通商交渉:TPP、日中韓FTA、日EUのEPAも

2012年1月19日 22時49分 更新:1月19日 23時34分

年内の主な通商交渉スケジュール
年内の主な通商交渉スケジュール

 日本の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加に向けた事前協議が、17日のベトナム、19日のブルネイを皮切りに始まった。今後は中韓との自由貿易協定(FTA)や、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)など大型通商交渉も控えており、今年は政府の外交手腕が試される節目の年となる。

 「通商交渉が互いに刺激し合い、化学反応を起こすかもしれない」。外務省幹部は、交渉の行方をこう展望する。複数の交渉を同時に進めることで、ある交渉の進展を別の交渉の材料とし、形勢を有利にできる可能性がある。

 日本のTPP交渉参加方針が中国などを刺激し、日中韓FTAが動き出したのが一例だ。日中韓は昨年12月、「FTAはメリットがある」との共同研究結果を公表、5月にも交渉開始で合意する見通しだ。構想自体は99年に浮上したが、対日貿易赤字拡大を懸念する中韓と、農水産物の市場開放に慎重な日本の思惑がぶつかって停滞。しかし、米国主導のTPPに対し、「米国の発言力が強まり、知的財産保護に厳しいルールなどが広がる」と警戒する中国が揺り戻しに動いた。中国には、日中韓で主導権を握ろうという思惑がある。

 日本にとっても、日中韓の効果はTPPより大きい。日本の貿易総額のうちTPP9カ国の比率は24.6%だが、中韓は26.9%。経済産業研究所の試算では、日本の実質国内総生産(GDP)の10年後の押し上げ効果はTPPの0.54%に対し、日中韓は0.74%だ。TPPの進展を材料に、中韓の妥協を引き出す戦術を描ける。

 昨年12月に再開した日豪EPA交渉は、TPPの“前哨戦”として注目される。オーストラリアもTPP交渉参加国で、日本に対し農産物の市場開放を要求。日豪EPAで日本がコメや乳製品にかかる高関税をある程度維持できれば、TPPでも農産物の関税撤廃の例外扱いを勝ち取れるかもしれない。

 日欧EPAも「TPPに刺激された」(外務省幹部)。日本の狙いは、EUの関税縮小・撤廃で、自動車(10%)や薄型テレビ(14%)が焦点だ。既にEUとFTAを結んだ韓国に対抗するため、産業界の要望が強い。一方でEUにとっては、既に工業製品の関税撤廃が進んだ日本とEPAを結ぶメリットが小さく、日本に対し、医薬品・食品添加物の承認手続きの遅さや、酒類卸売りの免許制度など、関税以外の規制緩和を要求、交渉入りが遅れていた。しかし、東日本大震災やTPPを契機に態度を軟化。早ければ来週中にも交渉に向けた事前協議がまとまり、今年前半の交渉入りを目指す。

 政府は、TPP、中韓、EUの3極にまたがる立場を生かし、発言力を高める考えだが、思惑通りに進むかは見通せない。中韓は、2国間でのFTA交渉開始で合意。中国は、TPP不参加の韓国への接近を強めており、中韓が先行すれば日本の存在感が低下しかねない。日豪EPAも「従来の通商交渉に比べ、農業市場開放の要求レベルが相当高い」(経済産業省幹部)。政府はTPP交渉で、外務、経産、農林水産など縦割りを排した交渉団で臨む。交渉相手国の思惑をてんびんに掛けながらの巧みな外交戦略を迫られる。【野原大輔】

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