東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

電力料金 将来像なき値上げでは

 東京電力が企業向け料金の17%値上げを発表した。家庭向けも今春に申請する。福島原発の事故に伴う火力発電の燃料費増大が理由だが、電力事業の将来像も示さずに値上げでは理解が得られない。

 東電によると、東日本大震災で福島第一、第二原発が被災し、火力発電所が肩代わりした結果、燃料費が八千億円以上増え、二〇一二年三月期の連結決算が約六千億円の最終赤字になるという。

 政府の「東京電力に関する経営・財務調査委員会」も同じ東電の柏崎刈羽原発の再稼働と、値上げがともにできないと一二年度に債務超過に陥ると指摘した。これが値上げ理由だ。

 電気料金は電力会社が企業などの大口需要家と契約する「自由化部門」と、家庭など小口契約の「規制部門」に大きく分かれる。

 政府の認可を必要としない自由化部門を四月に17%値上げし、家庭向けは経済産業省の「電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議」が二月にもまとめる料金算定の基準見直しを受けて申請時期や値上げ幅を決めるという。

 経団連の米倉弘昌会長は、東電の原発の大半が稼働停止に追い込まれているため「やむを得ない」と語ったが、零細企業や家庭の負担は決して小さくない。それは東電にとどまらず、沖縄電力を除く関西電力や中部電力など原発を保有する全電力会社共通の問題だ。

 定期検査入りした原発が周辺自治体の反対で再稼働できずに全国の五十四基すべてが止まる事態も現実味を帯び、電力各社が追随値上げする公算が大きい。それだけに当面の値上げだけを語り、中長期をにらんだ電力供給の将来像を示さぬ東電の姿勢は解せない。

 昨年十二月に政府の「コスト等検証委員会」が試算した電源別の発電コストによると、原発はこれまでの七割増、一キロワット時八・九円で「低コスト電源」とは言えなくなった。福島原発の廃炉や除染費用なども新たに加え再計算したところ、大きく膨らんで液化天然ガスなど火力発電の約十円に近づいた。

 電力会社が敬遠する風力や地熱発電も原発に対抗できる可能性が、太陽光も二十年後にはコストの大幅低下が示された。脱原発がコスト増につながるとは限らない。

 なぜ、試算を基にエネルギー転換の方向を示さないのか。エネルギー政策は政府任せなのか。電力業界の盟主とされ、放射能汚染の当事者でもある東電が脱原発依存を素通りしては示しがつかない。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo