初優勝を決め、尾上親方(左)らと乾杯をする把瑠都=東京都大田区の尾上部屋で
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◇初場所 13日目(20日・両国国技館)
大関把瑠都(27)=本名カイド・ホーベルソン、エストニア出身、尾上=が大関琴奨菊(27)=佐渡ケ嶽=を下手投げで退け、初日から13連勝で初優勝を決めた。エストニア出身力士の優勝は初めて。欧州出身者では琴欧洲に次いで2人目、外国出身者では9人目の優勝力士となった。
横綱白鵬(26)=宮城野=が大関琴欧洲に寄り切られて2敗力士がいなくなり、2日を残して優勝が決まった。把瑠都は2004年夏場所で初土俵を踏み、06年夏場所で新入幕を果たした。
感激の瞬間は思わぬ形でやってきた。把瑠都は琴奨菊を豪快に投げ飛ばし、ご機嫌で着替えを済ましたあとの支度部屋。「さあ、帰ろうか」と立ち上がったところ、付け人に「もし優勝が決まればインタビューがある」と聞かされ、もう一度腰を下ろした。
その数分後。見つめるテレビに横綱白鵬が敗れるシーンを確認すると声こそ出なかったが、人懐っこい笑顔は、みるみるうちに崩れていく。
「夢みたいなこと。人間やればできるもんですね」。瞳をうっすらと潤ませ、胸を張った。
来日して8年。一緒にエストニアから初土俵を踏んだ北欧司は角界になじめず、わずか半年で帰国。
孤独を味わいながらも2005年秋、所要8場所と史上3位タイ(当時)のスピードで十両に昇進したが、左膝のケガに何度も泣かされ、角界一のパワーを誇るエストニアの怪人は悩み、苦しんだ。届きそうで届かない優勝賜杯。そんなもどかしさを吹き払うように年頭の目標に「初優勝」を公言。自らにハッパを掛けた。
そんな把瑠都を支えたのは母親のティーナさん(49)。場所前の電話で励ましてくれたのは「迷うことなく相撲をとりなさい」の言葉だった。「“迷わない”のひと言がずっと頭にあった。(優勝は)気持ちの問題だ、と。感謝の気持ちでいっぱいです」
ティーナさんは22日の朝、来日予定。千秋楽の一番のあと支度部屋での記念撮影に母親も加わることになっている。「相撲とり、みんなの夢じゃないですか」と感慨深げに語った。
そしてこの日、地下駐車場で待っていたのは運転席のエレナ夫人ともう一人。朝、来日したばかりの妹のピレさん(25)が白いワゴン車の一番奥に座って兄を迎えた。
「人間って、いいところがあれば悪いところもある。奥さんは、かなり我慢していたと思う。すごく力になった。ケガなく思いっきり。あと2日間頑張ろうと思います」
車に乗り込む直前、報道陣から「まだ一つ上がありますね」と声を掛けられ「ありますね」と小さくうなずいた。高く、厚かった壁を乗り越えて次なる目標は横綱の座。大田区池上の尾上部屋では突然の優勝に「何も準備ができてない」と大慌てだったが、稽古場で乾杯し、親方をはじめ部屋関係者で感激に浸った。 (竹尾和久)
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