白鵬の攻撃は右を差すまでは行かなかった。右を当てがっていたというところだろう。それが作戦かどうかは私はわからない。だが、白鵬の攻めが「とったりに出た」と放送があったことを考えると、攻めの流れの中にせよ、右攻めに重点が傾いていたことは確かだろう。しかし、そこからが、この横綱のうまいところで、右と左の曖昧な攻めの中に、攻撃の鋭さがそぎ落とされて行く。
おっつけを効かせて、横綱の右に体を寄せて行くのは良いのだが、乱戦を制しておっつけを効かせる。そして、そのまま、なにか荷物でも運び下ろすように把瑠都の巨体を処理してしまう。文字通り処理してしまうといわんばかりの片づけ方だった。この一戦は、前評判がすごかったので、どれほどの熱戦がくりひろげられるかと熱戦を期待されていたのだが、いざ土俵上の対戦を見た時には、期待外れという感じが強かった。
いうまでもなく、その原因は把瑠都の優勝が先に決まってしまっていたからであろう。その辺の力士たちの考えていることはわからないではないのだが、やはり、不満な感じが残る。日本人のメンタリティーとしては、大相撲15勝無敗という名誉は貴重なものだし、はるかに大事にしてほしい栄誉だと思うのだが。まあ、もっとこん身の力をこめて戦ってほしい一戦だったと思う。 (作家)
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