「学校教育は、政治や選挙の仕組みは教えるものの、政治的・社会的に対立する問題を取り上げ、政治的判断能力を訓練することを避けてきた」「将来を担う子どもたちにも、早い段階から、自分が社会の一員であり、主権者であるという自覚を持たせることが重要だ」
こんな報告書を学識経験者やNPOの若手代表者らで作る総務省の研究会(座長・佐々木毅元東大学長)がまとめた。目指すのは「主権者教育」。政治を動かす主役は国民であり、そのために今、現実に動いている政治や選挙について学校教育の現場で学ぶ機会を増やそうという提言である。これまであまり語られてこなかった問題提起だ。議論が広がることを期待したい。
若者の低投票率が指摘されて久しい。衆院選では20歳代の投票率と全体平均との差は最近、約20ポイントまで広がっているという。折しも社会保障の分野では高齢者と現役世代との負担格差が問題になっている。政治家が高齢者優先の政策に傾くのは高齢者の投票率が高いからだとも言われる。無論、投票率がすべてではないが、政治的無関心がこれ以上広がるのは食い止めなくてはいけない。
そこで報告書が重視するのは学校教育だ。大統領選のたびに小学校高学年からどの候補が大統領にふさわしいか、教室で討論する米国をはじめ、欧米では時々の政治テーマを学ぶのが当たり前になっている。
日本の教育基本法は「公民として必要な政治的教養の尊重」をうたう一方、特定政党を支持したり反対したりする教育を禁じている。それは当然だ。だが、過度に中立が強調された結果、政治を扱うこと自体が避けられてきたのではないか。日本でも選挙に合わせて模擬投票を行う学校が増えているが、まだ少数派だ。
消費増税を挙げるまでもない。政治テーマには多様な意見がある。教師は意見を押しつけず、賛成、反対それぞれの主張を、中立の立場で教え、子どもたちは自分で考え、判断する力を身につける。それが教育だという報告書の提案を毎日新聞も支持したい。教師の中立性を担保し、教える能力を高めるため、ドイツでは国会も関与してチェックする組織がある。参考事例はたくさんある。
報告書では学ぶ教材の一つとして新聞を授業に活用することも提案している。インターネットも含め、情報をどう受け取り、判断するか。その力(情報リテラシー)を養うのも今後の教育の大きな課題だろう。
主権者教育を学習指導要領に反映させることを目指して総務省は文部科学省などと実務者レベルの意見交換を始める。政治不信を突きつけられている国会議員もぜひ関心を。
毎日新聞 2012年1月23日 2時30分