【ロンドン会川晴之】欧州債務危機への対応策として、欧州の主要金融機関は20日までに資本増強策を各国当局に提出した。欧州金融機関は危機の影響で経営が悪化しており、財務基盤強化で金融システム危機に陥ることを防ぐ狙い。だが、資本そのものを手厚くする増資の動きは限られ、融資削減など保有する資産を圧縮して資産に占める資本の比率を引き上げる手法が目立った。「貸し渋り」で欧州などの景気をさらに冷え込ませる懸念もある。
欧州の金融機関は、財政悪化国のイタリアやスペインなどの国債を大量に保有。欧州危機の深刻化で、こうした国債の価格が急落して、欧州金融機関の体力も低下し、昨年10月にはフランス・ベルギー系大手銀行デクシアが経営破綻した。
欧州連合(EU)は金融危機を防ぐため、欧州金融機関に対し経営の健全性を示す「狭義の中核的自己資本比率」を12年6月末までに9%に引き上げるよう要請。EU各国の金融当局を統括する欧州銀行監督機構は昨年12月、同比率で9%を達成するには、欧州の31金融機関で総額1147億ユーロ(約11兆4700億円)の資本が不足していると指摘した。
これを受けて、欧州の各金融機関は、資本増強策の提出期限である20日までに対策を明らかにしたが、ドイツ銀行大手のコメルツ銀行は、ドイツやポーランド向けを除く新規融資の一時凍結で資産を圧縮し、自己資本比率を向上させる手法を選び、増資を見送った。フランスの大手銀行、ソシエテ・ジェネラルやBNPパリバなども資産売却を決め、増資を避けた。
こうした動きが相次いだのは、危機深刻化に伴う株式市場低迷で新たな資金調達が難しいことに加え、増資すると株価が急落する恐れがあるためだ。イタリア最大手のウニクレディトは年明けに増資を表明したが、資金を集めやすくしようと安値で新株を発行したことが経営内容に対する投資家の疑念を募らせ、株価が急落した。
欧州各国は、金融機関の資本増強に向け、公的資金の投入も辞さない構えだが、政府の関与を嫌う金融機関側は難色を示しており、これも資産を圧縮して自己資本比率を引き上げる姿勢を強める要因となっている。しかし、欧州の金融機関が融資の絞り込みなどを進めると、欧州からの融資が多い新興国などから資金を引き揚げる動きが加速し、新興国の景気が停滞して、世界経済をさらに悪化させる恐れがある。
各金融機関の資本増強策は各国当局を経て欧州銀行監督機構に提出され、機構は2月8、9日に内容を精査するが、市場では「不十分と判断されれば、公的資金を投入されるケースもありうる」との見方も出ている。
【ことば】狭義の中核的自己資本比率
金融機関の経営が悪化した場合、損失を処理できる自己資本をどこまで備えているかを示す指標。投資家への配当を減らすことなどで損失を吸収できる普通株などの自己資本が、企業向け融資など損失を出す可能性があるリスク資産に占める割合を示す。比率を高めるには、分子の自己資本を増やすか、分母のリスク資産を減らす必要がある。
毎日新聞 2012年1月22日 14時16分