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簡単な数学でわかる「消費税増税は要らない!」/高橋洋一

『数学を知らずに経済を語るな!』より 》

みんな、なぜ騙されるのか

 ずっと、ずっと、ず~っと疑問に思っていたことがあった。

 世の中の人は、なぜ、これほどたやすく官僚・政治家・マスコミ・御用学者の嘘に騙されるのだろう、と。

 マスコミが「東日本大震災の復興財源を確保するためには10兆円規模の増税が必要」と報道すれば、「う~ん、みんなで痛みを分かち合わないと」と、すぐ納得してしまう。

 政治家が、「このまま赤字国債を放置していると第二のギリシャになるから、増税が不可欠」といえば、ギリシャと日本は大違いという事情もわからぬまま、「そんなものか。仕方がない」とあきらめる。

 どちらも裏で糸を引いているのは、財務官僚である。じつは復興財源の捻出も、財政再建も、まったく増税なしで行える。それらを増税だけで解決しようというのは、きわめて偏った「解決法」に他ならない。しかも、財務官僚が意図的に偏った「解決法」を押し付けようとするのは、彼らの私利私欲を満たしたいから。それだけなのである。なのに、わが日本国民の多くは、それを唯一の解であるかのように信じ込まされてしまう。

 私は、それが不思議でならなかった。

 だが、このたび、ようやく、その謎が解けた。

 自称「日本を代表するド文系頭」の編集者S君と出会えたからである。

 S君、からっきし数学的思考が弱い。用語の定義が暖味なまま質問をする。数字が2乗、3乗と乗数的に増減すると、もうついていけない。ましてや、高校の数学などは一切合財忘れてしまっている。
 

 にもかかわらず、「グラフだとわかるんですよ」とのたまう。そんなわけはない。あらゆるグラフは数式と一対一対応をしている。数式がわからなくてグラフがわかるわけがないのである。そこで、「本当にわかっているの?」と意地悪く問い詰めると、やはり、わかっていない。

 要は、わかっていないのに「わかったつもり」になることに慣れすぎてしまったのだ。これは、おそらく日本国民の多くに共通する「思考様式」なのではないだろうか。「思考様式」などというとたいそうな仕組みのようだが、「わかったつもり」とは「思考停止」の同義語である。

 「わかったつもり」でとどまる人は、どういう具合に報道記事などを「理解」しているのか。S君という、大変ありがたい生徒を得て、ようやく腑に落ちた。それじゃあ、騙されてしまうわけだ。

 社会を牛耳る嘘つき野郎たちに騙されないためには、どういう思考回路、どういう知識が必要なのか。皆さんもS君とともに考えていただければ幸いである。


消費税 増税は要らない

S君、食費アップを憂える

S君 (食堂で630円のラーメンを注文しながら) ああ、この醤油ラーメンが630円で食べられるのも、いつまでなんだろう。

教授 S君、なんで、そんなに暗い顔をしているの?

S君 いやあ、つい先日(2011年11月3日)、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席していた野田佳彦首相が「消費税率を2010年代半ばまでに10%に引き上げる」って国際社会を相手に発表しちゃいましたよね。まったく国内で議論を尽くさないうちに。そうなったら、このラーメンもじきに、あと30円足さないと食べられなくなるのかな、と悲しくなっちゃって。

教授 さすがに、そのあたりの計算はすぐにできたね(笑)。30円はでかいからね。同情するよ。たしかに、与謝野馨前内閣府特命担当大臣(社会保障・税一体改革担当大臣) がとりまとめてきた「社会保障と税の一体改革」のための消費税増税案が、ついに現実化しようとしているね。それで思い出すのが、菅政権から野田政権に交代する9月初めのことだったか、与謝野さんが内閣府に「上げ潮派」への反論をまとめあげるよう指示したっていう話だね。つまり、消費税を増税しなければ社会保障が破綻するっていう、いつもながらの主張を、もうちょっと学問的にしっかりしたものとして提示するって宣戦布告したんだ。これ「面白いな。できるんだろうか」と思っていたんだけれど、どうなっているのかな。

S君 「上げ潮派」っていうのは、ひと言でいうなら、経済成長なくして財政再建はありえない、とする人たちのことですよね。

教授 そう。私も、それに入るね。

S君 対して、与謝野さんは「財政再建重視派」とか呼ばれることがありますが、要するに、増税による歳入改善をまずやれ、と主張する。どうも、われわれ一般ピープルは、「足りないんだから増税するしかないだろ」といわれると、すぐに「しょうがない」ってなっちゃうんですね。でも、お気に入りのラーメンが30円高くなるのは痛い。

事実を見れば、増税不要は一目瞭然!

教授 こと消費税に限れば、「上げ潮派」のロジックって単純なんだよ。「名目成長すると消費税の増税がいらなくなる(または少なくなる)」。ただ、それだけ。で、これは、主義主張とかではなく、単なる事実なの。そのことを示すグラフがあるんだけどね。

S君 あるんですか!

教授 あるよ~。ほら、これ。

 

 この話も、データだけあると、もう完全に「Q.E.D.」。証明終わりなんだよ。これは、縦軸に比率(パーセンテージ)、横軸に年月をとって、「名目GDP成長率」っていうのと、「プライマリーバランス(基礎的財政収支)対名目GDP比」っていうのを、それぞれドットして比較したものなんだ。普通のグラフで書くときには、両方の縦軸に異なる比率を書く。それぞれの比率の数字が、多少違っているからね。で、年月でとるんだけど、過去20年ぐらいとると ―― まあ、20年とっても30年とっても一緒なんだけどね ―― 名目GDP成長率が、昔はけっこう高くて、最近はもうゼロとかマイナスになっているのがわかるわけ。あ、忘れていたけど「名目GDP」というのは、国民の給与などをすべて合算したものだよ。

S君 名目GDPはよく国民所得とかいいますね。この成長率が高ければ、まあ、景気がいいと。これくらいなら、わかります(笑)。では「プライマリーバランス対名目GDP比」っていうのは、何を表しているんですか?

教授 プライマリーバランスっていうのは、過去の債務にかかわる元利払い以外の支出と、公債発行などを除いた収入との差の収支のことをいうんだ。まあ、民間企業でいう金融収支を除いた営業収支のことだね。で、これを、どうして名目GDPと比べるかというと、後でもう1回説明するけれど、財政の健全性を示す指標である「債務残高対名目GDP比」が「プライマリーバランス対名目GDP比」の動きに連動するからなの。ちょっとはしょって説明すると、プライマリーバランスが黒字であれば、「債務残高対名目GDP比」は大きくならず、「財政は健全である」ってことになるんだ。あ、念のために付け加えておくと、「A(の)対B比」といった場合は、A÷Bということね。

S君 なるほど。片や景気のよさ、片や財政の健全性を示すグラフなんですね。

教授 そういうこと。

S君 で、2つの曲線を見てみると……、あ、ほとんど一緒の変化をしていますね!
 「名目GDP成長率」(=景気のよさ)が高ければ、「プライマリーバランス対名目GDP比」(=財政の健全さ)も高いし、前者が低ければ後者も低い。

教授 そう、そう。これで見るとね、ほとんど同じなの。だから、これは何をいっているかっていうと、名目GDP成長率を上げたら、プライマリーバランスも上がって財政が健全になるということ。それだけの話。以上、証明終わり。だから、与謝野さんがどんなに反論したって、データを見せたら終わりなんだよ(笑)。

S君 このグラフだけで全部示していると。単に蓄積されたデータだけですからね。

教授 そう、細工も何もしていない単なる事実の記述。そのまんま(笑)。こういうデータを持っているから、「名目GDP成長率を上げたら財政再建は終わる。だから、消費税増税は要らない」っていっているだけよ。

S君 これにもし論理的に反論できるんであれば、してもらいたいですよね。

教授 そうだね。

S君 与謝野さん、何をもってくるのか。

教授 考えられることの1つは、「名目GDP成長率を上げることができない」っていうやつだね。「できない」っていう言い方ね。これ、じつは「できない」んじゃなくて「やらない」だけなんだけどね(笑)。また後で話すけど、日銀が「デフレターゲット」しているんだから、やりようがないんだけどね。

S君 やれるのにやらない。そこがずるいですね。

教授 だから、「できない」っていうわけ。他の先進諸国はみんなインフレターゲットで成長率を維持しょうとしているのに、日本だけどうして「デフレターゲットなの、と。だから、財政再建の話なんて、消費税増税なんてしなくてできちゃうのに、「なぜ増税するの?」って思っちゃうよ。
 逆に、これだけ景気が悪いなかで、増税なんていう余計なことをすれば、経済成長率がさらに悪くなるだけでしょ。そうしたら、どんどん「プライマリーバランス対名目GDP比」も悪化させて、財政を瀕死の状態に追いやるだけですよ、と。ファクトに忠実であるなら、そうとしかいえないね。

S君 政府は、余計な、無意味な、さらにいえば、国家財政にとってマイナスになるようなことをやろうとしているわけですね。何が「財政再建重視派」かと(笑)。

教授 本当に、あきれるほど、つまらない話だよな。

S君 論破はあっという間でございました。まだラーメンものびておりません(笑)。

 

高橋洋一 

(たかはし・よういち)

株式会社政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授
1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現財務省)入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、国土交通省国土計画局特別調整課長、内閣府参事(経済財政諮問会議特命室)などを歴任し、2006年より内閣参事官。2007年に財務省が隠す国民の富「埋蔵金」を公表し、一躍、脚光を浴びる。2008年、退官。
著書に『さらば財務省!』『財務省が隠す650兆円の国民資産』(ともに講談社)『統計・確率思考で世の中のカラクリが分かる』(光文社)『この経済政策が日本を殺す』(扶桑社)『官愚の国』(祥伝社)など多数がある。

◇ 書籍紹介 ◇

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