インチキパーツを暴く…にえガレの高強度スイングアームピポットシャフト

2012年1月14日 吉村誠也 

爽快チューンHPのBBS“変態メカニズム談義板”の[2285]に書いた“スゴいもの”は、確か、スイングアームピボットシャフトについて調べものをしているときに検索に引っかかったような気がします。見たくない物を見てしまった不快感を感じつつ、恐いもの見たさにも似た興味本位な気持ちから、ざっと目を通したときの感想が、[2285]だったというわけです。犬小屋も作ったことのない素人大工がスカイツリーの構造材について語るような可笑しさに満ちあふれています。

“聞くは一時の恥、聞かざるは一生の恥”という諺があります。ここで言う“聞く”は“知る”に置き換えてもいいでしょう。私のように厚かましい人間にとっては“聞くは一生の喜び、聞かざるは一生の損”って感じで、知らないことは聞きまくります。しかし、世の中には“聞くは一生の恥、聞かざるは一生の得”を実践されている方もいらっしゃるようです。

さて、このあたりで本題に入りましょう。人真似と受け売りと自慢で塗り固めた某ブログと、そこで展開されている“高強度スイングアームピボットシャフト”や“ダブルナット”についての話です。

《魚拓》
ピポットシャフトの固定を「ダブルナット方式」としたい理由
http://megalodon.jp/2011-1227-2352-52/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-925.html

《引用開始》
ともかく、ピポットシャフトをグイグイと締め付けていくとどうなるか…。とりあえず細かいことは抜きにして、スイングアームが左右にガタつかない程度まで締め付けます。
この状態での締め付けトルクは、メーカーの規定トルクの下限か、場合によっては更に下回ることも少なくありません。
少なくとも、メーカーの規定トルクの上限付近で締め付けると、とてもじゃないけど許容できないほどに動きが悪くなります。
これは先に紹介したノーマルの構造に起因するものです。まぁ、上で紹介した画像をみれば、「締め付けたら動かなくなる」ことが、何となく想像いただけると思います。
もちろんシムをいれて調整などはしていますが、やはり この構造では限度があると思います。
《引用終了》


まず最初に、サービスマニュアルに載っている規定トルク(締めつけトルク)は、無指定の場合は、ネジ部および座面が無潤滑での値であり、二硫化モリブデングリスやスレッドコンパウンドなどで潤滑した場合は、同じ締めつけトルクで締めたのでは締まりすぎ(軸力超過)になりやすい…ということを明記しておきます。

“軸力超過”は、ボルト(この場合はシャフト)に対しての場合もあれば、被締結パーツに対しての場合もあります。弱いパーツを締めつけるのに強いボルトを使った場合は、ボルトよりも先に被締結パーツに対して軸力が超過し、ボルトが破断するよりも先に被締結パーツが破壊されます。

スイングアームピボットシャフトなどという、車体の要ともいうべきパーツを作り、売るほどの御方は、当然、そんなことはご存知でしょうが、ここから先をお読みになる方は、この点に留意が必要です。

上記引用箇所の4つ目の文に“何となく想像いただける”と書いてあるように、書いた本人はそういうふうに“何となく”想像したんでしょうかねえ…。あの図から読み取るべきは、スイングアームピボットには、ステアリングヘッドとは違ってピボットカラー(図中3のパーツ)が入っており、軸力を増していっても動きが悪くならないような構造になっている…ということではないでしょうか。

さらに読解力のある人は、過度な軸力がかかってピボットカラーが減寸した場合、ピボットシャフトの締めつけによってフレームがたわむんじゃないか…とか、ピボットカラーが減寸すると、スイングアーム〜スラストカバー(図中4のパーツ)間の隙間が小さくなり、スイングアームの動きが悪くなるのではないか…という予想もできるでしょう。

ちなみに、ピボットシャフトの締めつけによってスイングアームの動きが悪くなるのは、ピボットカラーの減寸によってスイングアーム〜スラストカバー間の隙間が減少(または消失)して摩擦力が大きくなるケースの他に、フレーム側被締結部分の減寸(摩耗や圧縮が原因)、変形(鋼管やプレートの曲がりによる広がりなど)、スイングアームの変形、ピボットシャフトの曲がり、ピボットカラーの変形や摩耗、ブッシュ(図中2のパーツ)の変形や摩耗などの複合要因によるケースがあります。

複合要因の場合は、本来一致すべき2本の中心線(フレーム左側のシャフト穴中心線とフレーム右側のシャフト穴中心線)が交差したり、ズレたり、ねじれていたり、あるいは、フレームの内側座面(締結力を受ける)がシャフト穴中心線に対して垂直でなくなっていたり、面が歪んでいたりします。そこにピボットカラーを挟み、スイングアームピボットシャフトを通し、シャフトに締めつけトルクを加えると、軸方向以外に、いろんなところにいろんな力がかかります。

それらの力は、軸力を受けたパーツやパーツの一部が、変形させられないように逆らう、あるいは変形させられて元に戻ろうとする力によるもので、スイングアームを取っ払って(ピボットカラーと両側のスラストカバーのみをピボットシャフトで締めつけた状態)考えれば、本来は軸力(中心線と平行)と重力以外の力はかからないはずなのに、実際にはピボットカラーを傾けたり曲げたりしようとする力が生じます。これとは別に、スイングアーム側のパイプ(軸受け部分)に曲がりがある場合も、やはり、ピボットカラーを傾けたり曲げたりしようとする力が生じます。

そうした力を受けたとき、最初に起きるのは、ピボットカラーあるいはスイングアームのパイプに対する、ブッシュの傾きです。スイングアームが回転(スイング)するときの滑りは、ピボットカラー〜ブッシュ間を主、スイングアーム〜ブッシュ間を従として、いずれもブッシュの外周面または内周面と、それに接触する面との間に生じるもので、当然、そこには摺動自在とするための隙間が存在します。

この隙間が、ブッシュの全長にわたって均一な(アキシャル方向に偏在しない)のが理想ですが、上に書いたようにブッシュが傾き、隙間の分布が偏ると、ピボットカラーとスイングアームの間に“クサビ”を打ち込んだような状態になり、局部的に大きな摩擦力が生じます。これこそ、ピボットシャフトを締めつけていったときにスイングアームの動きが悪くなる主因ではないかというのが私の想像です。

素晴らしいピボットシャフトのプロデューサー殿の場合も、“何となく想像”と、うやむやにせず、構造を正しく理解するとともに現状を正確に分析したうえで、ピボットシャフトを締めつけるとスイングアームの動きが悪くなる原因を追求すれば、あるいは、もっとマシな解決法が見つかったかもしれません。でも、彼は原因追求を放棄した。受け売りできる元ネタが見つからなかったのかもしれません。

ステアリングヘッドじゃないんだから、動きが悪くなるのは、締めすぎが直接の原因ではありません。締めすぎによって、どこがどうなるから、結果として動きが悪くなるというのなら話はわかります。しかし、そういう記述はなく、ただ、緩めれば直るみたいに書いてある。構造を理解していない証拠ですね。そして“ノーマルの構造に起因する”などと責任転嫁をしています。構造を理解していない人が“構造に起因する”なんて、冗談もほどほどにしてもらわないと…。

《魚拓》
スイングアームピポットシャフトの採寸 《RZ用 高強度スイングアームピポット予約受付中》
http://megalodon.jp/2012-0106-2003-08/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-922.html

《引用開始》
サービスマニュアルに書いてある規定トルクで締め付けると、どうにも動きが気に入らないからです。この理由については、また別の記事に書きたいと思います。
動きとしてはステアリングヘッドと同じですよねー。横に向いてるか、縦についてるかの違いだけ。動きを考えたら…過大なトルクで締め付けたくはありません。
《引用終了》


ツッコミどころ満載の2文ですね。規定トルクで締めつけたときの動きが気に入らなければ、それは、異常を来しているということです。あるいは(最初に書いたように)、スレッドコンパウンドなどで潤滑したために、規定トルクで締めたにもかかわらず軸力超過になっているのかもしれません。

“理由については、また別の記事に書きたいと思います”と逃げていますが、理由がわかれば得意満面、鬼の首を取ったようにブログねたにしているでしょうから、たぶん、わかっていないんじゃないかと思います。あるいはわかったつもりになっているだけ。

それを象徴するのが“ステアリングヘッドと同じ”の一言ではないでしょうか。確かに、ステアリングヘッドにおけるフレームをスイングアームピボットにおけるスイングアームに例え、ステアリングヘッドにおける左右のフォーク+上下のブラケットから成る構造物をスイングアームピボットにおけるフレーム+クロスメンバーから成る構造物に例えれば、似ている点がないとはいえません。

しかし、決定的に違うのは、ステアリングヘッドにおけるステアリングシャフト(ステムシャフト)とスイングアームピボットにおけるスイングアームピボットシャフトの構造と役割です。ステアリングシャフトは、それ1本で軸の機能を果たす一方、軸力を(ベアリングにかかる与圧程度しか)発生していないのに対し、スイングアームピボットシャフトは、回転の軸として機能するピボットカラーをフレームに取りつけるのが目的で、そのために必要な軸力を発生している…という違いがあります。

“動きとしては同じ”とは書いたが、“構造が同じとは言ってない”などという言い訳は通じません。着眼点が他にある場合はまだしも、締めつけトルクについて述べた文脈中で、スイングアームピボットを“ステアリングヘッドと同じ”という記述を読むと、ステアリングヘッドの構造はわかっているかもしれないけれど、スイングアームピボットの構造については、まったくわかっていないとしか思えません。

まあ、想像で失礼なことを書いてはいけませんので、わかっているかどうかの話はこのへんにしましょう。で、不思議なのは、スイングアームピボットシャフトに関連したどのエントリーを見ても、スイングアームの軸受部を貫通するピボットカラーについて、ほとんど触れていないことです。

《魚拓》
RZに強化スイングアームピポットシャフトの取り付け
http://megalodon.jp/2011-1228-0827-48/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1126.html

《引用開始》
カラーが長すぎると、スイングアームが横方向に遊ぶので、このシムを入れて調整するわけですね。ちなみに、カラーの方が、ほんの少しだけ長くなるようにするのが正解です。
《引用終了》


上に引用した“カラー”というのが、私が先に書いたピボットカラーのことです。構造を理解している人なら真っ先にするはずの、ピボットカラーの減寸や変形を疑うとか、新品のピボットカラーを基準に左右のフレーム側座面間の距離が増えていないかどうか(フレームが広がっていないかどうか)を調べるとか、フレーム側座面の状態をチェックするとか、新品のピボットカラー(変形していないと仮定して)を、ドライ状態で(ここ重要!)スイングアーム(ブッシュを挿入済み)に通してみるとか、同じく新品のピボットカラーに、ドライ状態で(ここ重要!)ピボットシャフトを通してみる…などの基本的な手順がすっかり抜け落ちています。調べたところ、ピボットカラーもブッシュも、まだ新品が出るようですが…。

スイングアームピボットの構造を考えるときに忘れてはならないのは、スイングアームピボットシャフトは、ただ単にスイングアームを回転自在に取りつけているだけではないということです。いや、むしろ、スイングアームの回転の軸になっているのはピボットカラーであり、そのピボットカラーをフレームに固定するとともに、左右のフレームとピボットカラー(柱と梁)から成るH型の強固な構造物を形づくるのがスイングアームピボットシャフトの役割です。

ですから、そのH型の構造物が設計どおりの強度と剛性を得るためには、フレームとピボットカラーを正しく接合させ、規定のトルクでスイングアームピボットシャフトを締めつけ(期待される軸力を発生させ)なければなりません。そうすることにより、被締めつけパーツ群(左右のフレームとピボットカラー+本件RZの場合はスラストカバー)に軸力がかかり、上に書いたH型の構造物に設計どおりの強度と剛性が生じます。

まさか…とは思いますが、スイングアームピボットシャフトってのは、名前のとおり軸であり、スイングアームの回転(スイング)による“滑り”は、ピボットシャフト外周面とピボットカラー内周面の間で起きていると思ってるのでは…? 彼のことだから“まさか”が“またか”である可能性は払拭できません。

《魚拓》
スイングアームの動きを劇的改善させる(案)
http://megalodon.jp/2012-0113-2146-09/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-536.html

《引用開始》
多少はシャフトとカラーの間も動いてると思いますが…
《引用終了》


探してみたら、出てきました。2008年5月28日のエントリー。多少も何も、ここが動くというのは、正しく組み立てられていないからです。にもかかわらず、“ブッシュとカラー間の動きを良くすることで無視できる…”と、冗談のようなことを書いています。

構造を理解していれば、2番目の図に描かれたような箇所(ブッシュとスラストカバーの間)にスラストベアリングを入れたりはしないでしょう。で、そのことをコメントで指摘した(YO'SHI~というのが私です)のですが、まだ気づかないらしく“悩みどころの1つです”などというコメ返があり、3つ目の画像が追加されました。彼の言葉を借りると“理想的にベアリングに仕事をしてもらえる構造”だそうです。ピボットシャフトの締めつけにより、どちらもフレームに固定される2つのパーツに挟まれた位置にあるベアリングが、どうやって理想的に仕事をするんでしょう? 当時の私は、それを読んで爆笑するとともに、徒労感を感じたものです。

これによって、彼がスイングアームピボットの構造をまったく理解していないのがはっきりしました。これが“高強度スイングアームピボットシャフト”を“プロデュース”された御方の正体です。あな恐ろしや…。無知なのも恐ろしいし、“多少は…思いますが…”と自信がない箇所を深く追求しないままモノを作り、それを売っちゃう姿勢もまた恐ろしいと言わねばなりません。

《魚拓》
ピポットシャフトの固定を「ダブルナット方式」としたい理由
http://megalodon.jp/2011-1227-2352-52/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-925.html

《引用開始》
突然ですが、「引張試験」という試験をご存知でしょうか?試験片を試験機でつかんで引張る試験です。
《引用終了》


このページに“突然ですが”と書かれた箇所、ここはまさに突然に、金属材料の、よくある“応力−歪み曲線”のグラフを引用しています。これは、少なくともこの文脈中では、ただの“飾り”。つまり、本論の補強にも補足にもなっていません。

知らない人には、なんとなく関係があるように思える、しかし厳密には無関係な理論(それ自体は正論)を持ち出して、わかったような気にさせる。または、わかってないのにわかったと勘違いさせる。あるいは、わからないとは言えない雰囲気にして、わかってないのにわかったことにさせてしまう…。詐欺師がよく使う手口だそうです。で、普通の詐欺師は、自分が騙されたりはしませんが、どうやら彼の場合は、自分も騙されちゃったようです。

《魚拓》
ピポットシャフトの固定を「ダブルナット方式」としたい理由
http://megalodon.jp/2011-1227-2352-52/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-925.html

《引用開始》
ヤマハがどうして強度の低い7Tを使ったのか。8Tを使えば(緩まないだけの最低限の軸力を確保するためには)標準締め付けトルクが高くなる。その高くなった締め付けトルクでは動作を担保できないと考えたのではないでしょうか。
《引用終了》


あらま。JISやら東日さんの資料を借りて、ご高説を展開された御方が、早々に馬脚を現わしましたね。このへんで笑ってもらおうとでも思ったのでしょうか。上の引用箇所を読むと、この書き手は、締めつけトルク、軸力、伸び、ネジの緩みなどについて、何もわかっていないと思わざるをえません。締め付け力が悪玉のように書かれていますが、(いったん彼の説に従うとして)締めつけトルクを高めるとスイングアームの動きが悪くなるのは、それによって高まる軸力のせいではないのでしょうか?

ちなみに、7Tを8Tにしたからといって、期待する軸力(書き手の言葉を借りれば“緩まないだけの最低限の軸力”)が同じであれば、締めつけトルクが大きくなるということはありません。弾性域で使用している限りにおいて、締めつけトルクと軸力の関係には、ボルトの強度は影響しないからです。ネジの諸元、座面の大きさ、ネジ面の摩擦係数、座面の摩擦係数、以上4点が同じ場合、同じ締めつけトルクに対して得られる軸力は、ボルトの強度に関わらず一定です。

このことは、“彼”が引用している東日さんの資料のP.31に載っている“ネジの公式(1)”によっても明らかです。受け売りできる箇所はパクるけれど、同じ資料に書かれた有用な情報には目を向けない…。自己のへなちょこ論説の飾りにするデータは欲しいが、何でも知ってる俺様が勉強する必要はない…とでも思っているのでしょうか。いや〜、まったく立派な態度という他ありません。

そもそも、あの資料にある“標準締めつけトルク”というのは、個々に規定の締めつけトルクが決まっていない(設計者が指示していない)ネジに対して、そのネジ部品の材質や寸法をもとに締めつけトルクを決めるときに参考にすべきガイドライン的な数値で、東日に限らず、いろんなところがいろんなデータを(いずれも“参考値”として)提供しています。それらの多くは、適正(標準)締めつけ軸力を、“規格耐力(下降伏点)の70%を最大とする弾性域”というふうに設定し、その軸力を得るのに必要な締めつけトルクを逆算して求め、それを適正締めつけトルク、あるいは標準締めつけトルクと呼んでいます。

だから、7Tを8Tにする、つまり、強度を上げて規格耐力を高めれば、“標準”締めつけトルクが大きくなるのは当然ですが、標準締めつけトルクと“緩まないだけの最低限の軸力”を得るために必要となる締めつけトルクの間に直接の関係はなく、“緩まないだけの最低限の軸力”のほうは、むしろ、想定しうる最大の外力を受けてもネジ面や座面に滑りが生じない摩擦力をネジ面や座面に与えるためのもので、ネジの諸元・摩擦係数・被締結部品の材質・使用箇所に特有の構造などをもとに個別に検討すべきものであり、ボルトの強度と“緩まないだけの最低限の軸力”の間にも比例や相関などの関係はありません。

《魚拓》
ピポットシャフトの固定を「ダブルナット方式」としたい理由
http://megalodon.jp/2011-1227-2352-52/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-925.html

《引用開始》
・ノーマルの構造で動きを担保するには、締め付けトルクに限度がある。
・この限度内では、ボルト&ナットが緩まないだけの軸力を与えづらい。
《引用終了》


ひとつ前のところで指摘したように、やはり、この書き手は、“動きを悪くするのは締めつけトルクで、ネジが緩まないようにしているのは軸力”と理解しているようです。砂上の楼閣が崩れはじめましたが、まだ気づかずに“ダブルナット”なるものを持ち出してきました。こういうのを“屋上屋を重ねる”と言います。

些事に突っ込みますと、このエントリーのタイトルにある“理由”というのは、どこを読んでも発見できません。緩まないだけの軸力が得られなかった場合、純正のセルフロックナットなどではダメ…ということが、それとなくわかる程度。で、その後のエントリーをチェックしても、どこにも“ダブルナット方式としたい”理由は書かれていません。きっと、お得意の“何となく緩みにくい気がした”程度の“理由”なのでしょう。

《魚拓》
RZに強化スイングアームピポットシャフトの取り付け
http://megalodon.jp/2011-1228-0827-48/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1126.html

《引用開始》
ロックナットをキュっと締め付けて完成です。長さもバッチリだ(^^)
あ、そうそう、ロックナットはバカ力で締め付けちゃダメですよ。
《引用終了》


で、ダブルナットにした“理由”を説明することなく、とうとう取りつけてしまい、ロックナット(ダブルナット方式でいうところの上ナット)の締め方について書いたのが、上に引用した箇所です。得々と下ナットの締めつけトルクについて書くのなら、上ナットは“キュッ”ではなく、“プロデュース”されたご本人が、自らお使いになったときのトルク値を示していただきたいものです。

そもそもダブルナットは、上下2個のナットの締めつけが終わったとき、上ナットのスレッド(ネジ山の斜面)上面が軸力を受けとめ、下ナットはスレッド下面がボルト(本件ではシャフトのネジ部)のスレッド上面と接触した状態になり、ボルトに生じた軸力に対しては、極論するとワッシャのような存在(つまり、軸力は受けるが、それは自身のネジのスレッドを通してではない)になるわけです。

下ナットを締めつけた後に上ナットを正回転で締めつけていくと、トータルな軸力が増加していくのと合わせて、下ナットが発生する軸力は低下していきます。ですから、ダブルナットの使用を前提として下ナットを65Nmで締めたのであれば、“下ナットを○Nmで締めつけた後に、上ナットを×Nmで(正回転で)締めつけると、このくらい軸力が高まるから、本来は○Nm程度にしたかったのを、65Nmにした”というふうに例示すべきでしょう。それとも、上ナットを締めつけるとトータルの軸力が増し、下ナットが発生する軸力は低下するなんてことは知らなかった?

で、もともと“設計どおりの構造物としての強度と剛性を得る”ことを無視して構築された屁理屈以下のヨタ話であり、できあがったシャフト+ナットですから、砂上の楼閣もいいところなんですが、このシャフトに正規の軸力を与えて使いたい人(いれば…の話ですが)にとって、ダブルナット方式というのは困りもの。余計なお節介もいいところです。

軸力を低下させず、かつ、ダブルナットに緩み防止効果を発揮させるとなると、締めつけにはいくつかの決まりごとがあります。ダブルナットは、上ナットをメイン、下ナットをロックナットにし、上ナットを締めつけ後、下ナットを逆回転させてロック(下ナット逆転法)するのが効果的で、仮に上ナット正転法でいくとしても、軸力を受けるスレッドが上ナットにあることに変わりはなく、上下等厚、または、どちらかを薄くするなら下ナットであるべきだからです。

また、下ナット逆転法であれ上ナット正転法であれ、ダブルナットに緩み止め効果を発揮させるためには確実なロック(これを体感しやすいのが下ナット逆転法)が必要で、もともと(本人も認めているように)緩み止めの効果が充分とはいえない程度の軸力しか発生していない下ナットに対して、中途半端に上ナットを重ねて正回転させるのは、ほとんど意味のないことであると言わざるをえません。

締めつけの強い/弱いに関わらず、スイングアームピボットシャフトのナットが緩むのは、緩み回転によるものではなく、軸力の低下によるものでしょうから、緩みやすい状態を作っておいて、緩み止めをしたつもりが、さらに緩みやすくなっているという、おかしな話になってまんな。

正規の長さ(減寸していない)を持ち、曲げと圧縮に強い材質/形状/寸法で、フレームとの隙間調整を容易にできるような工夫を凝らしたピボットカラーと、表面の潤滑性を確保したうえでピボットカラー外周面やスイングアーム内周面とのクリアランスを詰めた(傾きにくい)ブッシュをセットで作るか、あるいはもう、ブッシュには見切りをつけてベアリングでも入れてしまえば“お、さすが”なんですが、100年早いですね。上のほうで引用した2008年5月のブログにある、ベアリングを入れて作動性を高める案も、もとの構造が理解できていないから、頓珍漢なまま、3年経っても煮詰まらなかったのでしょう。

インチキパーツを、ただ自分のバイクに取りつけて使っているだけなら、ブログで自慢しようが(恥を晒そうが)、読者を騙そうが、いっこうにかまいません。私がこの一文を書くこともなかったでしょう。でも、もとがインチキパーツだから、黙っていたのでは売れない。で、ぺらぺらしゃべりまくる詐欺師よろしくブログに書きまくる。ついでに、自分のことは棚に上げて、よその商売にケチをつける。

《魚拓》
クロモリの丸棒が届きました (プロトタイプ用の素材)
http://megalodon.jp/2012-0106-2030-06/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1002.html

《引用開始》
巷には、多くのカスタムパーツが溢れています。素材、材料、表面処理などについて、説明されているものは多いとは言えません。使う側としては、ちょっと怖い。
心配になって問い合わせてみると、「大丈夫」などの返事が返ってくる。
いやいや、どうして大丈夫なのか説明してよ!と突っ込んでみると、明確な答えが得られなかったり、「レース用だから」とか訳の分からんことを言われたりすることも少なからずあります。

自分でモノを作ってみよう!と思ったキッカケです(^^)
《引用終了》


ご高説、ごもっともでございます。確かに、素材、材料、表面処理などについて説明されていないものは、怖いかもしれません。しかしねえ、何もわかってない人が間違った考え方に基づいて作った、それこそ“訳のわからん”インチキパーツが安心ですか? このさい、はっきり言いましょう。作ってみようと思うのも、作ったパーツを試すのも勝手ですが、スイングアームピボットの構造も、締めつけトルクと軸力の関係も理解できないアナタには、自分でモノを作るのは(インチキパーツ以外)無理です。

騙そうという“故意”が明白ではないため、残念ながら詐欺罪に問うのは難しそうです。だから、詐欺とは書かず、“インチキ”と表現するに留めますが、自信と鼻息の荒さだけは誰にも負けないインチキ商法に惑わされて買ってしまったお客さんこそいい迷惑です。

商道徳上、開発および販売の中止〜訂正記事の公開〜謝罪〜すでに販売された商品の回収(買い戻し)という対応が必要と思われますが、私自身は被害者ではないので、この件に関しては、騙された方々の出方を見守りたいと思います。

こうしたインチキパーツ、詐欺まがい商法の迷惑を被るのは、お客さんだけではなく、パーツ業界はもとより、オートバイ業界全体もまた然りでしょう。こうした類のインチキ業者が淘汰されることを願い、この一文を著した次第です。

私の愛読書、ゴルゴ13の中から、彼に最適の言葉を贈りましょう。第107話“スキャンダルの未払い金”の最後のシーンで、ゴルゴ13が“閣下”に向かって言い放ったセリフです。「思いつきだけで行動するのは・・・愚か者のすることだ・・・それを・・・得意気に話すのは、もっと愚か者のすることだ・・・」 ズキューン。


参考URL(すべて魚拓)

スイングアームの動きを劇的改善させる(案)
http://megalodon.jp/2012-0113-2146-09/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-536.html

高強度 スイングアームピポットシャフトの開発 《予約受付中 RZ250/350用》
http://megalodon.jp/2012-0107-0053-07/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-920.html

スイングアームピポットシャフトの採寸 《RZ用 高強度スイングアームピポット予約受付中》
http://megalodon.jp/2012-0106-2003-08/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-922.html

フロントのアクスルシャフトも…。ついで?にRZRのピポットシャフトもいっときますか。
http://megalodon.jp/2012-0106-2006-15/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-924.html

ピポットシャフトの固定を「ダブルナット方式」としたい理由
http://megalodon.jp/2011-1227-2352-52/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-925.html

製作対象を決定しました 《強化シャフト類の図面?スケッチ?を書いてみた》
http://megalodon.jp/2012-0106-2008-50/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-930.html

高強度シャフトの進捗状況(予約受付期間を延長します)
http://megalodon.jp/2012-0106-2011-28/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-936.html

高強度シャフト 予約受付の締切日が近づいております…
http://megalodon.jp/2012-0106-2018-30/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-962.html

【SR&GX フロントアクスルシャフト周りの強化キット】の概要
http://megalodon.jp/2012-0106-1840-45/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-995.html

クロモリの丸棒が届きました (プロトタイプ用の素材)
http://megalodon.jp/2012-0106-2030-06/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1002.html

高強度ピポットシャフト&アクスルシャフト発送開始しております
http://megalodon.jp/2011-1228-2210-20/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1084.html

RZ&RZR用 高強度ピポットシャフトと、高強度アクスルシャフトのインプレ
http://megalodon.jp/2011-1228-0002-11/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1124.html

RZに強化スイングアームピポットシャフトの取り付け
http://megalodon.jp/2011-1228-0827-48/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1126.html

RZに装着した、高強度ピポットシャフトのファーストインプレッション
http://megalodon.jp/2012-0110-2353-22/niegare.blog118.fc2.com/blog-entry-1137.html


参考画像(スイングアームピボット組み立て方法の一例)

2ストロークレーシングハンドブック'89”、P.197より