2011年11月23日 10時18分 更新:11月23日 12時50分
22日に地球へ帰還した古川聡宇宙飛行士(47)が長期滞在した国際宇宙ステーション(ISS)で、新たな課題が浮上している。ISSを往復する「唯一の足」を握るロシアの宇宙開発にトラブルが相次いでいることに加えて、今年7月の米スペースシャトル引退により、無重力環境を活用したさまざまな実験の成果物を持ち帰ることが難しくなった。今年完成したばかりのISSが、十分活用できない恐れもある。【野田武、モスクワ大前仁、アスタナ(カザフスタン)比嘉洋】
古川さんが乗り組んだソユーズ宇宙船が雪原に着陸して30分。古川さんが運び出される映像が流れると、モスクワ近郊の飛行管制センター(ツープ)では静かな拍手が起きた。会見に臨んだロシア宇宙庁のダビドフ副長官は「全員におめでとうと言いたい」と笑顔をみせた。
控えめな喜びようの背景には、ロシアが直面する困難がある。8月末、無人貨物船「プログレス」打ち上げに失敗。飛行士を運ぶソユーズロケットとエンジンが同型のため、一時は有人活動がストップすると危ぶまれた。今月上旬には、中国の火星探査船を積んだ衛星を軌道に乗せる試みが不調に終わった。
ロシアでは昨年末から測位システム衛星や軍事衛星の打ち上げ失敗が続いており、国内では「予算不足の時代が続き、優秀な人材が流出した」(雑誌「宇宙飛行学ニュース」のリソフ解説員)との観測が広がる。
外国人飛行士を搭乗させるための年間契約料は約3億3500万ドル(約250億円)、宇宙庁予算の1割弱に相当する。今回の帰還成功で「金のなる木」といえるソユーズ宇宙船の安全性はアピールできたが、一連の失敗は「安全」の看板に影を落とす。
さらにソユーズは、人の輸送に特化した構造のため、モノの輸送力が低い。貨物船プログレスは打ち上げ専用。融通しあわない限り、ソユーズで持ち帰れる荷物は「弁当箱サイズがせいぜい」(宇宙航空研究開発機構=JAXA)。大同大(名古屋市)の澤岡昭学長(宇宙利用戦略論)は「ソユーズ頼みが続けば、実験の材料や生物などを持ち帰れなくなる」と指摘する。
JAXAは現在、国産の無人補給機「こうのとり」(積載量6トン)を改良して、荷物を持ち帰れるようにする研究を始めているが、完成時期は不明。シャトルの後継機開発もめどが立っていない。輸送力が限られる状態では、ロシアが自国の実験を優先する恐れもある。