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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第506回:ハンディカムの上を行く? ソニーDSC-HX9Vを検証

〜 スペックは満点、さてその実力は? 〜



■ 1080/60pが撮れるコンパクトデジカメ

「DSC-HX9V」のブラックモデル
 昨年春にソニーが発表した「DSC-HX5V」は、それまで720pがせいぜいといわれていたコンパクトデジカメ界にフルHDのAVCHD記録をひっさげて登場し、一つの常識をひっくり返した。今でも人気モデルとなっており、コンパクトデジカメ業界ではまずヒット商品と言ってもいいだろう。

 さらに昨年6月には新マウント規格のミラーレス一眼「NEX-5」が登場、さらに8月に「NEX-VG10」の投入で、フルHDのデジカメ動画は一気に当たり前のものになったように思える。NEX-VG10はビデオカメラっぽいルックスだが、実質的にはデジカメであったと思う。

 さてそんなソニーがこの春に投入するのが、HX5Vの後継機であり、上位機でもある「DSC-HX9V」(以下HX9V)だ。前回の1080/60i撮影に続いて今回は、1080/60p撮影ができるようになった。AVCHD規格ではないため、オリジナルフォーマットでの搭載となる。

 コンシューマで最初に1080/60pを搭載したのは昨年3月のパナソニックの「HDC-TM700」だったが、先日のJVC「GC-PX1」といい本機といい、いよいよ1080/60pの時代が到来したということかもしれない。

 発表時の店頭予想価格は45,000円前後だが、ネットではすでにもう1万円ほど下がってきている。そもそも静止画のカメラではあるが、静止画性能については僚誌デジカメWatchに任せるとして、本コラムでは動画性能を中心にテストしてみる。コンパクトデジカメで1080/60pは成立するのだろうか。さっそくテストしてみよう。


■ ギッシリ感がすごいボディ

コンパクトながら機能の凝縮感がすごい

 HX9Vはブラックとゴールドの2色があるが、今回はブラックをお借りしている。サイズ的には前作のHX5Vとほぼ同じで、若干HX9Vのほうが厚みがある程度。コンパクトカメラと呼ぶにはボディもがっしりしており、これが実売35,000円程度というのは正直驚きだ。

 まずレンズだが、35mm換算で動画25〜400mm、静止画24〜384mmの光学16倍ソニーGレンズ。ズーム倍率に関しては他社もそれぐらいだが、ついこないだまで5倍だ7倍だと言ってたのがウソのようである。ワイド端も十分で、もはやビデオカメラのスペックを凌駕し始めている。

 手ぶれ補正はハンディカムでおなじみのアクティブモードを備えるが、このモードだと若干画角が狭くなるようだ。


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
(25mm)

(400mm)
動画(16:9)
手ぶれ補正アクティブ


静止画(4:3)
(24mm)

(384mm)

ワイド端25mm(35mm換算)かつ光学16倍のズームレンズ
 ただ開放F値は3.3で、それほど明るいとは言えない。また絞りは開放とF8しかなく、中間値はシャッタースピードやISO感度で追従させていくというタイプである。

 そのぶんを補うのが、感度が高い裏面照射型CMOS「Exmor R」だ。1/2.3型、総画素数1,680万画素、有効画素数1,620万画素となっており、前作から若干大きく、高画素になっている。


ステレオマイクも改良されている

 レンズ上部にはステレオマイクがある。前モデルは小さい穴2つだったが、今回はメッシュ状の穴が空いており、集音も期待できそうだ。電源スイッチのほか、使いたい機能をアサインできるカスタムボタンも付けられている。

 ズームレバーはシャッターの周りにあり、モードダイヤルが端にあるあたりは、前作と同じだ。ただモードもずいぶん様変わりしており、おまかせモードが2つになったり、静止画3D撮影モードが付けられたりと、この1年での数々のトレンドの変遷が見て取れる。


MOVIEボタンは位置が変更され、若干小さくなった

 MOVIEボタンはモードダイヤルのすぐ下に付けられており、前作よりも若干小さくなった。親指のホールドポイントにはラバーが貼られている。

 操作ボタンとしては、十字キーがダイヤル兼用となった。マニュアル撮影時には、シャッタースピードと絞りをダイヤルで操作できる。ただ動画撮影時はフルマニュアルにはならないので、動画の方ではあまり使い出はない。

 本体内に詳細なヘルプを搭載しており、ゴミ箱ボタンを押すことで使用時にわからないことを調べて実践できるチュートリアルにもなっている。


十字キーはダイヤル兼用になった 本体にヘルプを搭載、実際の撮影モードに移行できる

 背面の液晶は3.0型とサイズこそ変わらないが、画素数が約92万ドットと4倍になっている。液晶はタッチパネルではなく、十字キーで操作するタイプのGUIだ。

三脚穴はほぼセンター位置に

 底部の三脚穴は、ほぼボディの中央部に付けられており、三脚を使った時に水平がずれにくくなっている。前作はかなり端っこに付いていたので、その反省を生かしたのだろう。バッテリとメモリーカードは同じフタ内に格納される点は前作と同じだ。

 集合端子は前作とは違う形になっており、一見ミニUSB端子に見えるが、それよりも横幅が長い特殊端子である。以前は底面端子に変換アダプタを付けてHDMI出力を得ていたが、今回はボディ横にHDMI端子が付けられている。

 充電は付属USBケーブルとUSB電源アダプタにより、本体充電する。また以前は集合端子から付属ケーブルでアナログAV出力も得られたが、今回はアナログ出力ケーブルは付属していない。


■ 発色が綺麗な動画

 では実際に撮影してみよう。撮影当日はものすごい風で、マイクも盛大にフカレているが、これはさすがに仕方がないだろう。

 まず画質設定だが、今回新たに搭載された1080/60pはPSモードとという名称になっている。それ以下のモードはAVCHD互換だが、PSモードもファイルストラクチャなどは同じ、ファイルの拡張子も同じだ。ゆくゆくはこれがこのままAVCHDフォーマットに取り込まれ
るということなのかもしれない。なお従来どおりMP4による30p撮影モードもあるが、今回サンプルは撮影していない。


【各モードの動画サンプル】
モード フォーマット ビットレート 解像度 フレームレート サンプル
PS 独自 28Mbps 1,920×1,080 60p
00044.MTS
(1.5MB)
FX AVCHD 24Mbps 1,920×1,080 60i
00045.MTS
(29.2MB)
FH 17Mbps 1,920×1,080 60i
00046.MTS
(21.6MB)
HQ 9Mbps 1,440×1,080 60i
00047.MTS
(15.5MB)
1080 MP4 12Mbps 1,440×1,080 30p
720 6Mbps 1,280×720 30p
VGA 3Mbps 640×480 30p
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 撮影モードは、静止画用のものはたくさんあり、マニュアル撮影もできる。どのモードでも動画撮影ボタンを押せばいつでも動画の撮影ができる。ただしマニュアルの設定やホワイトバランスの選択などもリセットされ、フルオートでの撮影に変わる。一方動画専用のモードダイヤルもあり、このときはシャッターを押しても静止画撮影はできないし、動画撮影にもならない。

 背面のMOVIEボタンは、小さくなった上にあまり出っ張っていないので、ちゃんと撮れているのかが不安になる。ボタンを押しても録画が始まるまで一拍あるので、ボタンがちゃんと押されていないのかと思って二度押ししてしまい、一瞬しか撮れていない動画ファイルがいくつかできていた。

 撮影直後はデータの書き込みにちょっと時間が取られるため、すぐに次の撮影ができない。メモリはClass10のSDHCカードなので、書き込み速度の問題でもないようだ。ただ書き込み中にも絵は映っているので、次の被写体を探すことはできる。その間はズームは効かないので、画角決定まではできない。

 今回はPSモードを中心に撮影したが、中心付近の解像感や発色はかなり良好、というか、写真っぽい。一方画面の端の方は、レンズ収差こそ見当たらないが解像感がなく、若干もやっとした感じだ。おそらくレンズ収差を画像処理プロセッサを使って補正している結果なのではないかと推測する。

発色はすっきりしてなかなか良好 周辺部分の解像感がもう少し欲しい

青紫は青く転ぶ傾向 水面などは若干ざわついた感じに
 発色に関しては十分だが、青紫が青に転ぶ傾向が見られる。この現象は以前から存在するが、記憶色にあえて振っているということかもしれない。

 エンコード性能は、カメラが静止していたり、画面内部の動きが少ないぶんには良好だが、水面やパンなどを撮影すると、背景がざわついた感じになる。ブロックノイズとして認識できるほどではないが、動いている部分の解像感が落ちる感じだ。おそらく1080/60pという従来の2倍のデータ量は、現時点のエンコーダではビットレート28Mbpsで足りないのかもしれない。そういう意味ではJVCのGC-PX1が35Mbpsに思い切って振ったのは、英断だったのかもしれない。


【動画サンプル】

sample.m2ts(183MB)

room.m2ts(63.7MB)
屋外撮影サンプルPSモードで撮影、PMBでスマートレンダリング出力 室内撮影サンプル。暗部のS/Nはハンディカムより劣る
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

動画撮影時は、追尾フォーカスが常時使える
 動画撮影中は、追尾フォーカス機能が使える。センターボタンを押すと画面中央にターゲットが出るので、追尾したいものに合わせてもう一度センターボタンを押すだけで、被写体を追いかけてくれる。

 顔検出によるフォーカス追従も可能だ。以前よりもフォーカスが合うスピードが増しており、デジカメだからという不便は感じない。ただ、背景に高コントラストやディテールが複雑なものがあると、そちらにフォーカスが取られてしまうことがあった。



focus.m2ts(29.7MB)

stab.m2ts(31.4MB)
顔検出によるフォーカス追従も優秀 アクティブ手ぶれ補正もかなり効きがいい
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

顔検出はしているがフォーカスが後ろに合っている
 同様の現象は自然物でも時々起こるようだ。これが一度そういう状態になると頑固で、なかなか修正が効かない。その場合はいったんどれか適当な静止画モードにして、シャッターの半押しでフォーカスをとり、そのまま動画撮影ボタンを押して撮影するぐらいしか対処方法がなかった。

 なお本機にはGPSが搭載されており、位置情報が記録できるが、なぜか撮影時には衛星が補足できなかった。



■ カット編集も「一応」できるようになったPMB

 1080/60pが撮影できるようになって、徐々に分かって来た問題は、編集する環境が満足にない、ということである。大手の業務用編集ソフトでもファイルの読み込みはできるのだが、そもそもそういうプロジェクト設定がないとか、出力フォーマットがないという状況にあり、対応までにはまだ少し時間がかかるだろう。

 それというのも、まだ1080/60pを含む公式フォーマットが存在しないからという点も大きい。このまま成り行きでAVCHDを拡大するのでも構わないが、今となってはBDフォーマットを拡張してその中に入れてしまったほうが合理的のように思う。

60p編集もできるようになったPMB

 さて本機の場合は、付属のメディアブラウザ「PMB」(Picture Motion Browser)が1080/60pの再生と編集に対応する。現時点でのバージョンは5.5.02.1220。PMBは各ハンディカム、サイバーショットに付属するが、ベースとなるアプリケーションは共通で、所有カメラに応じて必要なモジュールがダウンロードされるようになっている。

 したがってインストール後にはカメラをUSBで接続し、機器認証する必要がある。また同じバージョンでも1080/60p撮影機器を持っていない場合、60p編集機能は追加されないものと思われるので、旧製品利用者は注意していただきたい。

 PMBはカレンダー型のメディアブラウザで、ファイルを読み込ませると動画・静止画を混在して表示する。写真だけ、動画だけに絞って表示することも可能だ。画質モードはPMB上では区別されておらず、サムネイルにHDというアイコンが付くだけで、プロパティの「画像情報」でフレームレートなどを見て判断する必要がある。

 編集の段取りは若干面倒で、まずファイルごとに「動画編集モード」に移行したのち、トリミングを行なう。その後、結合したいクリップのアイコンを選択したのち、メニューの[活用]-[編集]-[動画結合]を選んで、結合用の画面を出す。

 この画面上では、どれを使うかをチェックマークで選択したり、ドラッグ&ドロップで順番を並び替えることができる。一応これでカット編集はできることになるが、音声のレベル調整や、書き出す前のプレビューなどはできない。ただ、スマートレンダリングを行なうので、画質はほぼオリジナルのものが保たれている。

 今回のサンプル動画は、すべてこのPMBを使って編集、切り出しを行なっている。


各クリップを一つずつトリミング その後、動画結合画面で順番などを並び替える

■ 総論

 期待された1080/60p撮影だが、動きの少ない被写体では良好ながら、複雑な動きがある撮影に関してはビットレートの足りなさからか、解像度が下がる傾向がある。

 いやもちろん価格とカメラサイズから考えれば十分な性能と言うべきなのだろうが、将来的なスケールを考えると、今28Mbps程度のビットレートで1080/60pを撮ることが主流になって大丈夫か、という不安がある。通常のAVCHDも結局は17Mbpsではなく、規格限界の24Mbpsが主流になりつつあることを考えれば、もう少し上があっても良さそうな気がする。

 画質に関しては、周辺の解像度が若干落ちることが気になるが、全体的には発色がよく、見ていて印象のいい映像にまとめている。このすっきり感はソニーらしい絵作りだ。

 裏面照射CMOSによる夜間撮影は、動画に関しては上手くメリットが引き出せていないように思える。「HDR-XR520V」で始めて見たExmor Rの映像に比べると、あきらかにS/Nの面で後退している。やはりレンズが暗いこと、輝度を優先したクリアビッド配列ではないこと、画素数が増えていることなどがトータルで影響しているようだ。

 バッテリの保ちは、動画撮影を中心に考えるとあまり良くない。今回はだいたい2時間半ぐらいの撮影時間だったが、後半でバッテリが切れたため手持ちのものと交換した。天気が良かったのでバックライトが最大輝度だったということもあるだろうが、動画を撮るなら予備バッテリは必須だ。

 現状は1080/60pの編集環境のなさや、デジカメ特有の最長連続録画が29分までという縛りはあるものの、性能の割には価格が安いこともあり、スナップ動画というジャンルを開拓していくカメラだろう。HDMI端子も本体に直接搭載したことで、テレビとの親和性も高くなった。

 こういったカメラの出現が、今後の動画文化に与える影響は非常に大きいだろう。


(2011年 3月 23日)

= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]