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【社会】

取り調べ3時間 なぜだ 「被災地の実情無視」

(上)警視庁の警察官から職務質問を受けた現場に立つ男性=仙台市で(下)銃刀法違反とされた、男性の十徳ナイフ

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 東日本大震災の被災地で、がれきの撤去作業をしていた仙台市太白区の男性(47)が、警察官から職務質問(職質)を受け、缶切りやドライバーなどが付いた「十徳ナイフ」を持っていたことから、銃刀法違反容疑で約三時間にわたり任意で取り調べを受けた。男性は「被災地の実情を無視した捜査権の乱用」として十九日、弁護士と連名で警察当局に公開質問書を提出し、説明を求めた。 (大野孝志)

 男性と弁護士によると、昨年十月九日午後四時ごろ、同市若林区の畑で、津波で流れ着いたがれきを撤去するボランティアをしていたところ、市内に派遣されていた警視庁の警察官から「そのがれきをどこへ持っていくんだ」と職質を受けた。

 周辺で、がれきから金属類を勝手に持ち去り、売りさばく者がいることを知っていた男性は、職質に応じた。地主の許可を得ていることを説明し、運転免許証や乗ってきたトラックの中を見せた。

 男性は「地元の者が何もしないのは申し訳ない」と九月から、ボランティア組織を通さず一人で休日に作業していた。腕章などはしていなかったが、直前には地主から「ご苦労さま」と飲み物を受け取っている。人目のある昼間の作業で、地主に確認すれば、怪しくないことは明らかだ。

 それでも、警察官は車内のバッグを勝手に開けて十徳ナイフを見つけ「これは駄目」と指摘。十徳ナイフには、刃渡り八・七センチのナイフが付いていた。

 銃刀法は刃渡り八センチを超える折り畳み式の刃物を正当な理由なく携帯することを禁じており、警察官は男性に正当な理由がないと判断。任意であることの説明もなく、車で約二十分の宮城県警仙台南署に同行させ、午後八時まで事情聴取した。十徳ナイフは任意提出させた。署員は「運が悪かったと思って、あきらめて」と告げた。

 男性は震災時、車で営業の仕事中で、津波にのまれる直前に逃げた。家族や自宅は無事だったが、食料や水に困る経験をした。十徳ナイフを持っていた理由について、いつまた起こるか分からない災害に備え、乾パンや財布などと一緒にバッグに入れて持ち歩いていた、などと説明した。

 犯罪者扱いに納得できず、弁護士を通じて仙台南署に抗議すると、同署は十二月、書類送検しないとし、十徳ナイフを返却した。理由を「犯罪は成立するが、前科がなく、正業に就き、携帯していた状況が平穏」などと説明したという。

 警視庁と警察庁に公開質問書を提出した男性は「被災地で持っていた十徳ナイフを防災用具と認めないのはおかしい。警察官が言いがかりで犯罪をつくり出すような行為をなくせればと思い、声を上げた。警視庁は被災地で行方不明者捜索など大変な任務を続けているのに、一人の警察官の職質で、すべて台無しだ」と残念がった。

 警視庁と宮城県警は取材に、職質の経緯や見解について「個別事案の具体的内容についてはコメントを控えたい」とした。

 十徳ナイフをめぐっては、都内で二〇一〇年以降、職質を受けて正当な理由なく持っていたとして書類送検された男性二人が、違法な職質で精神的苦痛を受けたとして、国家賠償を求めて提訴。一人が東京弁護士会に人権救済を申し立てた。

 

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