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1994年度 松下政経塾報1994年度 松下政経塾報

1995年1月

無税国家をめざして

玄葉光一郎/松下政経塾第8期生
 私の理想は「無税国家」である。
 理想に少しでも近づけたい心は絶対に失いたくないと自分に誓っている。だから、このたびの税制改革におけるさまざまな過程の中で、私(新党さきがけ)は、消費税1%分(約2兆4千億円)を行財政改革によって生み出すことを主張した。結果的に数値目標は設定できなかったが、実際に消費税1%分の余剰が生まれれば、1997年(平成9年)の消費税引き上げ時には「5%維持」どころか「下げる」ことも可能になる。

  1. 今年と同規模の5兆5千億円の所得税・住民税減税を続けるが、1995年(平成7年)から税率区分見直しによる制度減税(3兆5千億円)と暫定的な特別減税(2兆円)の「二階建て」方式とする。
  2. 消費税率は1997年(平成9年)4月から5%に引き上げる。
  3. 地方消費税を新設し、5%のうち1%分を都道府県の自主財源に充てる。
 以上を主な内容とする税制改革が平成6年に決まった。

 私は与党税調のメンバ−として、今次の税制改革案づくりに、ほぼ一部始終参画した。

 初めから制約があった。まず5兆5千億円の減税実施が先行していたこと。そして、平成6年中に税制の抜本改革を行うことを法律の付則で決めてあったこと。
 従って、将来における福祉の財政需要や行政改革による歳出削減規模の議論は追いつかない。財政運営に無責任は許されず、現在の流動的な政治状況で担保なしに減税のみを行えば、双子の赤字に苦しむアメリカの二の舞になるだろう。
 そのような状況下においては、やむを得ない結論だったと考えている。

 しかし、内心じくじたる思いがある。松下幸之助塾主の「無税国家論」を学んだわれわれが消費税の増税案を作成したということに対してである。現在、野党になっている松下政経塾出身議員にしても同じことと思う。
 言うまでもないことかもしれないが、今回の税制改革案が国会で比較的スム−ズに成立し、しかも国民の理解が得られやすかった背景には、細川政権時の7%の国民福祉税構想があった。それより税率を低く抑えた案に野党は反対しにくく、また、与党税調も、最初に7%より低く抑えることありきだった。

 今回の税制改革案に対しての論点は多い。社会党の公約違反。2階建て減税による税負担格差。消費税の益税。自然増収の見通し。5%の根拠などなど。さまざまな角度からの指摘も可能なことだろう。案づくりに加わったメンバ−として、1つ1つ私見を申し上げたい気持ちになるが、これらの点より、われわれ松下政経塾関係者や松下政経塾に関心をもっていただいている読者の方々にとって、最も大切な論点は「見直し規定」という問題だと考えている。

 「見直し規定」とは「消費税率及び地方消費税率の水準については、福祉その他の社会保障等に真に必要な費用の財源を確保する観点、行財政改革の推進状況、租税特別措置等および消費税制度にかかる課税の適正化、財政状況等を総合的に勘案し、必要があると認めるときは、施行期日の6カ月前(平成8年9月30日)までに所要の措置を構ずる」という規定である。

 つまり、今後のあるべき福祉社会とはどのようなものなのか。その中で、税で負担していく部分はどの程度になるのか、これらについての国民的合意があるわけではない。また行財政改革によって削減できる額も現時点において判断できない。これらについて2年後までに回答を出し、さらに、景気動向、消費税の益税解消状況、租税特別措置見直しによる増収などを見極めて、消費税率を確定するということである。
その結果、1997年4月に消費税率が引き上げられる際に、税率が5%より、上げられるかもしれないし、下げられるかもしれないのである。
 率直に申し上げて、「上がる」ことを想定する論者が多い。年金や介護保険の問題など次から次へとふりかかる社会保障への歳出増加要因を考えてのことだ。

 ここは踏ん張りどころである。適切な経済政策による景気好転から生じる税収増加を狙うことは無論であるが、われわれは、行財政改革の断行による大幅な歳出削減を目指さなければならない。
 「無税国家の構想」とは次のようなものである。(1)国家予算の単年度制を廃止し、(2)経営努力により、国家予算の何パ−セントかの余剰を生み出し、積み立てる、(3)積み立てた資金を運用し、(4)金利収入によって国家を運営する。(「斎藤精一郎編『増税無用論』から)
 このことが、われわれに発信しているメッセ−ジの1つは、大胆な発想転換による財政改革と行財政改革を断行せよということである。

 冒頭に述べたように、私は今回の税制改革案づくりの過程で、消費税1%分(約2兆4千億円)を行財政改革によって生み出すよう主張した。村山政権樹立に関する合意事項(3党合意)にもある「税制改革の前提として行財政改革を断行する」ことだ。与党が政治のリーダーシップを発揮して平年度約2兆4000億円の歳出削減を目標とする基本方針をうたうべきだと考えた。
 具体的には「特殊法人の統廃合・事業整理・民営化など」「新型国債の発行による償却負担の軽減」「行政組織の整理・合理化・定員削減など」「縦割り行政の弊害の除去」・・・・などが考慮されうるものとして示した。
 これらの行財政改革を断行することにより、実際に消費税1%分の余剰が生まれれば、1997年の引き上げ時には、あるべき福祉社会のあり様にもよるが「消費税を下げる」ことも可能になると考える。
 今後2年間の重くて大切な宿題を背負った税制改革であった。


  ◆げんば・こういちろう 昭和39年5月20日生まれ 30歳 松下政経塾8期生 上智大学法学部卒
 衆議院議員(1期目 旧福島2区選出)新党さきがけ/前福島県議
【連絡先】▼福島=電話0247・82・2888 FAX0247・82・5604
 ▼東京=電話03・3508・7252 FAX03・3591・2635
1995年1月執筆
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