広島県府中町と広島市南区にまたがるマツダ本社工場で2010年6月、社員ら12人が暴走車にはねられて死傷した事件で、殺人や殺人未遂などの罪に問われたマツダの元期間従業員の引寺(ひきじ)利明被告(44)に対する裁判員裁判の初公判が26日、広島地裁であった。引寺被告は「8人目までは認める。(死者を含む)9人目以降は覚えていない」と述べ、起訴内容の一部を否認した。判決は3月9日。
引寺被告は10年6月22日午前7時半ごろ、マツダ本社工場東正門を自家用車で突破。時速40〜70キロで暴走させ、1人を死亡、11人に重軽傷を負わせたとして起訴された。暴走させた時間は8分ほどで、車内に出刃包丁も隠し持っていたとされる。
被告の罪状認否後に意見を求められた弁護側は「当時は心神喪失状態だった」と無罪を主張。責任能力が認められた場合の主張として「車を人にぶつける行為は殺人にあたらず、傷害致死か暴行の罪が適用されるべきだ」と述べた。
検察側は冒頭陳述で、捜査段階の精神鑑定で完全責任能力を認める結果が出た▽人通りの多い出勤時間帯を狙った――とし、刑事責任を問えると主張。動機について「同僚から嫌がらせを受けたと思い込み、秋葉原での無差別殺傷のような事件を起こせばマツダの評判が地に落ちると思った」と述べた。さらに、事件後に知人に「どうせ死刑。わしは秋葉原を超えた」と話したとし、殺意を裏付けるものだと主張した。(中野寛)