フィリピン 2011年5月12日(木曜日)
勤勉性や協業実績アピール:在日大使館がITOセミナー開催[IT]
在日フィリピン大使館とフィリピン・ソフトウエア産業協会(PSIA)は10日、東京で情報技術(IT)アウトソーシング(ITO)産業の最新事情を紹介する「フィリピンソフトウエア・ITアウトソーシングセミナー」を開催した。各講演者は、人材の豊富さや日本との近接性、協業実績などを中心にアピール。大企業にとって魅力的なだけでなく、中小企業のパートナーとして適した協業先も多数有していると訴えた。(東京編集部・大畑知則)
今回のセミナーは11〜13日に東京ビッグサイトで開催される第20回ソフトウエア開発環境展(SODEC)に出展するPSIA加盟企業8社の来日に伴い実施された。
フィリピンはITOとビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)市場でインドに次ぐ世界2位につけており、昨年はコールセンター(音声BPO)部門で売上高61億米ドル(約4,900億円)を計上。この分野ではインドを抜き、世界一の規模を達成した。今年の業界全体の目標売上高は、前年比で20%以上の伸びとなる110億米ドルを見込む。
こうした市場の成長性を期待する参加者が多数詰めかけたため、当初50人の予定だった収容人数を100人に変更。会場となったフィリピン大使館の一室はあふれるほどの満席となり、注目度の高さが伺えた。
冒頭にあいさつしたマヌエル・ロペス駐日大使は東日本大震災について、正確な情報をタイムリーに提供するIT分野の重要性が再認識されたとコメント。「今回のようなセミナーの開催がIT産業にとどまらない2国間関係の強化につながる」と述べ、日本語で「お互いがんばりましょう」と結んだ。
1つ目の基調講演は、情報通信技術委員会(CICT)のウイ委員長が、「フィリピンの国家デジタル戦略とITO/BPO業界ロードマップ2011―2016」と題して行った。
同委員長は、フィリピンITO/BPO産業の売上高が世界的な不況にもかかわらず09年(71億米ドル)に前年比10億米ドル増、10年にはさらに20億米ドル近く上昇して89億米ドルに達するなど、右肩上がりだったと指摘。昨年だけで8万人分の新規雇用を創出したことに言及した。
フィリピン政府は16年にIPO/BPO分野の売上高200億〜250億米ドルを達成するとともに、同分野の雇用を現在の52万人から90万〜130万人まで引き上げたい意向だ。同委員長はこれらの実現について、「日本からのさらなる受注が必要になる」と訴えた。
また、東日本震災時に多くの外国人が出国する中でフィリピン人のIT技術者が日本にとどまった点を強調。協業の際には、「こうしたロイヤルティーや勤勉性が期待できる」と語った。
2つ目の基調講演は、140社が加盟するPSIAのコロネル理事による「フィリピンソフトウエアとITサービスのグローバルゲートウェイ」。同理事は、アクセンチュアやIBMなどの多国籍企業とともに、富士通やキヤノン、NEC、富士通テン、イオンなどの日本の大企業も既にフィリピンのITアウトソーシングを活用しているが、「中小企業の協業先としても適した企業が多くある」と主張した。中国やベトナム、インドといったオフショア先の競合国と比較した強みに関しては、◇チームワークを重視する気質◇親日性◇日本の情報処理技術者試験であるITSSの試用を開始すること――などを挙げている。
■育成のつもりで協業を
続いて日本アイ・ビー・エムの毛呂寿人氏(GBS金融アプリケーション開発・地銀ソリューション・第二デリバリー担当)が協業の経験を講演した。
同氏は「フィリピン人が中国人などと比べて日本人の感性により近く、共通認識を持ちやすい」と述べる一方、「信頼できる経営者や技術者のいるしっかりとした相手先を選び、日本語を操る開発経験者の確保が重要になる」と指摘。心構えとして「相手先を育成するつもりで協業すべき」とアドバイスした。
セミナー後援企業である通信最大手のフィリピン長距離電話(PLDT)とシステム開発のウィズダム(東京都立川市)とともに、企業紹介をしたPSIAの8社は以下の通り。◇アドバンスド・ワールド・システムズ(AWS) ◇アライアンス・ソフトウエア ◇アストラフィリピン◇ジェイ・スパン・ITサービス◇ J―SYSフィリピン◇ポイントウエスト・テクノロジーズ◇月電グローバルソリューション◇ユビキタス・テクノロジーズ・フィリピン ――。各社ともフィリピン人講演者は日本語で話し、言語習得能力の高さもアピールした。
最後は、独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)ITスキル標準センター長である網野幾夫氏が、日本のITスキル標準ITSSのフィリピンでの導入計画を紹介。フィリピンへのオフショアが「単なるコスト削減のためでなく、グローバルネットワーク構築の一部として捉えられている」と述べた上で、ITSSの12年の本格導入に向けての動きを解説した。
セミナー後の懇親会に参加したソフトウエア会社の取締役は、「世界展開を考えているが、アウトソーシング委託先としては中国よりもフィリピンの方が、英語が通じるといった点で有望だと思う。ただ、品質とセキュリティーは心配な部分。今回のセミナーでは、そうした懸念を払拭(ふっしょく)しようとするプレゼンも多くあり、日本からの受注獲得に力を入れていると感じられた」とコメント。積極的にフィリピン側の関係者に語りかけていた。