社説
東日本大震災 JR在来線復旧/国は資金投入をためらうな
使えなくなってみて、ありがたみが染みたものに鉄道がある。走行距離が長く、一度に大量の人を都市部などの学校や職場、病院に運ぶことができる。駅は文字通り、地域の「顔」だ。 震災から10カ月が過ぎたいまも、JR在来線は7路線の計300キロにわたって不通状態が続いている。 宮城県内を走る仙石線と常磐線は、それぞれ複数の駅を内陸部に移転させ、ルート変更することでJRと自治体が合意し数年後の運転再開が見えてきた。 海側まで山が迫る気仙沼線と岩手県の大船渡線、山田線は移転に適した土地が少ない上、JRにとっては多額の費用をかけて復旧させても利用客が見込めないことから、まったく見通しが立たない。 だが、公共交通はその地域だけが恩恵を受けているわけではない。産業、流通、観光の血脈として全国各地と1本の線路でつながり、国土の均衡ある発展を支えてきた。 在来線の復旧費用は1千億円を超えるとみられる。国とJR、自治体は復旧を前進させる新しい支援スキームをつくり、災害時の安全対策と併せた工程表を急いで策定すべきだ。 優良企業のJR東日本の事業に公費は出せないというのが国の立場だ。しかし、千年に1度の「国難」である点に鑑み、弾力的な対応を望みたい。 被災した鉄道事業者を救う手だてに、鉄道軌道整備法がある。過去3年間、赤字であることが国庫補助の条件で、JR東日本は対象外とされた。 昨年末、JRは気仙沼線の仮の復旧案として、軌道を舗装してバスを走らせる「バス高速輸送システム」を導入する意向を沿線自治体に示した。 運行頻度の高さ、工費の安さが利点だが、速度が遅いため定時性を保てず、大勢の乗客を運べない難点がある。仮の姿として導入の余地はあるとしても、根本的な解決策にはならないと思われる。 一方で、岩手県の第三セクター、三陸鉄道の復旧には、ほぼ全額国費が投入されることが決まった。2014年4月の全線運行再開を目指し、工事が本格化する。 赤字基調の三鉄への支援策は国と自治体が復旧費を折半し、自治体負担分を復興特別交付税で賄う新制度によるものだ。 沿線自治体が、三セク会社から線路などの施設を譲り受けるという地ならしがされたとはいえ、気仙沼線、大船渡線がさっぱり進展せず、三鉄は早期に動きだすというのは一般の感覚からすると、ふに落ちない。 利害関係者間の調整を図り、着地点を見つけるのは、官僚の最も得意とするところだろう。突破口となる財政支援措置をひねり出してほしい。 住民、自治体、議会も一緒に汗をかこう。国、JRの出方待ちはいただけない。駅舎周辺のまちづくり、沿線から山に通じる避難路の開削など、地元だからこそ手伝えることがある。 そうでなければ苦難を乗り越えて鉄路を誘致し、守ってきた先人たちに申し訳が立たない。
2012年01月19日木曜日
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