先日ニール・ヤングが「最近の音楽の”音質”には腹が立つ」と言っていた。
ニール・ヤング曰く、マスターの非圧縮音源に対してmp3での情報量は
なんと5%にしか満たないと言うのだ。(あ、ニール・ヤング談ね)
「いや、あんたの時代とは違うからwww」と言いたい所もあるが
もちろん言わんとする事は僕も十分わかる。
が、これはそう簡単には解決できない、実はかなり根が深い話しである。
おそらくユーザーも「これでいい」とは別に思ってないんだとは思う。
でも5メガと50メガではやっぱり10倍違う訳だから
全ての曲を非圧縮で保管し聞いてくれというのはさすがに難しい。
圧縮メディアが無く、もしもダウンロード系も非圧縮で販売していたとすると
iTunesも含め、ここまで発展していたかどうかは若干疑問にも思う。
携帯を使い、パソコンを使う僕たちが、こと音楽に関してだけは
テクノロジーを否定するのは本末転倒だと思うし、かくゆう僕も
制作側であるにもかかわらず、やっぱりiTunes Storeは使うもの。
その時代に対応するメディアやその時代に求められる形態になっていくのは
至極当然の事だと個人的には思います。
ただ...
その音質を「当たり前」として聞いてきた人達が時代を席巻した時、
つまり「作り手側」ですらその音で育ってきた人達になった時、
そこには明らかに今とは違う何かに変わっているんだろうな、と思います。
あくまで余談なんですが、このニール・ヤングのコメントを見た時
僕は以前友達と話した事を思い出しました。
ものすごく興味深い話しだったので書いておきます。
現在スフィアバンドでバンマスをしてくれているギターの平井君と
以前何気ない話しをしている中で、このmp3の話しになりました。
平井君は毎年ソロアルバムを出しているそうで、その時も例年により
新しいアルバムを制作し、いつもの様に出来上がりを聞いていたそう。
でも何かわからないんだけど、フと自分で違和感を感じたそうなのだ。
しかし演奏もちゃんとしてる。 音もいつも通りだ。
でも、「妙な違和感」が消えなかったのでそれまでのアルバムと
今回のアルバムをじっくり聞き比べたらしい。
すると、1つだけハッキリわかったのは。。。
「自分がダサくなっている」という事なのだ。
プレイもちゃんとしてて、音もいつも通りなのに、
自分の「出音」自体がダサくなってる事に気づいた。
そこで平井君は「なぜそうなってしまったのか」を突き詰める。
実は平井君のアルバムは、これまたうちのサポートで来てくれている
ドラムの外園さんのスタジオで制作しており
最初からスタジオも一緒、エンジニアも一緒、セッティングも一緒で
機材やアンプは当然自分のだし、なんならケーブルまで一緒な訳だ。
今回特別変わった事は何も無く、唯一「自分のプレイ」だけが変わったのだ。
おかしい。。。 絶対におかしい。。。
なんだ・・? 何が悪い・・・??
1つ1つ順番に、色んな面も含め突き詰めていった結果、
平井君はこの「mp3」という所に辿り着いたそうだ。
この話し自体は何年か前の話しなんだけど、その当時はiTunesも流行りつつ
平井君もやっぱり便利なので、山のようにあったCDを全部iTunesに入れ
いつもそれで聞いていたとの事。
そこから1年2年が経ち、気づかぬうちに少しずつ
自分もその音に慣れてきた「事にも」気づかなかったという。
そこに至った平井君が一番最初に思った事は
「このままではミュージシャン生命が終わる、、、」
と思い高っかいスピーカーやアンプやプレーヤーなどをもう一度買いそろえ
部屋の真ん中にそのセットを組んで、隣にある今までのシステムとを
ブラインドしながら同じ物を再生し聞き比べてみた所、
改めて彼は「今までこれを聞いていたのか...」と恐くなったらしい。
それ以来平井君は夜中に帰ってこようと、どんなに疲れていようと
毎日寝る前にはそのスピーカーでCDを1枚分聞いて耳を元に戻すそう。
もちろん仕事の素材の確認やリハ音源など「確認用」としては
今もiTunesは便利だし使うのだが、「音楽」として聞かないそう。
それを繰り返してきたおかげで「やっと少しずつ元に戻ってきたんですよぉ」
と言っていた。
この時平井君が感じた恐怖というのは僕もよくわかる。
だってさ。 ミュージシャンてさ、結局「出音」だもんね
いや、上手いとか下手とかも重要な事であり、絶対的な線はあるけども
結局ミュージシャンなんて最後は「その人から出てくる物」
が、カッコいいかカッコ悪いかだけだもんねw
スティービーワンダーが「ネコ踏んじゃった」弾いても多分カッコいいもん。
ミュージシャンにとって「自分がダサくなっていく」という以上に
恐怖する事って多分無いんじゃないかな。
安い音や大事な物をバッサリカットされた音で慣れてしまうと
自分の音作りはもちろん、良いとする「判断」までそこに至るそう。
ギタリストなんて特にアンプからの出音を聞いた上で
音や強弱やプレイを調整してる訳だから、
その微妙なニュアンスが全くわからない音で慣れてしまうと
結局自分までザックリした人になっちゃうんだね。
圧縮の技術もどんどん上がってるので、確かに昔に比べたら
mp3などの音も向上はされているんだろうとは思う。
でも結局「大切な部分」をカットしている事実には変わりなく
ローエンドやハイエンドに含まれる「空気」や「テンション」が
音楽という形の無い物にいかに影響するかという事は決して忘れてはいけない。
圧縮を簡単に言うとこういう事なんじゃないかな。
あ!そうそう、あのね、昨日ねバイトの帰りに聡美と表参道でご飯したの〜^^
圧縮後
昨日聡美とご飯したの
内容は伝わっている。 「余分な物」をカットしただけ。
それを「余分」とするかどうかは各個人の好みになるのかもしれないが
でも僕はそれを話している「雰囲気」や「顔」が見えた方が好きだ。
この問題はしばらく続くだろうなあ。。。