余録

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余録:韓国大田市の大学教授、李根元さんは…

 韓国大田(テジョン)市の大学教授、李根元(イ・クンウォン)さんは、自己啓発のため1年間、何をするも自由という資格を得た。埼玉県の大学で教壇に立つことにし、来日したのは昨年3月9日である▲翌々日、大震災の時は校舎6階にいた。「隣の研究室はぐちゃぐちゃになりました」。留守家族が心配するので一時帰国したが1週間ほどで戻った。教壇に立つ約束を果たさねば。この責任感があった……▲瞬く間に時は過ぎ、帰国の日も遠くない。遅まきながら後日談を聞く。大学では主に韓国文化論を教えた。80年代の留学で日本語に不自由はない。日本人のほか中国や東南アジア、南米の学生も学ぶ国際教室である▲「自国の文化を愛し、他国の文化に偏見を抱くな。文化を愛し合えば誤解も解け、心と心の交流ができる」。これが、かつて日本で悩みもした李教授の指導理念だ。もっとも、最高の人気を博した番外講習「キムチの漬け方」は、遅れて来日した夫人の腕が頼りだったらしい▲笑った後で日本人論になった。「ここ何年かで日本が劣化した印象がある」と李教授。例えば以前は電車の乗客の多くが本を読んでいた。その姿がケータイ、スマホの天下で様変わりしたのを教授は惜しむ。当方は慣れてしまったせいか、あきらめが先に立つ▲しかし、同じく電車内の光景でも「周りに気を使わない、自己中心的な人が増えたようだ」と指摘されると、かなり気になる。自分の国だけでなく日本の精神文化をも愛する隣人が、数値化しにくい日本の劣化に気付いているのだとしたら、どうだろう。李教授が2月に帰国してからも、時々意見を聞こうと思い始めている。

毎日新聞 2012年1月23日 0時19分

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