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道行く人が「カワイイ」と寄ってくるデモがある。労組が動員したデモではなく、サウンドデモとも違う。若年層によって創られつつある、デモ第3世代の「路上の表現」だ。
■人形で横断幕 ポップな三角旗
12月17日、東京・渋谷のセンター街前を、デモの長い隊列が通り過ぎた。20〜30代の若者が目立つ。サウンドデモのように、スピーカーを積んでダンス音楽を流しながら先導する車はない。最前列は女性たちが横断幕をかかげる。プラカードや三角旗のポップな色調に、反原発のメッセージが躍る。
三角旗が欲しくて手を伸ばした女子高生らしき通行人が「なんの団体なんですか?」と尋ねる。参加者は「団体でなくて、ツイッターで集まった有志です」と答えた。列後方にはベビーカーを押す母親たちがまとまって歩く。最後尾には透明ポリ袋を持つゴミ拾いが数人。「デモの連中はマナーが悪いという風評被害を防ぐため」だという。
ツイッターデモといわれる新手のデモだ。「TwitNoNukes」が主催し、昨年4月30日以来ほぼ毎月開いて7回目。毎回千人ほどが参加する。
シンボルの横断幕は、よく見ると人形を「サヨナラ原発」の文字の形に縫い合わせているオブジェだ。手のひらサイズの小冊子(ジン)やコミックは、飛び入り参加者に「鬼カワイイ」と言われるデザイン。しかし、脱原発はきちんと理詰めに訴えてある。
制作しているのは「サヨナラ・アトム」という約20人のアーティスト集団だ。「3・11以前、原発について何も知らなかった」と話す宮越里子さん(30)はデザイナー。「最初、4月10日に高円寺のサウンドデモを見に行ったけど、正直、怖かったんです。プラカードが血文字だったり。私以外にも様子見の人が多かったと思うんですが、過激な人がやっているように見えて、大衆的ではない」
もともとツイッターデモは、会社員のbcxxxさん、介護職員の平野太一さん(26)らが中心になり、「シングルイシュー(反原発の一点)で、サウンドデモでもなく、かつ政党や組織を持ち込まないデモがなぜないのか」という発想で始まった。サヨナラ・アトムは7月から参加、ソフトでかわいいデモの印象に大きくあずかっている。ほかにも、bcxxxさんと「ハードコアパンク好き」つながりの友人が、バンドが好んで使うフォントを流用してTシャツを製作。デモ現場やネットで売って人気だ。
先月、TwitNoNukesが編集して『デモいこ!』(河出書房新社)を出版した。巻頭論文では執筆業の松沢呉一さんが「(映画や音楽や新聞と同じく)デモは表現」と宣言。新手のデモが、新しい表現手法を獲得しつつある。