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File230 「ビーズ」

東京・浜田山にある小さなアクセサリーショップ。
90年代後半、日本にビーズブームを巻き起こした伝説のお店です
ビーズと言えば子どものおもちゃ。でもここにくればヨーロッパの洗練されていたビーズに出会える・・・
一個数十円のビーズを組み合わせれば、今まで見た事もないアクセサリーに変身する・・・
女性たちは夢中になりました。
ビーズ・ショップ・マネージャー杉本朝子さん。

杉本 「バブルの頃は、高価で皆さん同じブランドのものを身に付けるということで満足されていたように思うんですけれども、その時代も落ち着いて、装いですとか暮らしの中に成熟した自分のセンスと言うものを表現したいという欲望が、一気に出てきた時代だと思います。自分が身近に感じる美しさ、あとは自分の生活に合った、なじんだすてきなものということに皆さん目覚めたのかなと思います。」

同じ頃ドイツから来日したベルンド・ケストラーさんも、ビーズの楽しさを伝えています。
ケストラーさんはビーズを使った伝統的な編物の作家です。
ヨーロッパでは古くからビーズの編物が盛んでした。
その魅力を日本にも広めたいと活動しています。
手芸のアクセントと思われがちなビーズに、主役級の輝きが隠されていると言います。

ケストラー 「ビーズを一杯使うと光が入ったらすごいピカピカ、すごいスパークリングになります。それはとてもいいポイントだと思います。光が入るとすごい色がちょっと変わってきれいになる。だから一杯使いたいです。」

欧米では、ビーズを全面に使ったポーチやバックが大人の女性の持ち物として、昔から愛されて来ました。
1つ1つはちっぽけなビーズですが、組み合わせると、ほら、こんなに魅惑的な輝きが・・・
今ビーズは、人々の熱い視線を集めています。

壱のツボ ガラスが生みだす無限の色彩に酔え

まずはビーズの素材に注目。
そもそもビーズとは、穴のあいた珠(たま)の総称、紀元前の昔から使われてきました。
古代エジプトで、ミイラと共に埋葬されていたビーズ。素材は、ガラスです。
ガラスビーズは時を経ても変わらない事から、お守りの役目を担っていました。

以来ビーズといえばガラス。 中でもヴェネチアで作られるものは、特別の美しさを放っていました。

ヴェネチアン・ビーズ・コレクターの小瀧千佐子さん。

小瀧 「それは何と言っても色彩の豊かさです。豊富さだと思います。例えば限りなく透明に近い水色から、深い深い群青色、なす紺の色まで、半透明の色も出せて、それから全く不透明な薄い色から濃い色まで、限りなくどんな色も出せるので、それがやっぱりヴェネチアン・ガラスの最大の魅力じゃないかと思いますね。」

まさに色の見本市、ガラスビーズに不可能な色はないとまで言わしめたバリエーションの数々・・・

ひとつ目のツボ、
「ガラスが生みだす無限の色彩に酔え」

水の都ヴェネチアは、十二世紀の頃からガラス工芸が盛んでした。
職人たちはガラスで宝石を作り出す錬金術を目指します。
それは叶(かな)いませんでしたが、ガラスの多彩な色と加工技術が生まれました。
その技を惜しげもなく注ぎこんだのが、ヴェネチアのガラスビーズなのです。

これは細くに伸ばした色ガラスを、毛糸玉のようにまいたビーズ。
光が複雑に曲がり、反射し、複雑なきらめきが生まれます。

イタリア語で「中に埋め込まれた」という意味のビーズ。「ソンメルソ」。
金ぱくが埋め込まれています。この世のものならぬ、不思議な世界が閉じ込められました。
ほかにもガラスで模様を描いたり、半透明を組み合わせたり、まさにビーズ玉は千変万化のきらめきです。

コレクターの小瀧千佐子さんが、是非見て欲しいというヴェネチアンビーズがあります。
それは「アフリカン・トレード・ビーズ」
名前が示すように、アフリカとの交易を目的に作られたビーズです。
19世紀の頃アフリカの有力な部族は、自らの権勢を誇る印として、ヴェネチアンビーズを競って身につけました。
ヴェネチアではアフリカ人の褐色の肌に映えるよう、目にも鮮やかなガラスビーズを次々と生み出します。
その対価として、アフリカから金や銀、そしてダイヤモンドを手に入れました。
ガラスビーズで、巨万の富を築いたのです。

小瀧 「私はこれこそが本当の錬金術師なんじゃないかなって思うのですけれど、さすがにヴェニスの商人を地で行く彼らの商法の一つだったんじゃないかなと思います。」

小さなガラスビーズは、ヴェネチアに大きな繁栄をもたらしたのです。

大阪府和泉市でも、独自のビーズが作られています。
その名は「フェイクパール」、高価な本真珠の代替品「模造真珠」です。
大正時代、ガラス製造が盛んだった和泉市周辺では、その頃からフェイクパールは作られてきました。
もとになるのは、ただの白いガラス玉。
その玉を、さまざまなエッセンスを加えたコーティング溶液に漬けます。
昔は魚の鱗を加えるなど、コーティング溶液の改良が繰り返され、本真珠と見分けのつかない模造真珠が生まれました。

ではコーティング溶液の色を変えたらどうなるのか?
色素として使うのは、さまざまな染料がありますが、色の混ぜ合わせ具合が、職人の腕の見せどころです。
加えるのは赤と黄色の染料。
さらに黒を入れて混ぜると、微細な色模様ができます。
さあどんな色のフェイクパールなるんでしょうか?
ガラス玉に気泡がつかないよう沈めていきます。

まるで溶けたキャラメルのような微妙なブラウン。
本真珠にはない、色合いの質感に吸いこまれそうになります。


そしてこちらは、ブルー・メタリックのフェイクパール。
黒く塗ったガラス玉。コーティング溶液は、ブルーではありません。このガラス玉と溶液の組み合わせは企業秘密。
フェイクパールを製造している上田博之さん。

上田 「フェイクパール、イミテーションでしたら染料とか顔料で本当に400色ぐらいのカラーバリエーションが使えますので、ブルーもガンメタルもオレンジとか、ほとんどの地球上にあるカラーバリエーションですね、そういういろいろな形で表現できるようになっていますので、本真珠にはない強みがフェイクパールにはあると思うのです。」

もとはただのガラス玉。それが人の手によって、不思議な輝きを放ちます。
ビーズは錬金術の申し子。人々の心を捉えて離しません。

弐のツボ とんぼ玉に小宇宙を探せ


とんぼ玉とは、和製ガラスビーズのこと。
とんぼの目に見たてて、名前がつきました。
平成の今、とんぼ玉はおしゃれなファッションアイテムとして、ファンが急増中。
一つ一つを鑑賞用に集めている人もいれば、ネックレスの主役として使ってみたり、和装の飾り、根付け帯留めや、簪(かんざし)など、何にでも使える優れたビーズです。


そんなとんぼ玉の世界に魅せられ、とうとう自分で美術館を作ってしまったコレクターの宮本恭庸(きょうのぶ)さん。
とんぼ玉一つ一つには、それぞれ別の世界が広がっていると言います。

宮本 「本当この小さな中に、むしろ小さいからこそ何か大きな世界が広がっている作品に、本当に衝撃を受けました。ガラスだけで表現がいろいろ出来るんだなっていうことにとても感銘を受けましたね。」

小さなガラス玉の中に、閉じ込められた思いがけない風景。

ふたつ目のツボ、
「とんぼ玉に小宇宙を探せ」


そもそもとんぼ玉は、江戸時代オランダから長崎・出島にもたらされたガラスビーズがはじまり。
西洋のマネから、やがて独自の色や模様を施すようになり、根付(ねつけ)などの飾りとして人気を博します。
ところが幕府はぜいたく品と決め付け、禁止令を発布。明治の頃には作り手がいなくなり、いったん途絶えてしまいます。
昭和50年代、その復元に情熱を注いだガラス工芸家が現れます。
飯降喜三郎と息子の喜三雄です。
江戸とんぼや外国のものを参考に工夫を重ね、復活を果たしたのです。
日本独特の和の色。
どこか懐かしく素朴な味わい。
そして作り方の美意識を感じさせる佇(たたず)まいはすぐに評判を呼びました。
二人の元には作り手の卵たちが集い、とんぼ玉の世界が大きく広がります。
飯降親子のDNAを引き継いだ作家たちが、個性を競うとんぼ玉を次々と発表していったのです。


その一人、内田敏樹さん。内田さんのとんぼ玉はガラスの内側に奥行きのある世界を描く事で知られています。
使うのは直径が3ミリ程のガラス棒。
中が白で周りに色がついています。
色ガラスの溶ける温度はおよそ700度。
ガラス棒を溶かし、束ねていきます。
十数本を組み合わせ、形を整えると・・・


一気に引き伸ばします。ポイントはガラスに満遍(まんべん)なく熱を加えて一定の温度に保つ事。
さらに細く長く引き伸ばします。
断面、金太郎あめの中の模様がつながります。


こうして作ったガラス棒をさらに束ね、再び熱を加えて組み合わせます。
そして同じように、一気に引き伸ばすと・・・
花の模様ができあがりました。
まだ先があります。


今度は、一つ一つの部品を立体的に積み上げていきます。
最後に透明のガラスで覆って、とんぼ玉らしい球体に仕上げると完成です。



「古代の花」(内田敏樹作)と題されたとんぼ玉。
遥かな時を超えた夢の世界。遠い昔の花々がガラス玉の中で咲き誇っています。

内田 「ガラスって溶かしている最中に、いろいろ動いたり、曲がったり、色が変わったり、そういうことって自分でも想像していなかったハプニングが良くあります。この曲がっているのってすごく面白くなっているなって。じゃあ今度これを意図的に入れてみようかって、そうやってどんどん発展、派生していきます。とんぼ玉ってすごく小さいですよね。あの小さい空間の中に表現したいものをいかに閉じ込めるか、とんぼ玉の小さな小さな世界は、無限の宇宙を夢見ています、それがとても魅力を感じます。」

参のツボ ビーズが彩るコスチュームジュエリー


コスチュームジュエリーとは、宝石や貴金属を使わないで作る宝飾品の事。主役になるのがビーズです。
多くの女性たちが、自分にあったおしゃれを楽しむために、オリジナルのジュエリー作りに挑戦しています。

3つ目のツボ、
「ビーズが彩るコスチュームジュエリー」


20世紀中頃のニューヨーク。
街には自立し働く女性たちが闊歩(かっぽ)していました。
彼女たちは活動しやすい機能的な服装を飾る、ちょっとおしゃれで新しい時代のジュエリーを求めていました。
女性たちの願いをかなえたのが、コスチュームジュエリーの女王と呼ばれたミリアム・ハスケルです。
ハスケルは、女性たちを輝かせる斬新なデザインのジュエリーを考案します。
しかしそれは、職場につけていくのをとまどうような高価な宝石ではありませんでした。
ハスケルがたどりついた答えは、ビーズでした。
ビーズならフォーマルにもカジュアルにも、どんな装いにも対応できると考えたのです。


ミリアム・ハスケルの研究家、渡辺マリさんを訪ねました。
30年前、アメリカで買ってきた骨董品の中に、たまたまあった美しいブローチが、ハスケルとの出会いでした。
ハスケルのコスチュームジュエリーには、女性たちを輝かせるさまざまな仕掛けが隠されているといいます。

渡辺 「彼女のデザインの一番際立っているところは、アンバランスのバランスっていうのでしょうか。左右対称でないところが一番元になっていまして、人間って左右対称じゃないでしょう。
つまりミリアム・ハスケルが作った作品というのは、一般の女性がどれだけ美しく見えるか。人とはどれだけ違うか、それを自分でチョイスできるような、そういう意味合いのもとに作られたものじゃないかと思います」


ビーズなら、人それぞれに美しく・・・
ミリアム・ハスケルは、一つのジュエリーでいくつも楽しみ方が拡がる作品も発表しています。
黒のワンピースに映える、ピンクのネックレス。
真ん中で結んで花を左右に配置する事もできれば、アンバランスにつけてカジュアルに見せる事もできます。
女性たちは、自分で楽しみ方を見つける自由を手に入れました。


そして今、コスチュームジュエリーは、使う人自らが作る時代になっています。
Maki(マキ)さんは、多くの女性たちにビーズを使ったジュエリー作りの魅力を伝えています。
使うのは、20世紀初頭世界中からパリに集まってきたアンティークビーズの数々。
薔薇(ばら)のビーズに、他のビーズを合わせてアイデアを練ります。
組み合わせに決まりはありません。季節の移ろいやふと目にした景色がインスピレーションの源。
一つ一つ色も表情も違うビーズを組み合わせの中から、新たな輝きが生まれます。
それは作り手だけが味わう事のできる、無上の喜びです。

Maki  「ビーズは一粒でも歴史や物語を感じる美しいものなのに、それにまた手を加える事で別のものに生まれ変わる可能性をたくさん秘めていることだと思います。」

人の手で作り出されたもう一つの宝石、ビーズ。
それは女性たちが自分らしいおしゃれに目覚めた時、そっと寄り添ってくれる神様の贈り物なのかもしれません。

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

中高生の頃、母親と一緒に材料を買ってきてビーズのアクセサリーをよく作りました。
のんびり会話をしながら出来上がりの想像をふくらませて、ワイヤーにビーズをひとつひとつ通していく・・・。
世界にたった一つしかない自分の好きなアクセサリーを作る過程って、すごく幸せです。
少しぐらいきれいに出来なかったとしても、作った時間とかけた思いが込められていて、時を経た今見ても、宝石に負けないくらいの輝きを放っているように思えます。
今回の美の壺で、フェイクパールの色づけの様子を見て、驚きました。
職人さんたちの試行錯誤があってこそ、あの微妙な色が出来上がるんですね!
ずいぶんと間があいてしまいましたが、久しぶりに手作りにチャレンジしてみようかなー♪と思っています。
今の自分に似合うもの、今の自分が好きなものって何かを知ることが出来る大切な時間ですよね。
ただ・・・手先があまり器用ではないので、それだけが心配ではありますが。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin' Art Blakey & The Jazz Meessengers 0分2秒
To The Mattresses Geprge Fenton 0分45秒
mmm,nice! Bob Thompson 1分27秒
Love For Sale Turtle island String Quartet 2分50秒
Lover Man Marcus Printup 4分40秒
Venis Modern Jazz Quartet 6分10秒
Africa John Coltrane 7分45秒
Golden Striker Modern Jazz Quartet 9分12秒
Take Five Dave Brubeck 9分26秒
Laura Ellis Marsalis & Branford Marsalis 10分55秒
Kathleen Computer Sneak Geprge Fenton 13分10秒
The Morning After Chico Hamilton 13分35秒
New Orleans Bumo Wynton Marsalis 15分36秒
Mamanita Wynton Marsalis 16分13秒
Milestones Turtle island String Quartet 18分0秒
Waltz For Debby John McLaughlin 20分5秒
Just Friends Charlie Parker 21分45秒
Jumpin' At The Woodside Duke Ellington & Count Basie 22分37秒
My Romance Wynton Marsalis 24分50秒
Comment Alletz Vous Blossom Dearie 25分37秒
You Weren't There Geprge Fenton 27分50秒
To The Mattresses Geprge Fenton 28分30秒

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