2012-01-20

面倒な仕事

いちばん危険なのは、面倒な仕事を嫌がる気持ちの多くが無意識であることだ。無意識に、面倒で嫌な仕事が伴うアイデアが浮かばなくなってしまう。これが「面倒な仕事の無視」だ。
The most dangerous thing about our dislike of schleps is that much of it is unconscious. Your unconscious won't even let you see ideas that involve painful schleps. That's schlep blindness.

このコラムには本当に大切なことが書かれている。近年ずっと感じてきた違和感が、文章になっている。

面倒な仕事、というのは事務作業がどうだとかそういう話ではなく、ここに引用したように「それをすることを無意識的に避けてしまって、本来そのサービスがやるべきことまで曲げてしまうような」そいうことだ。

例えばコミュニケーション主体のサービスを作るとする。多くのコミュニティというのは人が集まらなければ面白くなけど、面白くないと人が集まらないというブートストラップがあって、それがまず厄介な問題。そして人が集まると今度は、ユーザ同士がもめ事を起こすとか、あるいは想定外に社会的問題のある行為に使われるとか、そういうのにも向き合う必要がある。ユーザーからの意見に対して真摯に向き合うということも。この辺はエンジニアリングの話ではなくて人と人との話だ。だから人付き合いが苦手、とか、もめ事はなるべく避けたいとかいう性格上の理由でつい、そういう問題と向き合わなくていいような企画ばかり考えてしまう、なんてことは誰しも経験したことがあるはずだ。

最近、知人が転職したということでネットオフという会社を知った。そもそもブックオフの買い取りサービスっていうのがあって、自宅で処分したい本とかDVDとかを段ボールにつめておくだけで、ネットで手続きするだけでそれを取りに来てくれて、お金は銀行に振り込んでくれるっていうのがある。ネットオフでも全くおなじ手続きで売却できるんだけど、より高く売れる。彼らはブックオフとは違い店頭を持たず、また販売チャネルを Amazon のマーケットプレイスなどを使うことで、経費をなるべく削減しまた買い取った品物の売却価格に市場原理を働かせることで、より高い値段での買い取りを実現している。

ブックオフの買い取りも、ネットオフの買い取りも素晴らしいなと思うのは、自分は段ボールにつめておくだけでいいってことだ。品物、つまり彼らにとっての在庫、は全部持って行ってくれるし、面倒な発送手続きとか、売却手続きは全部肩代わりしてくれる。価格のつかないような本はその場で処分してもらうこともできる。例えばこれを、オークションで売ろうだとか、近所の古本屋に売ろうだとかすると、いろいろ面倒な手続きがあって気が滅入る。それだけで処分する気がなくなる。そういう面倒を一手に引き受けてくれている。

ブックオフも、ネットオフもそういうユーザーの面倒を引き受けてくれているという点で素晴らしいんだけれど、当然彼らの視点からみるとリスクが伴う。それが引き取った在庫の管理という点だ。全国から膨大な量の在庫を集めてそれをストックあるいは管理する必要があるので、そこには当然ただならぬコストがかかる。ブックオフは店舗を通じた流通チャネルで、ネットオフは地方にある大型コンテナを母艦にすることでその問題を解決している。

ネットを使って要らなくなった物のトレード、みたいなサービスの企画にはいろいろ夢があるだろう。不特定多数とコミュニケーションできるようになったおかげで、本当に欲しいと思っている人にそれを届けられるとか、あるいはより高く買い取ってもらえるのではないか、とか。それで、実際にサービスを作ろうと思う。すると、この在庫の問題が出てくる。そのコストをどうするか。自分達がそのコストを担えないなら、ユーザーに担わせてしまえばいい、みたいな考え方もあるだろう。それがオークションのような仕組みであり、ユーザー主体の物々交換のような仕組みだと思う。

そこに罠が潜んでいる。ユーザーであるぼくなんかは、とにかく家が本のせいで狭くなったから処分したい。でも、いちいち一冊ずつ欲しい人に手渡すとか、オークションに出すとか、近所の古本屋に売りにいくとかそんなのは面倒くさい。誰かが、勝手にもっていってくれて、売れる本だけ売ってくれたりしないかとか、そんなことを考える。でも、そんな面倒なこと引き受けてくれる人なんていないよなあ ─ と思っていたら、リスクを取って、そんなことを事業化しているサービスがあった。

彼らのビジネスはそういう、面倒を避けなかった。だからこそ、ユーザーにとって意味のあるサービスになったし、ぼくのようなユーザーの問題を解決するにいたった。彼らのビジネスがネットのサービスだからといって、エンジニアがコードだけ書いていればよかったようなサービスだなんて、誰も思わないだろう。

これは極端な例だけれども、多かれ少なかれ、ウェブサービスを作るときに自分が解決したいと思う問題領域にはそのような面倒な仕事というのが埋まっていると思う。そしてそういう問題を避けたいばっかりに小さく縮こまってしまったサービスとか、長く使われないサービスとかそういうのが世の中にはいっぱい転がっている。(間違った)プロダクトアウト、つまり、自分が、あるいは自分たちが「今できることだけ」から出発してサービスを作ろうとするとこういう罠に嵌りやすい。

─ ということもあって、世の中的には、解決したい問題から先に考えてサービスを考えようみたいな風潮が強いけれどもそれはそれで個人的に課題があると思っているが、それについてはまた今度。

なお、本記事はネットオフのステマではありません。(言いたいだけ)