一歩ずつ慣れ親しんだマウンドへ近づく。登板時の入場曲だったGReeeeNの「道」が流れ、観客が手拍子で迎える。レンジャーズカラーの青を基調としたスーツ姿で現れたダルビッシュは、穏やかな表情で特設ひな壇に着席した。
「メジャーを選んだ理由は、一番にファイターズのファンの前で言いたいと思っていて、球団の人にも言っていません。きょうはここでしっかり言いたいと思いますので聞いてください」
約20分間の質疑応答で語られた本音。ファンに語りかけ、米国での入団会見でも明かさなかったメジャー移籍の真実、理由を初めて口にした。
「一番の要因は、僕は野球選手であって、相手打者を倒したい、と強い気持ちで向かっていくのが好き。それが仕事だと思っています。その相手球団の選手から『このカードで投げないで』『無理だよ』『打てない』と冗談でも聞いていて、フェアな対戦をしていないのでは、というのがひっかかっていた」
全球、全力勝負を求めるダルビッシュに対し、対戦相手からの“白旗宣言”に戸惑いを隠せなかった。具体的な時期は明言しなかったが自然と「モチベーションを保つのが難しかった。仕事をする上で、場所を変えないといけない」と思ったという。
日本、そしてプロ野球、ファンを愛する。2007年9月に出演したスポーツ番組で「メジャーに行くぐらいなら、野球をやめます」とまで語ったこともある。「その気持ちは今でも変わっていない。でも僕は勝負がしたいんです。相手が『絶対倒してやる』という気持ちできて、初めて勝負が成立すると思うんです」。投手としての激しい闘争本能が、大きな背中を押していたのだ。
「日本人の評価がアメリカでも低くなって、日本の野球が下に見られるのもすごくイヤ。それも(理由に)重なった。世界中のだれもが、ナンバーワンの投手はダルビッシュと言ってもらえるような投手になりたい」
メジャーを代表する右腕には完全試合男で2度サイ・ヤング賞に選出されたフィリーズのロイ・ハラデー(34)、昨季24勝、防御率2・40、250奪三振で3冠に輝いたタイガースのジャスティン・バーランダー(28)らが君臨するが、力強いセリフに会場は沸いた。
最後は目を赤くしたまま、スタンドに向かい4回頭を下げ、ファンに別れを告げた。日本最高峰投手、ダルビッシュが新たな挑戦に向け、“けじめ”をつけた。
(紙面から)