2012年1月20日03時00分
■未成年が取引、1枚5万円
人気絶頂のAKB48。写真や握手券をめぐる、未成年の危うい取引の現場を見た。
昨年11月下旬、宮城県利府町で「全国握手会」があった。ミニライブに加え、AKB48のメンバーと握手ができるというイベントだ。この会場内のあちこちで、子どもたちが地面に座り込み、メンバーの写真がぎっしり詰まったファイルを広げる光景が見られた。
「今までで一番高く売れたのは柏木由紀の5万円」。そう話すのは、関東から来たという高校1年の男子(15)だ。小学5年からファンだが、ここ1年で写真を売るようになったという。「元手がかかるけど、やっと安定してきたので遠征するようになった。10万以上は稼いでいると思う」
彼らが売っている写真は、CDやDVDにおまけとしてついていたり、東京・秋葉原にあるAKB48の公式ショップで、5枚千円で買ったりできるものだ。顔がアップになっている順に「寄り」「中」「引き」などの種類があるほか、様々なバージョンが出回る。
好きなメンバーを選んで買うことができない仕組みのため、ファン同士で「トレード(交換)」するのが建前だが、現実には、このように現金で売り買いされている例も多いとみられる。ネットオークションでは「世界に6枚しかない」とうわさされる前田敦子さんの「ビックリ顔」が23万円で落札されたこともあるという。
「金銭が発生するトレーディングを発見した場合、イベントの参加をお断りします」という放送が流れる中、紙幣と写真が次々と交換される。記者が見ていると、売るのは大学生から高校生、買うのは主に中高生だ。この会場では、1枚数百円から数千円が相場だった。小学生の娘にせがまれて買う母親の姿もあった。
ひときわ多くの荷物を広げていた30代男性は「メンバーと写真が撮れるツーショット券は19万円で売れた」と話す。元々ファンだったが、ここ数年、写真や握手券を売るようになった。「AKBは金になるってわかっちゃいましたからね。僕はやらないですが、小学生相手に、200円くらいの価値しかない写真を3千円とかでぼったくる高校生もいますよ」
ネット上では、違法となる可能性もあるやりとりも見られる。交流サイトにある「AKB取引コミュニティー」に昨年11月中旬、こんな書き込みがあった。
「提供 【希望】K 17歳男性名義。保険証と住民票の写しを握手券とともに郵送いたします」
メンバーを事前に指定する「個別握手会」の場合、握手券の購入に氏名や住所が必要だ。会場に入る際も本人かどうか確認するための身分証明書が必要となる。写真付きでない場合、身分証2枚で確認する仕組みで、この書き込みのように握手券と合わせて住民票の写しなど2点を売る。
会場で落ち合い、身分証明書を一時的に貸すケースもあるといい、いずれにせよ、個人情報を他人に売り渡す危険をはらんでいる。ちなみに「K」は「1千円」を表し、現金決済の意味にもなる。
警視庁の捜査幹部は「他人の身分証で会場に入る行為は建造物侵入にあたる可能性もある」と指摘する。昨年には、インターネット掲示板を通じて握手券を売ると偽り、現金をだまし取ったとして、男子高校生が逮捕される事件もあった。
こうした事態をどう見るかについて、AKBがライブ活動などをする「AKB劇場」を運営している「AKS」に対し、昨年12月上旬に電話と書面でコメントを求めたが、現在までに回答はない。(小林恵士)