士協会に姿を見せていない。彼女はエステル達と親しかったから、遊撃士を頼ってこの遊撃士協会に来るはず」

キリカはアガットを落ち着かせるように話した。

「なるほど、俺達が行けば間に合うかもしれないって事だな」
「油断はならないけどね。ルーアンで彼女を保護した後の指示は、ジャンと相談して決めて」
「分かった」

共和国から数年前にやって来たキリカよりも、ルーアン育ちジャンの方が地理に長けているのは当然の判断だった。
作戦がまとまった所でキリカはアガットにも朝まで休むように勧めた。
急いでいるが、ティータにも無理をさせるわけには行かないからだ。
アガットのような体力自慢の遊撃士は、単独なら数日の徹夜も平気だと油断してしまうが、それは落とし穴だ。
徹夜をしていた若い男性が、体の調子を崩して倒れてしまうのはあり得ない話ではない。
アガットが2階の部屋へと立ち去り、1人になったキリカは深いため息をついた。
リシャール大佐達がエヴァンゲリオンと呼ばれる兵器を使って何をしようとしているのか、キリカにも理解できない。
だが帝国と共和国にとっては脅威となる存在であり、実用化される前にリベール王国に侵攻しまおうと考えを持たれてしまってもおかしくないと考えていた。
リベール王国の平和を考えているのなら逆効果だと、リシャール大佐は気が付いていないのだろうかと、キリカにはそれが一番の疑問だった。



<ボース地方 霧降り峡谷>

紅蓮の塔の屋上でエステル達を降ろした後、ジョゼット達の山猫号はボース地方へと向かっていた。
王都に居るリベール空軍を引きつけるにはこの空域が効果が大きいと判断したのだ。
帝国との国境が近いこの場所では、帝国を刺激する事を恐れて大編隊を組んで追いつめる事も出来ないだろうとジョゼット達は考えた。

「よし、まずは俺達のアジトに行くか」

ドルンの意見に反対を唱える者は居なかった。
エステル達の話によると、ドルン達が捕まった後、アジトだった砦は人の気配が全くしなかったと言う。
それならば、また自分達がアジトとして使う事も出来るとドルンは判断したのだ。

「こうも敵影が見えないと、張り合いが無いよね」

自分達がレイストン要塞を脱走した情報は伝わっているはずなのに、リベール軍の警備艇が現れない事にジョゼットは退屈そうにため息をついた。

「まあ、追撃の準備を進めている最中なのかもしれないぜ?」
「ガハハ、受けて立とうじゃねえか」

キールの言葉を聞いたドルンは豪快に笑った。
見張りをしていたジョゼットは、晴れた霧の合い間に小さな赤い飛行艇が、山猫号の進路を塞ぐように現れたのを見つける。

「何アレ、リベール軍の飛行艇じゃ……ない?」

ジョゼットが困惑していると、その赤い飛行艇は山猫号に向かって機銃攻撃を仕掛けて来た!
ドルンが間一髪、船体を傾けてエンジンへの直撃は免れたが、銃弾が船体をかすめ乗組員達の悲鳴が上がる。

「お前ら、船体が揺れても大丈夫なようにしっかりつかまっていろ! ジョゼット、こちらも機銃の用意だ!」
了解(ラジャー)!」

ドルンの命令にジョゼットは元気一杯にそう答えた。
空での戦いは地上戦と違って、不意をつける場合以外は、お互いに正面を向き合って撃ち合うと言う事はしない。
相手の死角を突いて撃墜するのが普通である。
だから山猫号もまずは距離を取って相手の死角に周り込む事にした。
急旋回をした山猫号は、相手を引き離そうとトップスピードまで加速する。
時速200――300――400――500セルジュ。
霧降り峡谷を抜け、ロレント近郊まで飛んだ山猫号からは、あの赤い飛行艇は豆粒の様に見えるはずだ。
ドルン達はそう思っていたが、赤い飛行艇がすぐ後ろにまで食らいついて来ているのを見て目を丸くした。

「そ、そんな、山猫号のスピードに着いて来れる飛行艇があるなんて!」

ジョゼットは驚いて、開いた口が塞がらなかった。
後ろに着いて来た赤い飛行艇は再び山猫号に機銃を攻撃を仕掛けて来たので、ドルンは船体を横に滑らせるように急加速させて攻撃を交わした。
赤い飛行艇が機銃攻撃を仕掛ける――山猫号が急加速をして交わす。
それが何度も繰り返された。

「ちくしょう、相手の機体のスピードは山猫号と互角かよ」
「ヤバイな、このままだとこっちの導力エンジンの方が先にエネルギーが尽きちまう」

キールとドルンのつぶやきで、山猫号に乗っていた手下の空賊達にも絶望感が漂った。
しかしジョゼットは励ますような口調でドルンに呼びかける。

「諦めないでよドルン兄! 『サマーソルト・ハーフターン』があるじゃないか!」

サマーソルト・ハーフターン(※造語です)とは、空中で宙返りをして、背面飛行をしている途中で横に回転し機体を水平に戻す大技である。
宙返りを中止すると言う、下手をすると失速して墜落してしまう危険な技なのだが、昔ドルンはそれを余裕を持って成功させていた。

「だけど、今はあの頃とは違って山猫号にはコンテナも載せてあるし、手下達だってたくさん乗っているじゃねえか」
「でも、相手の後ろに回るにはそれしか方法が無いんだよ!」
「このまま我慢比べをしても、相手の導力エンジンのエネルギーが先に切れるって保障は無い、賭けに出るべきじゃないか?」

弱気になったドルンに、ジョゼットとキールが声を掛けると、ドルンも腹をくくったような表情になる。

「よおしお前ら、全員振り回されないようにベルトを締めろ!」

手下の空賊達も返事をして山猫号のパイプや手すりなどに備え付けられたベルトに体を固定させた。
山猫号は乱気流の中を飛ぶ事があるので、どんなに船体が回転したりしても耐えられるようにベルトが備えてあるのだ。

「ふふっ、ドルン兄の腕前を見たらあの赤い飛行艇のパイロットも度肝を抜かすよ」

ジョゼットは期待に目を輝かせてつぶやいた。
そしてドルンは敵の攻撃の間を見計らって山猫号に宙返り飛行の体勢に入った。
ジョゼットは後ろを飛ぶ赤い飛行艇も同じように宙返りに入ったのを見て、相手がドルンのワナに掛かったと心の中でガッツポーズを取った。
山猫号は背面飛行をすると見せかけて機体を水平に戻す。
赤い飛行艇は宙返りをそのまま続けて、山猫号の前に押し出される――はずだった。

「そ、そんな馬鹿な!?」

旋回を終えてもピタリと山猫号の後ろに着いている赤い飛行艇にジョゼットは驚きの声を上げた。
相手は機体の性能だけでなくパイロットの腕も負けてはいなかったのだ。
そしてドルン達はリベール空軍の警備艇が全く追う気配を見せず、この赤い飛行艇が待ち受けていた意味を理解した。
リシャール大佐達は山猫号を倒すための刺客を送り込んでいたのだと。

「どうやら、相手の作戦の方が何枚も上手だったみたいだな」
「エステル、アスカ……!」

絶望的な顔でキールがつぶやくと、ジョゼットは自分達の命運よりも遠い王都に居るエステル達の身がとても心配になった……。



<ルーアン地方 ジェニス王立学園>

王都から離れたルーアンの学園で生活を送るクローゼは、祖母であるアリシア女王から自分の出した手紙の返事が来ない事に不安を感じていた。
クローゼは正遊撃士になると言う目標に向かって突き進むエステル達の姿を見て、自分も将来国政を担う者として逃げてばかりではなく向き合おうと決意した。
しかしエステル達が去って再び孤独を感じてしまったクローゼは周囲に弱音をもらす事も出来ず、アリシア女王へすがってしまうような内容を書いた手紙を送ってしまったのだ。
手紙を出した後、クローゼは激しく後悔した。
そして、何日経っても返信が来ないのは自分の手紙が祖母を怒らせてしまったのでは無いかとクローゼは自分を責めていた。

「私はまだ逃げ続けている……」

学園でクローゼが王女である事を知っているのは、学園長とマーシア孤児院のテレサ院長だけだ。
だから普通の娘として生きて行くには心地良い環境だった。
クローゼが悲しそうな表情をしていれば、学園の友達や孤児院の子供達は同情して慰めてくれるだろう。
でもそれは自分の責務から目を反らして生きて行くのと同じだった。

「シンジさん、あなたなら何と言って下さいますか……?」

クローゼは自分の胸の中に居るシンジに問い掛けた。
穏やかな笑顔で自分を優しく慰めてくれた後、シンジは真剣な表情になり『逃げちゃダメだ』と話し掛けてくれたと、クローゼは想像する。

「そう、逃げてばかりではいダメなんですよね」

クローゼはそうつぶやくと、遠出の準備を始めた。
王都に行き、祖母に自分の手紙での非礼を謝り、自分の決意を伝えるのだ。
学園長に事情を話して長期の休学を申し出ると、学園長もクローゼの決意にほだされて休学の許可を出した。
導力通信機が故障中で王都に連絡をする事が出来ないと謝る学園長に対して、クローゼはルーアンかツァイスの街から連絡を取るから構わないと答えた。
連絡と言えば、数日前から白ハヤブサのジークの姿が見えない事も、クローゼは少し心配だった。
でも学園に自分が居ない事を知れば、ジークも王都に向かうだろう。
クローゼはそう考えて、ジェニス王立学園の正門を出た後、校舎の方を振り返る。
2度と自分は帰って来る事が無いかもしれない。
そう思うと、急に学園生活が恋しくなった。
しかしクローゼは首を大きく振って未練を払い落した。
校舎に背を向けたクローゼは、背筋を伸ばして凛とした表情でヴィスタ林道をしっかりとした足取りで歩き始めた。



<グランセルの街 遊撃士協会>

セントハイム門を抜けたエステル達は、途中で街道を警戒中の兵士達に呼び止められたりしたが、王都までたどり着いた。
街では普通の兵士の他に、黒装束の兵士達が巡回をしていた。
そして何よりも違和感を覚えたのは、街に人通りが全く無い事だった。

「どう言う事、誰も外を歩いていないなんて?」
「きっと夜間の外出を禁止する命令が出されているんだよ」

不思議そうにつぶやくエステルに、ヨシュアが引き締まった表情で答えた。
街の入口で警戒に当たっていた兵士に王都に来た目的を説明する。
すると、黒装束の兵士達がエステル達の側にやって来て、夜間に出歩く事は禁止されており、それは遊撃士も例外ではないと告げられた。

「でも、アタシ達はアルバ教授を歴史博物館まで送る依頼を受けているのよ!」

アスカが詰め寄ると、黒装束の兵士達は自分達が代わりにアルバ教授を送り届けると答えた。

「ではお願いします」

さらに言い返そうとしたアスカをシンジが押し止めている間に、ヨシュアがそう言った。

「それでは、このカブトムシの剥製はお預かりしますね」
「新種だったら、すぐに教えて!」
「はは、あまり期待し過ぎないで下さい」

念のため、エステルはアルバ教授にカブトムシの剥製を預ける事にしたのだ。

「往生際が悪いわね」
「夢を見る事も大切よ」

アスカが冷めた目で言うと、エステルは目を輝かせてそう答えた。
アルバ教授と別れたエステル達は、黒装束の兵士達の指示通り遊撃士協会へと直行した。
グランセル支部の遊撃士協会の受付でエステル達を迎え入れたのは、女性と見間違えてしまいそうな線の細い金髪の青年だった。

「あの、こんな夜遅くにすいません、あたし達ツァイス支部から来たんですけど……」
「はい、キリカさんから話は聞いています。私はグランセル支部の受付をしているエルナンと申します」

エステルが声を掛けると、受付に立っていた金髪の青年は爽やかな笑顔を浮かべて自己紹介をした。

「エルナンさん、外を歩いている黒装束の兵士達って?」
「彼らはリシャール大佐が新設した部隊で、『自衛隊』と名乗っています」
「自衛隊!?」

シンジの質問にエルナンが答えると、アスカは驚きの声を上げた。
エルナンの説明によると、リシャール大佐は他国に侵略するためでは無く自国を守るための部隊だとアピールするために命名したらしい。
王都では空賊ハイジャック事件などを解決したリシャール大佐の人気は高く、さらにまた空賊が脱走した事が報じられると、活躍を期待されているようだ。

「ナイアルさん達も、全国紙のリベール通信でこんな記事を書いちゃって、リシャールさんは空賊を利用しているだけだって分からないの!?」
「分かっていても書けないのかもしれないよ」

怒ったアスカをシンジがなだめた。

「それであたし達が王都に来た目的なんですけど……」

エステルはキリカが盗聴を恐れて導力通信で話せなかった、アリシア女王に面会をしなければならない事情について説明を始めた。

「なるほど、あなた達がリシャール大佐の顔見知りだとは言え、アリシア様に面会を申し込んでも断られるでしょう」
「それならやはり、城に侵入するしか方法が無いようですね」

話を聞いたエルナンが断言すると、ヨシュアは自分の考えを述べた。

「しかし、城に潜り込む事が出来ても、アリシア様がいらっしゃる女王宮には、アリシア様の身の回りの世話をする者以外の立ち入りが許されていません」
「でも、アタシ達は女王様に直接会って話したいんです!」

エルナンの言葉を聞いたアスカは、強くエルナンに訴えかけた。
すると、エルナンはエステル達の顔を値踏みでもするかのように、つま先から頭のてっぺんから見回した後、確信したようにうなずく。

「あなた達なら、多分大丈夫ですね」
「もしかして、女王様に会うための方法を思い付いたの?」
「はい」

エステルの質問にエルナンが笑顔でうなずくと、エステル達は歓声を上げた。

「あなた方4人には、女王宮に仕えるメイドになって頂きます」

エルナンがサラリとした口調でそう言うと、硬直したシンジとヨシュアは同じタイミングで絶叫を上げたのだった。
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