【猫論】 がれきの下の被災猫8

  • 2011/07/06(水)

 同世代の人と話していて、たまに60歳になったときの未来図の話なんかになると内心「そんな先のことはどうでもいいや」と思うことがある。僕は今まで場当たり的な人生を送ってきたが、とてつもなく楽しい日々を送ってきたと思っている。それは特に学校を卒業したあたりから始まっている。子供の頃に戻りたいなんてまったく思わないのは、自分の選択肢を持っていることへの喜びがあるからだ。親の保護のもとにいたときは引越し先だって選べなかったが、今では「ネパールに移住も悪くないな」とか思ったりする。

 本当にやりたいと思ったことは何でもやれる。焼肉を食べたいと思えば夜には食べに行けるし、ビリー・ジョエルを聴きたいと思えば今すぐCDを取り出せる。なんだそんな些細なことと思うかもしれないが、僕の人生は僕の選択でどうにでもなるし、その選択を手に入れる労力を惜しまなければいい…と思うと愉快だ。20年後に生きていれば20年後の僕が「その状況に応じて」自分の選択をしているだけだと思う。

 猫にも猫の選択肢があるが、ときにウチの猫たちは僕に何かをねだる。お腹がすいた、庭に出たい、おもちゃで遊んでくれ、抱っこしてくれ、撫でてくれ…と、ひとりじゃできないことも多い。おかげで僕は保護者としての喜びも感じるが、猫たちにとってもそれが当たり前の日常になっていて、大きなストレスを抱えているという風でもなく、願いが叶えばすぐに床にゴロンと横になって気持ち良さそうな顔をしている。

 一方、被災猫(通称キーちゃん)は日々、健康を取り戻した。片目は開けられないままだが、体格もふっくらし、毛つやも飼い猫なみにきれいになった。困ったのは元気になるにつれ自己主張が強くなったことだ。以前は顔をなでさせてくれたのに、エサを入れるときですら、うなって怒るようになっていた。まめにケージ内を掃除したり、エサの種類を変えて喜ばせたり、いろいろ世話をしているのだが、なつく姿勢はまるでなかった。生粋の野良猫は、自分の選択肢を強く持っている。

 風呂場のドアを開け脱衣所まで移動できるようにしたが、さらに出してくれと鳴くことが増えた。夜はうるさいのでドアを閉めたが、そうするとドアの防水用ゴムが引っ掻いた跡でボロボロになっていた。天気の良い日は庭の隅にケージごと出したりもしていたのだが、そうすると怖がって鳴く。ある日、思いきってケージのドアを開けて放置してみた。1時間ぐらいして様子を見に行くとケージ内に被災猫はいなかった。

「ああ、行ってしまったのか」と思っていたら、また1時間後ぐらいにはケージの中にいた。その間、どこに潜んでいたのかは分からない。でも、これを繰り返せば、また外の生活に慣れるかもしれないとは思った。心配なのは片目であること。視界に死角が出きて片側が明らかに見えていない風なことがよくあった。車に轢かれてしまうんではないか、とも思った。ウチの庭の前は道沿いではなく駐車スペースに来る車以外はいないから危険度は低いが、少し先に足を延ばせば車道には出る。こういう猫がどこでどのように食事できるのかも見当がつかない。見た目も悪いから人にエサをもらえる機会も少なそうだ。首輪を付けておけば、人に意地悪されることもなく、何かあったら連絡が来るようにはできるかと、取り付けを何度か試みたが、キーちゃんはかなり怒ってダメだった。

 そんな中、クッキー行方不明の知らせもあって、保護すること自体についていろいろ悩んだ。起こったことは仕方ないが、あの子猫は保護するべきではなかったというのが僕の結論だ。また外で生活するなら生まれ育った場所にいればよかった。猫によっては保護されることが良い選択ではないことがある。自活することをいろいろ学ぶ幼少時の行動を奪ってしまったことは責任を感じる。猫は人ではなく場所になつく動物で、縄張り以外の場所で他の猫と喧嘩になり、血まみれになってしまうケースも多々ある。今さら外に出てみたその世界がクッキーの運命を左右するのだと思うと心が痛い。野良でいるよりはと保護したが、例え食に不自由してもそっちが彼女の生きる姿だったのだろう。この半年、クッキーに与えられたのは恐怖だったり窮屈だったり、結果的に僕のやったことは保護ではなく身勝手な場所移動と拘束だけだったのだろう。

 被災猫は瀕死の状態だったから保護に後悔はない。自然界の摂理でいえばそのまま静かに眠るべきだったのかもしれないが、自力で立てないほど弱ったキーちゃんが与えたエサを喜んでバクバクと食べる姿を見ていると、たまたまそんな奇特なことをする僕に巡り会ったことで再起のチャンスを一度得たって悪くはないだろうと思えた。たぶん彼の人生で最もお腹いっぱい食べることのできた日々。ただ、クッキーの件があったから、キーちゃんにはキーちゃんの選択をさせなければいけないと思った。ちょうど「私が飼おうか」という申し出もあったのだが、キーちゃんの様子では他の家に行ってもまた怯えるだけだと思った。この2ヶ月間、被災猫をどうするか非常に悩んだが、僕が悩むよりもキーちゃんの態度が回答だった。

 昨日の昼間、庭にケージを置きドアを小さく開けた(2枚目の写真)。これは僕の選択。隠れ家っぽくするために外に出すときはケージをタオルで覆う。それでもやっぱり鳴き出したが、1時間ほどすると姿はなかった。ケージ内のドライフードもそのまま残して消えた。また戻るかもしれないと思ったが、夜になっても戻らない。いつもは見かけるこのあたりの他の野良猫の姿もない。
 キーちゃんは「この状況において」自分の選択肢で、こっちを選んだ。どこからも鳴き声は聞こえない。しばらくはケージを置いたままにしようと思うが、おそらく戻っては来ないだろう。いまどんなところに落ち着いているのかは不明。猫にとっての2ヶ月ぶりの帰還がどの程度のブランクになるのかは分からない。でも、ここからはキーちゃんの人生だ。いつまでも風呂場に閉じ込められているのは彼が望まなかった。姿さえ見せてくれたら食事はご馳走してあげたいと思うが、少なくとももとの慣れた環境にはいるのだから、元気になったキーちゃんが彼自身の好きなように生きてほしい。

 また会えることを願って。(片岡亮)

コメント一覧

ここまで回復させたことが凄いです。
投稿者: 匿名 2011/07/06[編集]

    片岡さんの判断は正しいと思います。
    キーちゃんにとって片岡さんちはリハビリ施設。
    体力が戻ってきたら、じっとしてられないのも無理はない。
    キーちゃんの眼光は鋭くて…決して人に気を許していません。
    絶滅危惧種のイリオモテヤマネコっぽい?ソレハナイナイ
    体はすっかり回復してますね^^ふっくらしていい毛艶です!
    大丈夫!野良としてしっかり自立していけますよ。
    キーちゃんが野原でごろごろ寝転んでいる様子が目に浮かぶ〜♪
    そのうち庭に餌をねだりにくるような気がします。
    きっとまた会えますよ。片岡さん、ありがとうございました。
    投稿者: 匿名 2011/07/06[編集]

    片岡さんに飼い主のエゴは無い。
    猫に選択させるのは正しいと思う。
    投稿者: 匿名 2011/07/06[編集]

    動きは少し鈍いんですが、見違えるように健康体になってはくれました。
    猫を飼っていなければ、せめて家中に放してやりたかったです。

    全然懐かなくても寂しいものです。
    解放後、家にいるときは昼でも夜でも暇さえあれば「いないかなあ」と庭に出ちゃいますね。
    慣れたこの辺りで、また安住のエリアになってくれたらと願うしかないです。

    投稿者: ★片岡亮(拳論) 2011/07/06[編集]

    猫大好きなんですが、あえて別の突っ込みを。「僕の人生は僕の選択でどうにでもなるし〜〜」って思って、自分も海外に住んでたりするんですが、結婚して子供が出来ると、自分の選択ではもうどうにもなりません(泣)。他の国にも住んでみたいけど、そういうわけにも行かず、飼いたい猫も飼えず。ああ・・・。
    投稿者: MSG 2011/07/06[編集]

    一期一会、縁があればまた会えるでしょう。
    投稿者: 非A 2011/07/06[編集]

    良寛は釈迦の教えの「独生、独死、独去、独来」を、「ひとりで生まれ、ひとりで死に、ひとりで去り、(生まれ変わって)ひとりで来る」と悟ったそうです。
    何故か、片岡さんのカキコに、改めて教わったように思えます。
    投稿者: 山 マサ 2011/07/06[編集]

    キーさん、ニャン生がんばれよー。
    片岡さん、本当にお疲れさまでした。
    投稿者: チュー 2011/07/06[編集]

    以前、姫ちゃんがいなくなったとき一度だけ
    書き込みさせてもらった猫好きオヤジです。
    片岡さん、被災猫にかわってありがとう。
    最善の選択だったと思います。
    きっとまた庭にふらりと顔を見せにくると
    思いますよ。
    猫って結構そういうとこありますから(笑)
    投稿者: 猫論好き 2011/07/06[編集]

    ふっくらして毛ヅヤもよくなりましたね
    片岡さんの努力も凄いですが、彼の生命力も凄いですね
    街角で再会できると良いですね
    投稿者: 中年チャンピオン(旧徳山と長谷川が好きです)  2011/07/06[編集]

     何年も近所で生きてきた猫で、僕にも慣れなかった警戒心があれば大丈夫だとは思うんですが、行動範囲が結構広く、車道をまたいで歩いているのも見たことがあったので、そこが心配ですね。片目なのと動きが少し鈍いんです。去勢したので鳴くことはあまりないと思います。もしまた見かけたら報告します。

     たかが猫ですが、身近にいる数少ない小動物。いくらでも繁殖するから希少価値もないし、地域によっては害獣扱いですが、やっぱり僕は好きです。絵に描いたカトゥーンの動物キャラなんかよりずっと。
    投稿者: ★片岡亮(拳論) 2011/07/06[編集]

    こんにちは、通算2度目のコメントです。
    キーちゃんも片岡さんと出会えて幸せだったと思いますよ。
    心が温まる、そしてちょっとほろ苦いお話ですね。
    ありがとうございます、片岡さんもキーちゃんも心の中で応援してます。
    投稿者: 匿名 2011/07/06[編集]

    片岡さん、キーちゃんを助けてくださってありがとうございました。
    キーちゃんは片岡さんのことを忘れてしまうかもしれないけれど、
    片岡さんがプレゼントしてくれた「命」は大切にしてくれることでしょう。
    忘れてしまうかもしれない とは書きましたが、
    いつかキーちゃんと再会できたら嬉しいですね。
    投稿者: 膵炎の猫 2011/07/07[編集]

    名文です

    猫の保護をしている人には「保護してやった方が幸せに決まってる」的なエゴの強い人が多いのですが、片岡さんはきちんとバランス感覚を持ってますね。
    近隣の迷惑も顧みず、親猫がいるのに子猫をムリヤリ引きはがして保護するような異常な保護活動家の人達に読ませたいですよ。
    投稿者:  2011/07/07[編集]

    >ビリー・ジョエルを聴きたいと思えば今すぐCDを取り出せる

    彼の歌の中で一番好きなのは”Honesty”です。
    出逢ったのは遠い昔ですが、今でもこの曲を聴くと胸が熱くなります。

    いつも自分に正直に、他者には誠実に生きている片岡さん。
    自由を求めて去って行ったキーちゃんですが、ずっと片岡さんのことは忘れないと思います。

    キーちゃんのこと、本当にありがとうございました。

    投稿者: みるみる 2011/07/07[編集]

    ビリー・ジョエルはボクシングしてたんだよね。好きなミュージシャンです。
    投稿者: 匿名 2011/07/07[編集]

    ”Honesty”いいっすねえ
    カバーで聞いたりするけど、彼の声じゃなきゃダメだわ
    それこそ「胸キュン」みたいな、直に琴線に触れて自然と涙が・・・
    投稿者: 匿名 2011/07/07[編集]

    >Honesty

    従兄弟が結婚式で新郎新婦入場のBGMにしてましたが、それを聞いたウチの兄貴が「あれは不誠実さを嘆く曲で、悲しい曲やから結婚式にはおうてない!」と的外れな憤慨をしてたのが忘れられません。インスタントコーヒーのCMソングでしたね

    自分は「さよならハリウッド」が好きです。東海岸から西海岸に行ったがブレイク出来ず、NYに帰る心情をつづった泣かせる曲です。彼が大ブレイクしたのはNYに帰ったこの後でした。人生に無駄なもんはないですね
    http://www.youtube.com/watch?v=RQ5Nek7HFqw

    ボクシングつながりでは『ザンジバル』の歌詞にアリが登場しますね

    http://www.youtube.com/watch?v=tAzquI1VfF4

    「アリよダウンタウンに行くなよ 1Rタダでやることになるぞ」という余りにシブいフレーズ!彼の英語はかっこいいですね
    投稿者: 中年チャンピオン(旧徳山と長谷川が好きです) 2011/07/07[編集]

    旧徳様

    『さよならハリウッド』なら、『ニューヨークの想い』もいいですね!
    他にもStranger, My life, Moving out, Piano man など数えたらきりがない。
    要するに彼の曲はみんな好き!

    ではキーちゃんのことを思いながら。
    Honesty をみんなで聴いて、また明日頑張りましょう☆
    おやすみなさい!

    http://www.youtube.com/watch?v=G4BGHOUxzK8&feature=related

    投稿者: みるみる 2011/07/07[編集]

    >>従兄弟が結婚式で新郎新婦入場のBGMにしてましたが、それを聞いたウチの兄貴が「あれは不誠実さを嘆く曲で、悲しい曲やから結婚式にはおうてない!」と的外れな憤慨をしてたのが忘れられません。インスタントコーヒーのCMソングでしたね

    わはは。愉快なお兄様じゃないですか。
    結婚式でシャリーンの「愛はかげろうのように」を流そうとしていた友人がいます。美しいメロディですがちょっと英語が分かれば分かりそうなものなのにw

    http://www.youtube.com/watch?v=1j_t9bXV7oM

    ビリージョエル、ストレンジャーのジャケットにボクシンググローブ吊るされてますよね!
    投稿者: 匿名 2011/07/07[編集]

    >ビリージョエル、ストレンジャーのジャケットにボクシンググローブ吊るされてますよね!

    おおそうでしたね!一時ビルドアップしてスタローンみたいでしたね。イタリアつながり。
    投稿者: 中年チャンピオン(旧徳山と長谷川が好きです) 2011/07/07[編集]

    僕は Ballad Of Billy The Kid が好きですよ。
    さすらいの片目の黄色猫…どうしているだろうか。
    無理にでも飼い主を探そうと思ったこともあったし、もう少し良い解放の仕方もあったかもしれないと何度も思い返しますが、これで良かったという結論なればいいなあと。
    また、ときどき顔を出すようになってくれたらエサあげるんですが。
    投稿者: ★片岡亮(拳論) 2011/07/08[編集]

    おたより

    ■メッセージ(MESSAGE)
    いつも拝見してます。
    でも猫の悲惨な画像は止めませんか?
    嫌なことから、逃げるみたいですけど、つらすぎます。
    可愛いのが見たいです。

    どれが悲惨か分かりませんが、猫の可愛い画像は他でいくらでもありますよ。検索サイトで「可愛い猫」って打ってください。はい。
    投稿者: ★ハイセーヤスダ<拳論> 2011/07/08[編集]

     上記は「依頼内容は原則、公開とします」 と明記しているルールのもと、公開しました。
    投稿者: ★ハイセーヤスダ<拳論> 2011/07/08[編集]

    BS11 7/10日曜18時から

    http://www.bs11.jp/news/60/

    7/10 18時から18時55分までBS11「本格闘論FACE」で被災
    ペット問題をとりあげるようです。

    関心のある方の参考になれば幸いです。
    投稿者: ボクレポ 2011/07/08[編集]

皆様のご意見をお待ちしております

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