JR岡山駅から電車で1時間強。中国山地の山あいにある鏡野町に、元官僚の農業従事者がいる。本山晴耕園社長、本山紘司さん(32)。農林水産省のエリート官僚の道を転じ(Change)、地域(Community)で働くC世代農家だ。本山さんには、環太平洋経済連携協定(TPP)参加を控えるなど、岐路に立つ日本の農業がどう見えるのだろう。昨年12月の3日間、本山さんの仕事を体験した。
本山さんが栽培するのは山芋の一種、自然薯と米だ。2008年に農業を始め、昨年は1500平方メートルの自然薯畑と7万平方メートルの米づくりを手掛けた。
「注文が入ったので、掘りに行きましょう」。
自然薯畑には高さ約50センチの畝が何本も盛り上がり、長さ約1メートルの塩ビパイプが埋められている。この中に、種芋から伸びた自然薯が入っている。畝の土をスコップで丁寧に崩し、パイプを手で掘り出す。約20本を掘るが、約半分は短かったり、全く入っていなかったり。「パイプで必ずうまく育つ方法がなかなかないんです」。
岡山県北部ではお祝い事などで自然薯を食べる風習があるという。比較的単価が高いため「マイナーながら、面白い野菜です」。最低気温が0度の冬の日、土が付いた約20本の自然薯を素手で水洗いした。
本山さんは大学院卒業後、04年に入省した。大臣はコロコロ変わり、耕作放棄地は増える一方、農業従事者数も減少の一途。「農業が良くなると思えない」と、自ら耕す道を選んだ。多くの同僚官僚らには「農業で食べていくのは難しい。悪いことを言わないから、やめておけ」と引き留められた。「他省庁を辞めて実業に転じる官僚はたくさんいるんですけど……」。
想像通り、農作業は肉体労働だ。田の端を流れる水路の泥をかき出す「溝上げ」は、冬の間に欠かせない作業の一つ。足首より深く泥に埋まりながら、中腰の姿勢でスコップで水路の泥をかき出す。雑草の根が引っかかり、なかなか泥をかき出せない。一息ついても、かき出した長さは10メートル程度。本山さんが「こういう地味な作業を続けていると、私も『俺、何やっているんだろうなあ』って思いますよ」と励ましてくれた。
水田の手入れでは、肥料の一種・鶏糞(けいふん)をトラクターで散布した。運転は本山さん。乾燥して土状になった1袋15キロの鶏糞を、トラクターの後ろの散布機に運び入れる作業を手伝った。中腰で何度も運ぶと、腕や腰に負担がぐっとくる。上着の袖や長靴の中に鶏糞の粒が入り、慌てて出そうとしていると、本山さんに笑われた。3日間の体験後は腕や首、腰が筋肉痛になった。
農作物を育てることだけが仕事ではない。直売所などで販売する自然薯を納品するほか、餅作りも手掛ける。本山さんは昨年末、自宅の敷地内に製餅用の加工小屋を建設し、本格的な製造体制を整えた。「葬祭で餅を食べる習慣がある地域なので、餅の需要は手堅いです」。農水省が推奨する政策で、農産物の栽培・加工・販売を通じて付加価値を高める「6次化」を自ら実践する。
農業に転じて以来、4年間の設備投資総額は約2千万円。低利融資など行政の制度融資は充実しているが、資金調達はずっしり重い。そんなリスクを背負って農業に挑む原動力は何か。
「体験してもらって分かる通り、農業は生産性が低いです。ただ、生産性が低いという理由だけで、日本の文化を形作った米作りなどの農業が無くなるのも疑問です」。
――鏡野町でも農業従事者の高齢化が進んでいます。
「農業で食べていくには5年はかかると思います。親が農業をしていれば、親元で修業を積む間の生活が保障されるけど、新規就農者にはそうした機能が無い。日本社会が次世代の農業従事者を本気で育てるならば、農業の経験を積む間に生活できる雇用環境を整えるという視点で、農業の法人化が必要です」
――農業は次世代の職業の一つであり続けられるでしょうか。
「農業が魅力的な産業になるためには『こうして稼いだ』という成功事例を積み上げる必要があります。農業で成功して一石を投じ、農業という働き方に興味を持つ人が増えてほしいと願っています」
(森川直樹)
農業、TPP
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