自転車問題に社会の関心が高まり、ブレーキが付いていないピスト(競技用自転車)の摘発も相次ぐ。自転車の安全な走行をどう実現するか。元競輪選手で世界選手権スプリント10連覇の実績を持つ中野浩一さん(56)に聞いた。【北村和巳】
「高速で固まりになって争う自転車競技は急に止まると追突される。そのため、こんな仕組みになっている」。中野さんがそう解説するピストは、ペダルと後輪の回転が一致する固定ギアが特徴で、ブレーキはなく脚力でペダルの動きを止め停止する。このため制動距離は伸びる。
だから、停止する機会が多い街中では逆に危険になり、中野さんは「前後輪へのブレーキ装着は必須だ」と説く。ブレーキを付けずにそのまま公道を走れば道路交通法違反となり、警視庁は11年10月までに制動装置不良で842件を摘発。前年1年間の661件を上回った。
競輪選手も公道はブレーキを付ける。格好良さだけでブレーキをつけない行為について、中野さんは「ルールを守って自転車競技の練習をする高校生たちが誤解されて迷惑だ」と懸念した。
警察の取り締まり強化は歓迎する。ただし「これまで警察が自転車のことに対応してこなかったのが問題で、自転車は何をしてもいいという状況を招いた。道路の右側を走るなど気ままな走行がはびこる一因だった」と苦言も呈した。
このため「関心の高まっている今がルールを巡る教育を見直すチャンス」と強調。「子供の安全教育に参加する機会も多いが、車から身を守ることが中心で、自転車はどこをどのように走らないといけないのかの教えは不十分と感じる。学校や家庭で子供に教えられるよう、大人に自転車の危うい現状を理解させ、法律やルールを知ってもらうことが必要」と訴えた。
一方、「日本の道路は自転車が走れるように造られていない」とも指摘。自転車レーンなど走行空間の整備が進まず、あっても違法駐車がふさぐ状況を憂う。自転車を邪魔者扱いする車のドライバーの意識改革も必要だという。自身も現役時代、練習中にしばしば幅寄せされた。欧州の公道で練習した際は、脇道から出てこようとする車が自転車の通過をずっと待っていた。「日本も一定範囲で自転車だけの街をつくってみては。みんなが自転車に乗れば認識が変わる」と提案した。
==============
情報やご意見、体験談をメール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、手紙(〒100-8051毎日新聞社会部「銀輪の死角」係)でお寄せください。
毎日新聞 2012年1月23日 東京夕刊