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暴対法改正へ その背景と効果は
暴力団による不当な要求行為などを規制する「暴力団対策法」。
警察庁は暴力団への取り締まりをさらに強化するため法改正を進めていて、このほど改正案の骨子がまとまりました。
なぜ今、規制の強化が必要なのか。
社会部の藤本智充記者が解説します。
相次ぐ暴力団の襲撃事件
暴力団に利益を提供することなどを禁じた暴力団排除条例が、去年、すべての都道府県で成立。
タレントの島田紳助さんが、暴力団関係者との親密な交際を理由に芸能界からの引退を迫られるなど、今、社会から暴力団を排除しようという機運が高まっています。
その一方で、福岡県を中心に暴力団との関係を断とうとする民間企業などが、拳銃や手りゅう弾で襲撃される事件が、去年、相次ぎました。
警察庁によりますと、分かっているだけでこうした事件は27件に上り、1人が死亡、4人がけがをしています。
このうち北九州市では、去年11月、建設業団体の副会長を務めていた男性が、自宅前で拳銃で撃たれて殺害される事件まで起きています。
警察庁が暴力団対策法の改正に乗り出した背景には、こうした暴力団によるとみられる凶悪な事件が後を絶たないにもかかわらず、従来の法律の枠組みでは実行犯を特定するのが難しくなってきているという現状がありました。
日本では、暴力団の犯罪が組織化、巧妙化するなか、海外の捜査機関のように、▽犯行の計画について謀議しただけで摘発できたり、▽おとりによる潜入捜査が認められたりといった組織犯罪に対する捜査手法が確立されていません。
こうしたなか、一連の事件で警察が実行犯を検挙できたのは僅か1件にとどまっているのが現状です。
改正される暴対法 ポイントは
そこで警察庁は、実行犯を特定できなくても組織としての事件への関わりを認定することで暴力団の取り締まりを強化できる新たな仕組みを作ることにしたのです。
改正の柱は▽民間企業や企業の役員を狙って襲撃事件を起こした暴力団。
そして▽一般市民に危険が及びかねない対立抗争事件を起こした暴力団。
この、特に危険と認められる暴力団の取り締まりの強化です。
その仕組みです。
まず、企業などへの襲撃に関与したことが裏付けられた暴力団については、都道府県の公安委員会が「特定危険指定暴力団」に指定します。
指定にあたっては、襲撃の実行犯が特定できなくても▽被害者が事前に暴力団側からの要求を拒んでいたり、▽警察が裁判所から令状をとって暴力団事務所をすでに捜索していたりといった事実があれば指定できるようにします。
次に、被害にあった企業の周辺や指定された暴力団の縄張りをもとに、取り締まりを強化する「警戒区域」を定めます。
今の法律では、組員が企業や個人に対して用心棒代や工事の下請けへの参入などを要求した場合、まず公安委員会が中止命令を出したうえで、その組員が従わない時に初めて逮捕できます。
改正案の骨子では、「特定危険指定暴力団」とされた暴力団に所属する組員が、警戒区域の中でこうした要求を行えば、どの組員であってもすぐに逮捕できるようになります。
摘発の対象となる要求行為の相手は、警戒区域内のすべての会社や個人に及ぶほか、区域内の会社に関係する要求が区域外にある本社や役員に対して行われた場合も対象になるとしています。
また、市民に危険を及ぼしかねない対立抗争事件を起こした暴力団については、「特定抗争指定暴力団」に指定し、同じように警戒区域を定めて取り締まりを強化します。
こちらも、実行犯が特定できなくても組織としての関与が裏付けられれば指定できる仕組みです。
警戒区域内で指定された暴力団の組員が、対立する側の暴力団員につきまとったり、関係先をうろついたりするといった抗争を誘発するような行為をしただけで逮捕できるようにします。
一方で、暴力団側は指定に対する不服の申し立てができるということです。
このほか、改正案の骨子では▽不当な要求に対する罰則を、現在の懲役1年または100万円以下の罰金から懲役3年または500万円以下の罰金に引き上げるほか、▽暴力団の追放運動を進める団体が、住民の代わりに暴力団事務所の使用差し止めを求める裁判を起こせる仕組み作りも検討するとしています。
効果はあるがきちんとした判断を
今回の法改正について、暴力団対策に詳しい村上泰弁護士は「海外と比べて組織犯罪に対する捜査手法が限られている日本で、今までのような個人に対する規制ではなく暴力団組織そのものを規制するという法改正は、非常に意味があるし効果もあると思う。ただ、実行犯が特定できないなかで、状況証拠から新たな指定を行うにはきちんとした判断が必要で、暴力団側に裁判を起こされるリスクも考慮してしっかりと運用するよう努めるべきだ」と話しています。
警察庁は法律の改正案を次の通常国会に提出し、早ければことしの夏に施行したい考えです。
暴力団との交際には厳しい態度で
ところで、暴力団排除を巡っては、4日、吉本興業の社長が、大阪での年頭の記者会見で島田紳助さんの将来的な芸能界への復帰を希望する考えを示しました。
吉本興業の大崎社長は「私たちは、彼の才能を惜しむ者です。社会やファン、マスコミの皆さんの理解が得られれば、いつの日か、吉本興業に戻ってきてくれるものと信じている」と発言したのです。
吉本興業の子会社で島田さんの所属事務所の社長は、去年の引退会見の席で、「暴力団との親密な交際は理由を問わず許されないもので、多数のテレビ番組にメイン司会者として出演していることなどを考えれば、事務所としては厳しい態度で臨むべきだ」と述べています。
大崎社長の発言に対しては、警察関係者などから首をかしげたくなるといった反応も聞かれます。
吉本興業が暴力団との関係があったタレントに対し今後、どのような姿勢で臨むのか注目されます。
(1月5日 21:05更新)