原子炉建屋やタービン建屋、トレンチ(坑道)などにたまった11万トン以上の放射能汚染水が福島第一原子力発電所敷地内からあふれ出す恐れがあるため、汚染水を浄化して再び原子炉に戻して冷却する「循環注水冷却」が7月2日午後6時頃、ようやく本格稼働を始めた。汚染水の増加を抑え、7月17日を区切りとする工程表の「ステップ1」を実現するための「原子炉の安定冷却」に向けて動き出した。
相次ぐトラブル、なお塩ビの配管に不安
循環注水冷却を行うための汚染水処理装置(汚染水浄化設備)は、油分分離装置(東芝)、セシウム吸着装置(米キュリオン社)、薬剤を混ぜ放射性物質を沈殿させて取り除く除染装置(仏アレバ社)、津波による海水の塩分を除去する淡水化装置(日立など)から成る。配管を含め装置全体が大掛かりになるうえに、試運転に十分な時間をかけらなかったことから、これまで何度もトラブルに見舞われていた。主なトラブルを下表にまとめた。
トラブルの中には「除染装置の処理水タンクの水位設定を『30%』以上とすべきところを『3%』と誤って設定」するなど人為ミスも含まれ、東京電力は「手順書などで確認作業を徹底させる」としている。
また塩化ビニル製ホースに2度もトラブルが起きた。浄化した水を原子炉へ送るホースは長さ1.5キロにも及ぶ。直径約10センチ、長さ20メートルの塩化ビニル製の硬質ホースを何本もつないでおり、継ぎ目が外れて水が漏れたり、小さな穴2カ所から噴霧状の水が漏れたりした。今回の設備は応急措置的なもので、鋼管を使わずに塩化ビニル製ホースを使っているため、今後も同様のトラブルが生じる恐れがある。定期的にしっかりと点検することが必要だ。
東電の6月26日発表によると、処理水の放射性物質の濃度は、ヨウ素131が1100ベクレル/立方センチ、セシウム134が15ベクレル/立方センチ、セシウム137が18ベクレル/立方センチとなり、処理前に比べてそれぞれ3分の1、15万分の1、13万分の1に低減できたという。
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