きょうのコラム「時鐘」 2012年1月22日

 ミスが重なり、大学入試センターが一部科目の再試験をした。「近ごろの大人はたるんどる」と受験生の怒りが聞こえてきそうである

そんなお粗末(そまつ)があったとも知らず、試験翌日に新聞に載(の)った問題を眺(なが)めた。中身はほとんどチンプンカンプンで、ただページをめくるだけ。国語の問題に「たま虫を見る」という文章があり、やっと手が止まった

やさしい文章で、言葉の注釈(ちゅうしゃく)もある。「尺(しゃく)―長さの単位」「坪(つぼ)―面積の単位」と親切なこと。「たま虫―光沢(こうたく)を持つ甲虫(こうちゅう)の一種…」ともある。そんな説明がいる時代なのか。ショックを受けた

あの虫と出合わずに成長した人は気の毒である。鮮(あざ)やかな色と輝(かがや)きは、絵の具やパソコンでは出せまい。神がつくった美しい生き物の代表が立派に務(つと)まる。光のぐあいが生む色の変化も、目を奪(うば)う

「たま虫」が珍(めずら)しくなっても、「玉虫色(たまむしいろ)」に説明はいらないだろう。政治家や役人が大切に使う。今度のミスで、首相が試験の改善を指示したという。どう責任をとり、どうやり方を改めるのか。やるともやらないとも読める玉虫色の「答案」が、出てこないとも限らない。