|
きょうの社説 2012年1月25日
◎「昇龍道」構想 北陸を売り出すアイデア
日本海に突き出た能登半島を龍(りゅう)の頭に見立てて、北陸と東海を結ぶ観光ルー
トを「昇龍道(しょうりゅうどう)」として売り込む取り組みが始まる。国交省中部運輸局が音頭を取って、石川、富山、福井など9県の自治体や観光団体、観光事業者が参画し、勢いのある龍にあやかって知名度向上を目指す。狙いは龍を尊ぶ中国、台湾、香港からの誘客で、能登を龍の頭に見立てて「昇龍」に例えた目の付け所が光る。北陸はかつて裏日本と呼ばれ、表日本と言われた太平洋側から後背地のように意識され る傾向もあった。その中でも、行き止まりの能登半島には「最果ての地」というイメージがある。小説の舞台になり、秘境として観光客を集めたこともあったが、その能登が「昇龍道」構想では「頭」と位置づけられることになった。昇龍の勢いに乗って能登や北陸各地を力強いパワースポットとして売り出す好機にしたい。 加賀地区では、米国の人気歌手レディー・ガガさんの名をもじった「レディー・カガ」 が温泉地の知名度を一気に上げている。旅館や飲食店などで働く女性を集めてレディー・カガと名付け、インターネットで公開した動画が全国で人気を得た。当事者たちが驚くほど話題になったことで、加賀の4つの温泉地に活気と一体感が出る効果もみられる。 加賀温泉郷だけでなく、北陸の各地も、きっかけ一つで注目を集める可能性を秘めてい る。豊かな自然や文化、味覚、温泉など観光の材料には事欠かない。縁起のよい昇龍のイメージを生かして人々を元気にするような話題をつくれば、昭和の能登観光ブームのような勢いを生み出すことも夢ではなかろう。 「昇龍道」の構想には、中国や台湾、香港などの中華圏から中部空港に観光客を呼び込 む狙いがあるようだが、国内向けの誘客宣伝にも役立つ。工夫次第で東海から北陸に人を送り込む仕掛けにもなるであろう。北陸の各地で、龍にまつわる伝説に光を当てたり、龍にちなむ物語をつくって、パワースポットのように人を呼び寄せるといった取り組みが次々と生まれることを期待する。
◎野田首相施政方針 胸に響かぬ不退転の決意
野田佳彦首相は初めての施政方針演説で、内閣発足当初からの国政課題を列挙し、これ
らの課題に「不退転」の決意で取り組む意思表示を繰り返す一方、野党に対して消費税増税の協議入りを強く呼びかけた。衆参ねじれ国会で機能不全の政治を何とか動かしたいという首相の意欲がにじむ演説だが、国民の胸に響き、気持ちを奮い立たせるような内容に乏しく、大震災後の「新しい日本」の姿や、課題解決の道筋が見えないのは残念である。野田首相は、ねじれ国会に苦しんだ自民党の2人の元首相の施政方針演説を引用して、 「決められない政治」からの脱却や社会保障と税の一体改革の協議に野党が協調するよう求めた。演説冒頭から「大きな政治」とか「決断する政治」「政局より大局を見据えて」などと、政治のありようを説いたのは異例である。 課題を先送りしないという首相の決意を示すものである。が、政治の理念は正しいとし ても、デフレ下の消費税増税など誤りのある政策協議に野党が加わるとは思えない。与野党協調を望むのなら、まず野党時代の民主党自身の対応ぶりに対する反省の弁もあってよいのではないか。 大震災からの復旧・復興、原発事故の収束、経済再生はいうまでもなく待ったなしの課 題であり、今年は「日本の正念場」という認識もその通りである。そうであればなお、政策のスピード感が重要ながら、企業競争力と雇用創出を両輪に経済全体を再生させる具体的な戦略と工程表の策定は年央という。また、原発を含め、これからの経済社会のあり方を方向付けるエネルギー計画の策定も夏まで待たなければならない。 今国会は衆院解散をめぐる与野党攻防がこれまで以上に激化し、複雑さも増すとみられ る。このため、増税を柱にした社会保障政策や経済政策などの与野党協議はまったく不透明であるが、国家公務員給与の引き下げ法案や独立行政法人、特別会計改革などの行政改革、政治家自身が身を切る衆院定数削減などの改革には「決断する政治」を見せてほしい。
|