東京大学が秋入学全面実施に向け、本格的に動き始めた。他大学にも連携や同調の動きがあり、「グローバル人材」を求める経済界も巻き込んで論議は加速しそうだ。実施まで5年前後をめどとするが、入試など教育改革課題とも有機的に連動させることが肝心だ。
秋入学は、世界の主流に合わせて留学生や教員らの国際的な出入りを活発化させ、国際的な教育・研究レベルと評価を高めるのが狙いだ。例えば、東大でも学部段階で留学生が2%に満たないような状態は、世界の主だった大学に大きく引き離されている。こうしたことは国際評価を低くし、昨年のある調査では、東大のランクは30位だった。
しかし、秋入学はあくまできっかけ。魔法のつえのように交流を活発化させ、問題を解決するわけではない。従来妨げとなりがちだった言葉の壁を取り除くコミュニケーション能力の育成、世界にスタンダードとして通用するカリキュラムなど、付随する課題は山積しており、それに本腰を入れてこそ意義がある。
入試の時期には今回触らず、現行の春のままとした。このため、日本人の合格者には半年程度の空白期、いわゆる「ギャップターム」が生じる。これをどう活用できるかが、秋入学制の大きなポイントになる。
東大は、この間に海外体験やボランティア活動など、それまで経験のないことを通じて勉強の目的や将来の目標を考える自由な準備期間と想定している。アルバイトであらかじめ学費を稼ぐもよし、興味ある講義を聴きに来るのもよし、とさまざまなかたちがあり得るという。
日本の大学教育で全面的なギャップターム導入は未知のことであり、東大は他大学とも話し合いをしているという。ここは知恵の絞りどころだ。単に受験勉強のアカを落とすような発想では、意味のない、無駄な「空白」となりかねない。
国家試験や就職採用時期の問題もある。東大は、企業には一括採用方式ではなく、通年採用のように柔軟な仕組みに変えるよう求める。それも単に仕組みの変更ではなく、人材選抜や養成など、雇用のあり方を考え、変える契機に結びつけたい。
秋入学は1980年代の臨時教育審議会などで、過去繰り返し検討課題に挙げられてきた。今回現実味を帯びてきたのは、日本が先行き不透明な厳しい状況にあることと無縁ではない。国際的人材育成の要望はいつになく強い。
東大は秋入学を単独ではなく、他大学と連携して実施したいという。だが大学だけで自己完結する話ではない。社会も密接な連携をしないと、真の改革には結びつかないだろう。
毎日新聞 2012年1月21日 2時33分