カレーは、インド風 VS タイ風
(9/02)
インド風 ・ スパイスと野菜たっぷり
タイ風 ・ ココナツミルクでまろやか
スパイスのハーモニーが食欲をそそるインドカレー。ひとくち食べれば、もう止まらない!?「インド人もびっくり」。このセリフが印象的なテレビコマーシャルがあった。約40年前、エスビー食品の「S&B特製ヱスビーカレー」。インド人は何に驚いたのか。「それだけ本格的ということをアピールしたかった」と同社は説明する。このセリフに象徴されるように日本では「カレー イコール インド」という印象が強い。
しかし、明治時代にイギリスから日本に伝わったカレーは、長らく洋食屋のメニューだった。この「欧風カレー」は、カレーソースに小麦粉が入っていて、とろりとしているのが特徴だ。でも、最近は違う。1980年代後半からのエスニックブームにのって続々と登場したアジア系料理店。その人気品目の一つがカレーだ。その代表格がインド風とタイ風。具は様々だが、ソースの多くはさらさらで、ここが家庭でよく食べられている従来のカレーと違う。
カレーの語源は諸説ある。その中で有力なのが、南インドのタミル語やカンナダ語でスープの具を意味する「カリ」が、インド人のスパイスを使った汁料理としてポルトガル人経由でイギリスに伝わったというもの。
「『カレー料理』の発祥はインド。長い時間をかけて多くのスパイスを組み合わせ完成させた」と横濱カレーミュージアムプロデューサーの井上岳久さん。スパイスには発汗作用や食欲を高める効果もあり、インドのように高温多湿の地域に合う。
大阪・キタのインド料理店「ビンドゥ太融寺店」のオーナー、シャルマ・ラジュさんはニューデリー生まれ。「具とスパイスを同時に火にかけるのがインド流。具とルーを別々に調理する日本とは違う」と教えてくれた。使うスパイスは、ターメリック、コリアンダー、唐辛子など30種類近い。天候や客層によって調合を工夫する。ラジュさんのお薦めは良質なたんぱく質を含むヒヨコ豆を使ったカレーで、栄養満点のうえ夏バテ気味には最適。このほか、ホウレンソウやカリフラワーなど野菜を上手に生かしているのも特徴だ。
インド文化に詳しい国立民族学博物館助教授の三尾稔さんは「菜食主義者が多い国なので野菜の使い方が巧みです」。スパイスと野菜を多用するところにインドらしさが際立つ。
一方、タイ風カレーはココナツミルクが独特の味わいを出す。横濱カレーミュージアムの井上さんは「カレー料理はインドから東方に広まる中で、各地の素材を取り込んだんです」。
大阪・梅田のイーマ地下2階の「新・融合食楽堂トタンヤ」には、タイ料理を中心にアジア各国の料理が並ぶ。タイ風カレーは赤唐辛子をすりつぶしたレッドカレーと青唐辛子を使ったグリーンカレーの2種類。スパイス類はタイから取り寄せている。店長の萬谷克之さんは「ココナツミルクのマイルドさと唐辛子のシャープな辛さの同居がタイ風カレーの魅力」と話す。
タイ風カレーはここ20年、日本でも注目され、レトルト食品としても人気を集める。約20種類のレトルトカレーを発売しているハウス食品で、一番の伸びを示しているのがタイ風。また、高級スーパー「成城石井」で販売しているレトルトカレーのうち、タイ風カレーの販売量は、欧風カレーに次ぐ2位だ。
インターネットでも、二つのカレーに関するサイトは多数存在する。検索エンジン・グーグルで検索すると、インドカレーで11万9000件、タイカレーで5万7700件ヒットした。目を引くのが店紹介だ。「かっぱくん」の名前でサイトを運営する、静岡県浜松市の会社員墨岡研一さんの「印度伽哩天国・インドカレーパラダイス」の「全国印度料理店データベース」には705店、東京都港区に住むタイ人のクリエンクライ・ラワンクルさんの「タイカレーが好き」は451店を紹介する。インド風、タイ風とも全国で支持され、その輪を広げているのがわかる。
取材を続けていてよく耳にしたのが「とにかく大阪人は辛いのが好き」ということ。「トタンヤ」の萬谷さんは「東京でタイカレーを食べたけれど甘い気がした」と言い、「ビンドゥ北堀江店」の堀江尚美さんも「激辛カレーに挑戦する人が他の街に比べ多い」と評す。
50通りの達人レシピと113軒のカレーの名店情報を掲載しているガイドブック「Theカレーブック関西版」(ぴあ)の担当者は分析する。「元々本格的カレー店が多かったのが大阪。ハマればハマる程辛いモノを好む傾向が強い。大阪はカレー好きが多いのでしょうか」
ジャワカレー、タイカレー、インドカレーに欧風カレー、和風カレー、そしてカレーうどんにカレーパン……。世界に広がるカレー料理は各地の産物を取り入れて、まるで博覧会の“パビリオン”のようだ。インド風にせよ、タイ風にせよ、カレーに込められたそれぞれの国の文化を楽しみたいと思う。
文・山本由典
(読売新聞)
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