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【社会】

歌舞伎ひと筋50年 車いすから迫る 写真集発刊

2012年1月19日 09時42分

平成中村座で写真集を手にする福田尚武さん=東京都台東区で

写真

 五十年あまり被写体は歌舞伎ひと筋という車いすの写真家、福田尚武さん(67)=東京都豊島区=が撮影した立女形・坂東玉三郎さんの舞台写真集が刊行された。十数年間、撮り続けた作品から、玉三郎さん自身が一枚一枚選んだ二百点を収録している。 (丹治早智子)

 「芸事なら何でも好き」という福田さんは日大芸術学部演劇学科在学中、歌舞伎の愛好会に入り、役者や大道具らと交流した。当時からカメラが得意で、会の活動で撮った写真が先代の中村勘三郎さんの目に留まり「私を撮ってくれ」と頼まれたのが、写真家を志すきっかけとなった。

 卒業後に就職したCM制作会社を一年で辞め、フリーに。役者の信頼を得て歌舞伎の舞台を撮り続け、勘三郎さんや市川猿之助さん、片岡仁左衛門さんらの写真集を出版した。

 十四年前に出版した一冊目の玉三郎さんの写真集の編集が始まるころ、糖尿病や肝硬変が悪化。一年二カ月の闘病中、三度、危篤に陥った。命は取り留めたが、両足のももから下を切断した。

 だが写真への意欲は消えなかった。退院直前には当時の歌舞伎座で猿之助さんらを撮影。退院後は、狭い劇場にも対応できるよう座席を高く幅を狭めた特注の車いすで、全国の劇場を回っている。

 玉三郎さんを撮り始めた三十数年前は、その希代の女形の、きれいなところばかり狙って撮った。だが、今は違う。「どんな場面だろうと、その場その場で妖艶な美しさを放つのが玉三郎さん。だったら思った通りに撮って、誰も気付かなかった魅力を伝えたい」。その成果が二冊目の写真集だ。「女暫」の巴御前、「妹背山(いもせやま)婦女(おんな)庭訓(ていきん)」のお三輪、楊貴妃、夕鶴などを撮影している。

 玉三郎さんは写真集巻頭で、こんな一文を寄せた。<写真は不思議です。たった一度の瞬間が紙の上で永遠になっているのですから。(略)福田さんは毎日劇場に通い永い時間を掛けて瞬間を切り取っていく素晴らしい写真家>

 写真集「坂東玉三郎 舞台」は限定三千部、一万五千七百五十円。問い合わせは小学館=電03(3230)5675=へ。

(東京新聞)

 

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