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イランのアッバス・キアロスタミ監督が日本で新作を撮っている。元大学教授の老紳士と女子学生の恋。世界的巨匠はなぜ日本人による日本語のドラマに挑むのか。撮影現場を訪ねた。
初冬の風が吹く横浜。みなとみらいの空き地にセットが組まれていた。窓辺に立つ老女が女子学生に向かって、ほとんど独白のように思い出話をしている。 カメラはいつのまにか回り始めた。台本で8ページ、15分におよぶ芝居を止めずに、ワンカットで撮る。 黒のサングラスに黒の野球帽のキアロスタミは、じっとしていなかった。手を大きく回して風の吹かせ方を指示する。セットに駆けより植栽を動かす。外壁の照明を微妙に暗くさせる。老女の後ろの壁に台所道具をかけさせる……。モニター画面をのぞき、カメラのレンズも変えさせる。 いきなり本番 キアロスタミの映画の特徴は、あたかもドキュメンタリーのような自然なたたずまいにある。ところが、この日の現場での画作りは驚くほど緻密だった。 さらに驚いたのはテストと本番の区別がないこと。通常の映画の撮影現場ではテストを数回繰り返し、段取りを固めて本番に入る。ところがキアロスタミは初めからカメラを回す。 「テストで気楽に演じていた俳優が、本番では緊張してしまうから」とキアロスタミ。デジタルカメラならではの方法だが、自然な演技を引き出すためだ。 自然な存在感を緻密に演出する。出演した俳優、加瀬亮も証言する。「彼は映像を通したものしか信用しない。カメラを回し、映像を見て、決めていく。位置はこことか、ここで右を向けとか」 撮影後は馬車道の東京芸術大学で編集するのが日課。対話する人物の位置が少しでもずれていると、撮り直し。「画の人。自然に見えて全部計算ずく」と加瀬。 新作「ライク・サムワン・イン・ラブ」(原題)は夜8時から翌日の昼下がりまで、18時間の物語だ。 コールガールをしている女子学生がタクシーで老紳士の家に向かう。上京した祖母が駅前広場で待っているが、その姿を車中から隠れ見るだけだ。翌朝、女子学生を大学まで送った老紳士は、彼女の恋人の青年と出会う。青年は彼女の祖父だと勘違いする……。 この国だけの表情 キアロスタミは十数年前に六本木の電話ボックスに張られたチラシを見て、祖母の場面を思いつき、仮撮影もした。フランスの制作者から「欧州で撮ればいい」と提案されたが「これは日本でしか撮れなかった」という。 「おじいさんと若い女性の表情だよ。この年齢で、恥じらって顔を赤くする女性は日本でしか見つからない。ほかの国にはいない。品のあるおじいさんも」 オーディションで選んだのは奥野匡と高梨臨。自分のイメージを優先し、有名俳優は選ばなかった。 「俳優が入ることで、脚本は変わる。彼らの性格や使っている言葉にあわせて、変えていく。それが私のスタイルだ」とキアロスタミ。「2人はうまかった。セリフはどんどん変わったが、自分のものにした」 イタリアで撮った前作「トスカーナの贋作(がんさく)」に続く外国での制作。イランの映画状況が不安定なこともあり、当面は外国で撮るという。「方法は変わらないが、スピードアップした。外国だと無駄な時間がない。それになぜか日本ではホームシックにならない」 編集はイラン、仕上げはフランス。今年度に創設された文化庁の国際共同製作映画への補助金も実現を後押しした。3月に完成し、日本では夏公開の予定だ。 さて、どんな映画になるのか? 意外にも「私の作品の中では『友だちのうちはどこ?』に一番近い」とキアロスタミ。楽しみだ。(日経新聞1/17)
Last updated
January 18, 2012 06:50:50
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