放射線測定器についてひとつだけ

個人的に郡山市に行って友人宅の放射線測定をする機会があったのですが、そのときにふたつの線量測定器を使うことができました。ひとつはHORIBA RADI PA1000でもうひとつはメディキタスCK-3。どちらもガイガーカウンターではなくシンチレーションカウンターでγ線だけを測ります。前者がCsI(Tl)で後者はCsI(TI)+シリコンフォトダイオードとなっています。RADIは友人の知人からお借りしたもので、CK-3のほうは郡山のTSUTAYAで借りました。なんとTSUTAYAで放射線測定器を貸しているのですね。

で、問題は二つの測定器がまったく違う数値を出すことでした。ほとんどの場合にCK-3の値がPA1000よりかなり高い。家の中や庭のいろいろな場所を二台で測ってみたのですが、その傾向は一貫していました。帰宅後にそのデータをグラフに描いてみたのが、この図です

TwoCounters


横軸にPA1000の値、縦軸に同じ場所でのCK-3の値を取って、測定点をプロットしました。まあだいたい、CK-3が0.6μSv/h程度の下駄を履いているということでいいようです。どちらが正しいか、本当は言えないのですが、これまでに測定されている値を考え、また同時に測った宇都宮ガイガーカウンターの数値も考慮して判断すると、まあPA1000は正しそうです。

このCK-3がなぜ高い値を出すのかはわかりません。嵩上げなので、機械内部が汚染されているのかもしれません。レンタル品なので、これまで誰がどう使ってきたかわかりませんから。たとえば、裸で地面に直置きした人が何人もいたかもしれません。
CK-3という機種が悪いのではなく、この個体が悪いのでしょう

この話はこれだけなんですが、要するに、結構すごい数値を出しちゃう測定器もあるから注意しようね、ということです。

なお、ここでの測定値は室内も室外もごちゃまぜです。高いのは庭の土の部分でした。震災以降、ほぼ手付かずだったようで、そのせいか、地上高1mでも高いところは高い。
測定時のビデオがあるので、いずれ公開します

― posted by きくち at 01:01 pm commentComment [8] pingTrackBack [0]

ノーモアヒロシマズについて

原爆の悲劇を「ヒロシマ」や「ナガサキ」というかたかなで表す習慣は、ノーモアヒロシマというスローガンから来ていると思われます。これには英語の原文があり、日本語表記がかたかななのは元が英語だからなのでしょう。このスローガンから、やがてヒロシマという単語だけが切り出され、また長崎も同様だとしてかたかなになったものと思われます。

しかし、No more Hiroshimaは英語としておかしいという指摘があります。で、僕は以前のブログ記事にコメントとして、原文はNo more Hiroshima's.という所有(広島の悲劇のような)らしいと書いたのですが、これは大きな思い違いでした。

中国新聞社の「10代がつくる新聞」というサイトの記事に出典が書かれていて

http://www.chugoku-np.co.jp/hiroshima-koku/exploration/index_20081111.htmlLink

これによると、元はPacific Stars and Stipesの記事だそうです。元が英語なので、これをスローガンにする際「ノーモアヒロシマズ」とカタカナにしたのでしょう。そこからいつのまにか「ズ」が取れてしまったのですが、英語としてはこれはおかしい

twitterで紹介していただいたブログ

http://aczog.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-9de2.htmlLink

にはマーク・ピーターセンさんが、「ここは複数にしないと英語としておかしいよ」と言っていると書かれています。ちなみに、このブログで紹介されているピーターセンさんの『日本人が誤解する英語』は持ってます。ピーターセンさんの本はたぶん三冊持ってる。身についてませんね

というわけで、Pacific Stars and Stripesの1948年3月6日号から(「10代がつくる」には3/5の記事と書かれていますが、3/6の新聞です)、Rutherford Poats記者の"Rev. Tanimoto Arrives To Launch Campaign"という記事です($4.95払って記事アーカイブへの一日アクセス権を買いました)。歴史的な記事なので、全文引用してもいいかなあという気もしますが、問題の文が出てくる冒頭第一パラグラフのみ

........................
The Rev Kiyoshi Tanimoto, American-educated hero of John Hersey's "Hiroshima,'" arrived here yesterday to launch his campaign to set August 6 as World Peace Day, commemorating the anniversary of the first use of the atom bomb and expressing the worlds hope that there will be no more Hiroshimas.
......................

最後のところ、"expressing the worlds hope that there will be no more Hiroshimas."が、No more Hiroshimasというスローガンの原典なのでしょう。

複数形のHiroshimasは「広島のような悲劇」という意味で使われていますが、この複数の使い方はいささか難しいというか、僕の英語力では言われないとわからないという感じです。

いずれにしても、英語の原文があり、そこから英語のスローガンが作られ、それがかたかなで表されるようになった。しかも、実はもともとHiroshimasだったものがいつのまにかヒロシマになったという歴史のようです

― posted by きくち at 06:13 pm commentComment [11] pingTrackBack [0]

フクシマとは書かないし、311は原発事故のことじゃない

「フクシマとは書かない」と以前書いた。
フクシマと書く人たちがいったい何を考えているのか僕は知らないけれど、この書き方はそこに現に人々が生活しているという事実をどこかに捨てて、ひどく抽象化した何かを表しているように感じる。
福島には人々が暮らしているが、フクシマはそうではないように思うから、フクシマとは書かない。

先日、「311」という言葉で原発事故を表現する人たちがいるね、という話になった。
もしかすると、僕もそういう使い方をしたことがあるかもしれない。
もちろん、それはだめだ。
2011年3月11日は多くの人々が原発とは関係なく亡くなり、さまざまなものが失われた日だ。

日付の数字で何かを表そうとすること自体が問題かもしれないのだけど、それはそれとして、僕たちは「311」という言葉を決して「原発事故」と同義であるかのように使うべきではないのだと思う。
もしかすると自分でもそうしてしまったかもしれないので、自戒も含め

― posted by きくち at 08:23 pm commentComment [13] pingTrackBack [0]

Christopher Busby Foundation for Children of Fukushimaからの訴訟予告

よくわからない話ですが、Christopher Busby Foundation for the Children of Fukushima (CBFCF) という組織が、僕を含む何人かに対して刑事告発と民事訴訟を準備しているのだそうです。

ひとつはこの「御用学者発言撤回訴訟」

http://megalodon.jp/2012-0111-0705-32/www.cbfcf.org/%E8%A3%81%E5%88%A4-%E5%BE%A1%E7%94%A8%E5%AD%A6%E8%80%85%E7%99%BA%E8%A8%80%E6%92%A4%E5%9B%9E%E8%A8%B4%E8%A8%9F/Link

書かれていることによれば、

........................
今回、神奈川県より、ストロンチウムが検出された問題で、当会は、以下の方々に対し、『発言撤回及び公式謝罪要求訴訟』を行う事に致しました。

これは、以下の方々が、テレビや新聞・インターネットなどを通じて、公の場で、無責任な発言した為に、多くの方々が、避難できなかった事実を踏まえ、これらの発言の撤回及び公式謝罪要求の訴訟を行う事を決定いたしました。
.....................

あまり要領を得ないのですが、訴訟対象として

..................
【プルトニウムやストロンチウムは重いので遠くへ飛ばない。】との発言を行った方々。


中島健(京都大学原子炉実験所教授)、
野尻美保子 (高エネルギー加速器研究機構(KEK))
菊池誠
加地辰美(防衛医科大学病院放射線部技師長)
中川恵一(東京大学病院放射線治療チーム)
石川迪夫(日本原子力技術協会最高顧問)
..................

と書かれています。ちなみにこれは随分以前からあった文書で、以前は僕の代わりに片瀬久美子さんの名があったはずです。脅すばかりで訴訟には至っていないということでしょう。

................
CBFCFは、連名にて訴訟を行う方々を募っております。
...............

とあるので、賛同者が集まらないのでしょうか。集まらないのはまったくかまいませんが、「訴訟するぞ」と書くだけ書いて脅すだけっていうのは、いいんですかね。

それから、もうひとつが新しいほうで、「サイバー犯罪・サイバー暴力・威力業務妨害・名誉棄損・恐喝」だそうです

http://megalodon.jp/2012-0113-1344-06/www.cbfcf.org/Link

書かれていることによると

........................
CBFCFは、当会の理事3名に対し、執拗に嫌がらせ行為・及びストーカー行為をおこなっていた山形大学(学長 結城 章夫)の天羽優子並びに片瀬久美子並びに堀田昌宏・高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木 厚人)の野尻美穂子・大坂大学サイバーメディアセンター(センター長中野 博隆)の菊池誠に対しサイバー犯罪・サイバー暴力・威力業務妨害・名誉棄損・恐喝に対する刑事告訴と損害賠償請求(1億6千万円)の民事訴訟をすることに致しました。
......................

なのですが、その下のほうには

........................
CBFCFは、当会の理事3名に対し、執拗に嫌がらせ行為・及びストーカー行為をおこなっていた山形大学(学長 結城 章夫)の天羽優子並びに片瀬久美子並びに堀田昌宏・高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木 厚人)の野尻美穂子・大坂大学サイバーメディアセンター(センター長中野 博隆)の菊池誠に対し刑事告訴と損害賠償請求(1億6千万円)の民事訴訟をすることに致しました。

この5名は、自信のブログやツイッター内で、当会の理事及び理事の会社に対し全くのデタラメを公言し威力業務妨害・誣告罪・名誉棄損・損害賠償請求をおこなう事に致しましたので、ご報告させていただきます。驚くことに、この者達のすべてが、政府関係施設で働いています。
.........................

とも書かれているので、どの罪で刑事告発して、何が民事なのか、今ひとつはっきりしません。
とはいえ

..........................
当然なことながら学長や理事長やセンター著などは、大変、良識的な方々であります。

しかるに、これら非常識なものを断罪しないのであれば、それは、いかがなものか?と首をかしげたくなります。

そこで、当会は、最初、これらの学長やセンター長などに対し、配達証明付き内容証明を送ることにたしました。
......................

だそうなので、サイバーメディアセンター長宛てに何か届くのかなと思います

クリス・バズビーという人はご存知のようにECRRのトップ(たぶん)で、日本に来て放射能測定してみせたり、カルシウム・サプリメントがセシウムの害を防ぐと言ったり、まあ正直怪しい人です。ECRRだからというので、信じる人も多いのですが、先日はイギリスのガーディアン紙が彼に関する疑惑を大きく取り上げて話題になったので、もう「過去の人」でしょう。信じるに値する人ではないという判断でいいかと思います。

えーっと、ガーディアンはこれでいいのかな

http://www.guardian.co.uk/environment/2011/nov/21/christopher-busby-radiation-pills-fukushimaLink

その名を冠したCBFCFからの「訴訟予告」なのですが、どうやらクリスはCBFCFと縁を切ったようで、何がなんだかわけのわからない状態になってはいます。

それでも、CBFCFが訴訟予告をしているという事実はあります。むろん、こちらはサイバー犯罪に相当するようなことはしていませんし、そういう言いがかりをつけられては困ります。サイバーメディアセンターというセンターに所属しているのですから、そういう問題を起こすわけにはいきません。まったくの言いがかりです。
訴訟するというからにはするのでしょう。たぶんね。こちらに特にやましい点があるわけではないので、粛々と対応するだけですが。

なんというかな、いろいろなことがありますね。

仮にも「福島の子どもたち」という言葉を掲げるのなら、もっと本当に福島の子どもたちのためになることをしたらいいのではないかと思いますよ。ほんとに

― posted by きくち at 07:07 pm commentComment [5] pingTrackBack [0]

野呂美加さんと「チェルノブイリへのかけはし」についてもう少しだけ

日本保健物理学会のサイトの「暮らしの放射線Q&A」に「チェルノブイリへのかけはし」に対する見解が掲載されました。

http://radi-info.com/q-1243/Link

質問者のかたはどちらが正しいのか真剣に悩んでおられるのでしょうし、なにしろあまりにも見解が違うので、おそらくはほかにも同様の質問は寄せられてのでしょう。そのいっぽう、答えるのも大変かなという気がします。慎重な表現に終始しつつ、野呂さんの話は普通の見解とは違うよと言っています。

前にも記事を書いたように、野呂さんが言っていることや書いていることは基本的におかしいし、まあだいたいはでたらめと言っても過言ではないだろうし、少しくらい正しいことを言っている場合があるとしても、だいたいはでたらめなんだからと無視しておくほうが害が少ないくらいだと思います。僕なら、野呂さんの発言のいい点を探す労力をかけるより、あっさりと全部を無視することをお勧めします

野呂さんはあいかわらず精力的に「お話会」をされているようです。中身さえでたらめでなく、ありもしない恐怖をいたずらに煽るものでなければ、すばらしいことです。科学者も本当はそのくらいしなくちゃならないのでしょう。世の中に野呂さんはひとりで、科学者はたくさんいるのに、どうしてそうならないのだろう、とは思います。とはいえ、残念ながら、野呂さんではだめだ。もちろん心配なことはあります。本当に心配すべきことはあるのですが、野呂さんが言っておられるのはほとんど妄想上の恐怖というべきで、不安を抱えるお母さん方にその妄想上の恐怖を伝染させるのは、とてもじゃないけど認めがたい行為です。
善意と正義感によるのでしょうけど

もちろん、どの程度心配するのかは人それぞれ自由なのですが、やはりいちおうはそれなりに認められている知見に基づいて心配したほうがよいのではないかと思います。妄想上の恐怖をもとに心配するのは、いかに自由だとは言っても、あまりお勧めしたくはない。特に東京あたりでは、ちょっとした注意程度で済ませられるはずですし、実のところ無頓着でも問題はないでしょう。それを恐怖に脅えて過ごすのは、かなりやりすぎだと思います。野呂さんを真に受けて、子どもの行動を制限したり、食事を制限したりすることがあったら、それこそ放射能よりもずっと大きな害があるでしょう。それがこわい

東京あたりでは、たぶんこれから、「まあちょっと注意すればいいんだろうな」という考えの人が増えるでしょう。何も起きませんから。起きるとすれば、世田谷の事件のように、原発事故とは無関係の放射性物質が発見される可能性のほうが高い。
もちろん、世田谷のラジウムは大変なできごとでした。一部には福島原発由来でないと知ったとたんに安心したり無視したりした人たちもいたようですが、そんなことはありません。あれは原発由来のセシウムなんかより(東京では)圧倒的に危ない。原発からのものでなければ気にしないというのは、大きな間違いで、あんなものすごい放射性物質が民家にあったというのは本当に「日常に潜む脅威」です。

それはさておき、これからはちょっとした注意でいいやという人やまったく無頓着な人が増えていきます。東京なら無頓着でも特に問題はないはずです。でも、野呂さんを信じて脅える人たちもいなくなりはしないのでしょう。そういう人たちが周囲から孤立していくのが僕はとても心配です。
そうならないためには、やはり野呂さんのようなかたの妄想には付き合わないようにするしかないのかな、と思います。いや、難しいですけど。
野呂さんを信じているかたがたが、もう少し普通の人たちの意見に耳を傾けてくれるといいのですが

孤立させないことが何より重要なのではないかと思います

社民党の福島瑞穂さんなども、どうやら野呂さんに好意的らしいのですが、公党の党首がそれはまずいです。非常にまずい。そうではなく、強い不安を抱えるお母さんたちをどうすれば孤立させないで済むかを考えてもらいたいところです。

― posted by きくち at 07:13 pm commentComment [70] pingTrackBack [0]

告知

管理しきれないこともあり、コメント欄も影響が大きいという意見をいただきましたので、原発と放射能関連のエントリーはコメントをいったんすべて閉じます。いいものもそうでないものもあり、できればいいコメントは残したいのですが、いったん閉じます。

それ以外のエントリーは今までどおりで

今後どうするかはあとで考えます

― posted by きくち at 08:48 pm commentComment [24] pingTrackBack [0]

放射線ホルミシスをめぐって

放射線ホルミシスをめぐって

もうずいぶん時間がたってしまったのだけど、放射能不安を受けて、日本学術会議が7/1につぎのような講演会を開いた。

............
日本学術会議緊急講演会「放射線を正しく恐れる」

(開催趣旨)
東日本大震災後、放射能や放射線に関する様々な情報が大量に発信され、多くの国民は放射線の身体への影響等に関する漠然な不安を日々感じている。本緊急講演会は、放射線に関する第一線の研究者の講演並びにパネル討論により、国民へ現時点での正しい情報を伝え、国民の不安の解消を図るとともに、国民の放射線へのリテラシーの向上を図ることを目的とする。

1 日時 平成23年7月1日(金)10時00分〜12時30分
2 主催 東日本大震災対策委員会
3 会場 日本学術会議講堂

(プログラム)
司会 唐木英明 日本学術会議副会長
第一部 10:05〜10:45 放射線の健康に対する影響
10:05〜10:25 講演1.放射線の発がん作用についてのいくつかの考え方
甲斐 倫明 大分県立看護科学大学人間科学講座教授
10:25〜10:45 講演2.少量の放射線は身体に良いというのは本当か?
山岡聖典 岡山大学大学院保健学研究科
放射線健康支援科学領域 教授
第二部 10:45〜11:20 放射線から身を守る仕組み
10:45〜11:05 講演3.国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告の意味
佐々木康人 (社)日本アイソトープ協会常務理事(連携会員)
11:05〜11:20 講演4.非常事態にどうすべきか
柴田徳思 日本原子力研究開発機構J-PARC センター客員研究員
(連携会員)
第三部 11:20〜12:30 パネル討論(聴衆からの質問を中心に)

............................

ツイッターなどではタイトルの「正しく恐れる」が不評だったようだ。実際、趣旨の「国民の不安の解消を図るとともに」という書き方はあたかも「不安を感じる必要はない」と言っているようだが、実際には「感じる必要のない不安は解消すると同時に、本当に心配すべきものは心配する」であるはずで、その点で趣旨がそもそも適切ではないという印象を与える。
しかし、ここでは講演2が「放射線ホルミシス」を扱ったことについて、書いておきたい。

講演2の講演資料は
http://www.scj.go.jp/ja/event/houkoku/pdf/110701-houkoku3.pdfLink
で読める

原発事故以降の最初期の混乱を除くと、ICRP勧告にしたがった対策をとることがおおむねコンセンサスとして理解されているというのが前提となる。ICRPは発ガンリスクについて「閾値なし・線形モデル」を採用しているので、どんなに低い線量の被曝であっても被曝量に比例したリスクがあるという仮定に基づいてさまざまな基準を決めることになっている。

いっぽう、よく知られているように、放射線ホルミシスは、低線量の被曝が発ガン抑制の機構(遺伝子修復など)を活性化させるのでむしろ健康によいという仮説なので、この「閾値なし・線形モデル」とは立場がまったく違う。
直感的には、低線量被曝は高線量被曝より危険という説よりは、放射線ホルミシスのほうが「ありそう」に思える。生物は自然放射線環境下で進化したのだから、適応によって獲得する性質としては前者よりホルミシス効果のほうがもっともらしい。まあ、あってもおかしくはない話で、おそらく常温核融合よりはだいぶ可能性が高いのではないだろうか。
そんなわけで、放射線ホルミシスを研究している人はいるし、ある程度のデータもあるようだが、僕自身の理解するところでは、今のところはまだ「あるかもしれない」という程度のデータではないかと思う。ありていにいって、「マージナル・サイエンス」の範囲だろう(マージナル・サイエンスというのは、効果が検出できるかできないかぎりぎりくらいのものを議論するもので、正しい可能性もあるが誤解の可能性も高い。科学的事実としては本当かどうかあやしい、という含みがある言葉)。細々とはいえ、長い研究の歴史があることを思えば、仮にあるとしても目覚しい効果は望み薄に違いない。
自然放射線環境下での生物進化を考える上では面白い題材なので、そういう基礎研究としては続ける価値があるだろうが、何か本当に役に立つことを期待するのは今ひとつ筋が悪いような気がする。今のところは「アカデミックな興味」で研究するのが吉だろう。

一方、世の中にはホルミシス効果を謳う商品がある。ラドン温泉の効果をホルミシスに求めるというのも定番としてある。しかし、放射線ホルミシスという効果が実在するかどうかすら上のような状況だし、仮にあるとしてもそうそう強い効果ではなさそうだとすると、今現在ホルミシス効果を謳う商品があるのはひどくおかしい。マイナスイオンの健康効果のようなもので、学説はあるがまだまだ確立したというには程遠い(あまり望みはない)「マージナル・サイエンス」をあたかも確立した学説であるかのよいに扱う商品は、マイナスイオン商品と同じ意味で「ニセ科学商品」と呼んでいいだろう。
しかも、もし放射線ホルミシス効果なんていうものが実在しないとすれば、その商品は単に使用者を被曝させるだけなので、そんなものが許されるはずがない。その点でマイナスイオン商品よりもたちは悪い。ラドン温泉の効果がホルミシスかどうかも実証されているとはとても言えないが、いっぽう、ラドンは肺ガンのリスク要因でもある。実際、欧米では建物の中のラドン低減策が問題になっている。もちろん、たまにラドン温泉にはいるくらいでどうということはないだろうが。

学術会議の講演会に戻る。
「放射線を正しく恐れる」というタイトルの講演会にホルミシスの解説があるのはなぜか。正直、講演を聞いていないこともあり、あまりよくわからない。放射能影響についていろいろな考えかたがあるのを知らせるためだとしても、ホルミシスにまるまる一講演当てる必要があるのかというと、少なくとも今の問題では必要ないだろう。講演2の要旨にもあるように、防護はICRPの「閾値なし線形仮説」に従うのがコンセンサスなのだから、ホルミシスはせいぜいさまざまな考えかたを紹介するなかで「ひとつの考えかた」として紹介する程度がせきのやまかと思う。
問題は、ここにホルミシスの講演を置いたことによって、「放射線を正しく恐れる」という題が「放射線は安全だと信じるのが正しい」という趣旨と取られかねない点にある。本来は「恐れるべき場合とそうでない場合とを見分ける」というのが趣旨のはずだ。
この講演会の趣旨が政治的に解釈されるのは当然予想されることで、その意味で「ホルミシスの講演がある」という事実はひとつの政治的メッセージと捉えられうる。学術会議が実際にそういうメッセージを出そうとしたのか、あるいは単に「あまり知られていないことだが、学問的に面白いので」という純粋にアカデミックな理由なのか、これだけからは判断できないが、政治的に解釈される危険をおかしてまでこの講演を設定する必要があったとは思えない。単にアカデミックな興味だったとしたらナイーブにすぎたというしかないし、意図したメッセージであれば不適切だろう

まとめ
(1)放射線ホルミシス効果は実際にあるかもしれないが、現時点では未確認の仮説に過ぎない
(2)放射線ホルミシス効果を謳う商品は、未確認の仮説を確立したものであるかのように扱う点で、マイナスイオンの健康効果と同様のニセ科学性がある
(3)放射線防護にはホルミシス効果を考慮しないことがコンセンサス
(4)学術会議の「放射線を正しく恐れる」という講演会にホルミシスの講演は不要だった
(5)ホルミシスの講演があったことは、学術会議からのひとつの政治的メッセージと解釈されてもしかたがない


[追記]
現状で「ホルミシスがあるから安全である」というメッセージは行きすぎですが、講演要旨を見る限り、そういう講演ではなかったのだろうと思います。
いっぽうで、本当に「ホルミシスがあるから安全である」と主張する人たちもいて、それはホルミシスが実証されているとはいえないことと現在の放射線防護のコンセンサスとからすれば問題でしょう。
とはいえ、「ホルミシスを信じているのは御用学者だ」みたいな言い方は筋が違います。信じたり研究したりするのは学問の自由であって、それだけでどうこうということはありません。ただ、今の状況ではどういう文脈でどのように語るかは重要です

[追記]
なんか、上の文章で僕がホルミシスを肯定していると思う人がいるみたいですが、どこをどう読めばそうなるのかわかりません。「マージナル・サイエンスの範疇」とはっきり書いているのに。「低線量被曝は高線量より危険」という説よりは「ありそう」だし、たぶん常温核融合よりも「ありそう」と思いますが、それでも現状は「マージナル・サイエンスの範疇」ですよ。

― posted by きくち at 02:30 am commentComment [64]

なくろん

今年の「高校生のためのスーパーコンピューティングコンテスト」の課題はオリジナルのパズルゲームでした。
ゲームの名前は「なくろん」。盤を傾けてボールを落とすゲームですが、このルールのゲームはかつてなかったのではないかなあと思います

解説と実際にブラウザーで遊べるゲームが以下の「なくろん公式ホームページ」にあります。ぜひ遊んでみてください。iPhoneやiPadなら加速度センサーを使って、傾けて遊べます。まだ、解説がコンテスト用のままなんですけどね

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/naklon/Link

― posted by きくち at 03:08 am commentComment [8] pingTrackBack [0]

大阪大学・東日本大震災以後の科学と社会を考える研究会

何をどうすると決めたことがあるわけではないのですが、何かをどうかしたほうがいいのだろうと考えて、「大阪大学・東日本大震災以後の科学と社会を考える研究会」という研究会を作りました。

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/s3osaka/Link

発起人というか設立メンバーは

小川哲生(大阪大学理学研究科・教授)
平川秀幸(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター・准教授)
深尾葉子(大阪大学経済学研究科・准教授)
時田恵一郎(大阪大学サイバーメディアセンター・准教授)
菊池誠(大阪大学サイバーメディアセンター・教授)

これからぼちぼちと何かしらやろうと考えています

とりあえず、講演会をやります

2011.09.11 公開講演会 「東日本大震災と原発事故:いま,関西からできること」

詳細はウェブサイトで。
あれっ、て思うかもしれませんが、いろいろやればいいかなと

― posted by きくち at 02:16 am commentComment [172]

食品の放射能

夕べツイッターで知っただけで、その後の展開を知らないのですが、一般的に言える話の実例として

以下は8/22付けの宮城県知事臨時記者会見
http://www.pref.miyagi.jp/kohou/kaiken/h23/k230822.htmLink

から、牛肉を全頭検査して出荷するという「県産牛出荷停止の一部解除について」の質疑応答の一部です。

................................
◆Q
 検査証明書の表記には検出値も表記するのか、あるいは食品衛生法の基準を下回っていると、安全であるというざっくりとした表記になるのか。どのようになるのか。

■村井知事
 安全であるということだけでよろしいかと思っております。健康上全く問題のない数値であるわけですので、詳細な数値を出したところで消費者の皆さんは理解ができないわけでありますから、安全か安全でないかということだけはっきりと証明すれば十分だというふうに思っております。正式には、牛肉の放射性物質検査結果通知書といったような形で添付をしたいと考えております。(1キログラムあたり)500ベクレル以下であるということであります。その証明書がついていれば(1キログラムあたり)500ベクレル以下で、どれだけ食べても全く問題がないということであります。
...............................

これは「いかにも政治家が言いそう」な発言でがっかりしてしまうのですが、似た考えの政治家は少なくないのだろうという気がします。

しかし、これで消費者の信頼が得られると信じているのなら、いくらなんでも考えが甘いし、消費者を馬鹿にした話です。誰のためにこういうことを言うのかわかりませんが、むしろこれでは牛は売れなくなるだけですよね。

出荷されている食品が安全基準に合格しているはずだというのは当然の前提です。もちろん、例外的な食品を除いては全量検査はできないので、検査していないものが流通するわけですが、適切にサンプリング調査できていれば、それほどひどいことにはならないはずです(全量検査は現実的ではないので、サンプリングのしかたがもっとも重要です)。だから、基準に合格しているかどうかというのは、むしろ言わずもがなの話。

基準値以下であっても数値をきちんと公表することだけが信頼を得る道です。これだけいろいろ騒がれているのに、どうしてそれが理解できないのかまったくわかりません。
出荷する側の基準はそれはそれとして、消費者にも自分なりの基準で判断する自由があります。消費者に選択肢を与えるという発想がまったくないようですが、今の安全基準では不十分と考える消費者なら、数値が公表されなければ買わないはずです。
「詳細な数値を出したところで消費者の皆さんは理解ができない」という発言にいたっては誰の支持も得られないと思います。なんでこんなことが言えるのか、その鈍感さに驚きます


ところで、牛は全頭検査するそうですが(ということなのかな。各戸二頭目からは農家が半額負担と書いてありますが、検査しないと出荷させないのかな)、全頭検査できる食品は本当に限られます。今は測定装置も技術者も足りていないはずで、牛を全頭検査すれば、それだけ他の食品のサンプリング検査できる量が減るのではないかなあ。牛はむしろ各戸から一頭か二頭サンプリング検査すれば、充分に信頼できるデータが得られるはずのものでしょうから、その分、ほかの食品を測ったほうがいいと思いますが

いろいろな意味でおかしいですね


牛に限らず、単に基準に合格しているかどうかではなく、「数値がこれこれだから、基準に合格している」という公表のしかたでなくては信頼されません。行政はとっくに信頼を失っているという認識や危機感がぜんぜん足りないように思います。
きちんとしたサンプリング検査を行って、得られた数値そのものを公表する。また、不検出の場合にも不検出となる上限値を必ず書いて公表するということをきちんと続けていくことが重要でしょう。数値を出さないというのは最悪の選択です。

これから気になるのはやはり魚です。陸にはストロンチウム90がほとんど飛んでいないので、セシウム137と134だけを気にすればいいのに対し、海にはストロンチウム90も流れていますから。また、魚は採れた場所と水揚げ港が必ずしも一致しないので、公表の方法を工夫しないと、消費者は疑心暗鬼になるだけでしょう

[追記]
正直、どうして牛だけそんな特別扱いになるのか、和牛を食べない(高いから)僕にはよくわかりません

[追記]
僕は全量ではなく適切なサンプリング検査をすべきと考えているので、公表するのはサンプリング検査の結果。食品そのものに放射能値を表示するという要望は多いようですが、それは全量検査ができない限り無理で、現実的ではない。
もちろん、スーパーや生協などが独自に全量検査して表示するかもしれません。それはそれで自由ですが、大量に検査すると精度が下がるのは必至なので、本当にそれがよいかどうかはよく考えるべきだと思います

― posted by きくち at 03:44 pm commentComment [57]

放射能由来の発癌とその補償について

twitterで以前つぶやいたことをぼんやりとした記事にしました。
ぼんやりです。特に調べてないし、まとまりもありません。たぶんどこかで誰かが僕よりもずっとまじめに議論していると思います。
twitterで書くだけっていうのはよくないな、と反省中
........

放射能汚染の健康影響として想定されるのは、ほぼ発癌だけと考えられています。また、今後の対策しだいですが、内部被曝の検査でも幸いにして被曝はひどくないようなので(よいという意味ではありませんが)、福島に留まり続けたとしても(避難地域は除き)、累積の被曝の程度はおおむね疫学的には発癌リスクがわからない低線量の範囲の、さらにその中でも低いほうに収まると思います(というより、そうでなくてはならないし、そういう対策がとられなくてはなりません)。

ICRPが採用している「閾値なし線形モデル」にしたがえば、累積100mSvの被曝で癌による死亡リスクは0.5%の増加で、低線量では累積線量に比例です。発癌リスクはそれに適当な倍率をかけたくらいで適当に見積もればいいでしょう。すると、個人の発癌リスクの増加は非常にわずかと考えられます。
いっぽう、対象人数が多いので、総数では有意な増加が見られるかもしれませんが、もしかしたら見られない程度かもしれません。しかし、仮に有意に見られなくても「影響なし」という意味ではありません。

問題は、既に多くの人が指摘しているとおり、発癌と原発事故の因果関係は立証が難しいという点です。難しいというより、基本的には立証不可能ではないかと思います。多くの人が将来的には癌になりますが、原発事故による放射能が原因で癌になるのはそのうちごくごくわずかな人だけで、しかもそれは他の原因によるものと区別がつかないと思われるからです。
しかし、「閾値なし線形モデル」を採用する以上、発癌リスクは増加しているとせざるを得ないので、癌を発症したら当然補償が必要です。因果関係は立証できないし、癌の大多数は原因が違うのだけど、それでも因果関係がある可能性は常にある。

いや、この問題は要するに公害による健康被害なんですけど、これまでのように因果関係が立証できなければ補償しないというやりかたが通らないのはあらかじめわかっているわけです(これまでも、それではいけない面が多々あったのですが)。何かまったく新しい補償の枠組が必要なはずです。まさか、「因果関係が立証できないから補償しない」では済まないでしょう。
問題が生じるのは何年も先のことなので、それまでに何か考えておかなくてはならないのですよね。
もちろん、住民の健康調査を継続的に行うことになっていて、それは重要です。それで癌の早期発見ができて、治療できるなら、それに越したことはありません。その場合の治療費用をどうするのかは考えられているのでしょうか。それもまた「補償」の一部ということになるのでしょうが。

ところで、原発事故と放射能によるストレスに起因する病気など、メカニズムとしては因果関係はないものの事故さえ起きなければ発症しなかったはずの病気もあるはずで、そういうものも補償されるのが筋というものではあると思います。

僕にはよくわからないので、とりあえず書いておきました

まとめ
(1)将来、多くの人が癌になるが、原発事故との因果関係は立証不可能だろう
(2)発癌率が疫学的に有意なほど上がるかというと、そうはならない可能性も高い
(3)癌のほとんどは原発が原因ではないが、仮に疫学的に有意でなくても、わずかな割合で原発が原因のものがあると考えられる
(4)因果関係の立証を必須とするような補償の枠組ははじめから破綻しているので、別の枠組が必要

こういう議論は当然既にどこかで誰かがしているのだと思いますが、市民の意見が反映するようなオープンな議論が求められます。


それから、「因果関係が立証できないから、どうせ補償してもらえない」という意見もネットで見かけます。もちろんそれは当然の心配なので、政府は「決してそういう意味で国民を切り捨てることはない」という強いメッセージを出さなくてはだめですね。
出てる?

― posted by きくち at 12:53 pm commentComment [12]

過去に書いたこと

お前は震災以前に原発について何か言ったのか、と言われると、特にたいしたことは言っていませんとしか答えられないのですが、たまに聞かれるので、過去に原発に言及した文章を載せておきます。僕が過去に原発について言及したのはたぶんこれくらい。あとは講演のスライド程度。
いずれにしても、「絶対安全神話」はニセ科学の文脈で否定していたが、実際に地震で壊れるという想像にはいたらなかった。廃棄物が最大の問題だと考えていた。というところ。
自分で思っていた以上に想像力が足りなかったということです。
特に調べたこともなかったというのが、さらに大きな問題ですが。実際、制御棒がはいって停止した原発が電源喪失で大事故にいたるというのは、考えたこともありませんでした。
下に引用したGCOE講演が意外に予言的なので、結構鬱です



○東大GCOEの一般向け講演(2010/10/16)で話した「絶対安全神話」について:

嘘をついてしまうと、今度は信頼回復が極めて困難になります。たとえば、リスクはあるものの確率的にはちょっとしかリスクがないから、うるさいことは言わずに安全だと言ってしまえとやると後々大変なことになるかもしれないわけです。不利な情報も出さなくては信頼されないいっぽう、うるさいことを言うといって聞いてもらえなくなるという面もありますので、なかなか難しい。実際に嘘をつくとどういうことになるかという例です。94 年のノースリッジ地震で高速道路が倒壊しました。ノースリッジ地震で高速道路が倒壊した際、日本ではそんなことは起こらないと自信を持って工学の研究者が発表していました。ところが、その翌年にわれわれは阪神大震災で阪神高速道路の倒壊を見たわけです。この結果、日本の建築物は地震に対して安全ですよという話が信頼を失なったのです。今、原発と地層の問題とか、大変難しい問題がたくさんありますが、その問題に関係してくるわけです。ここで一言こういうことを言って広まってしまったことによって、今では、例えば建築の専門家が「これは地震に対して安全ですよ」と言っても、あるいは「ここで起きる地震ではそれ以上のことは起きませんよ」と言っても、信じてもらえなくなったと思ってください。嘘をつくのは科学者でなくて行政だという考え方もありますが、いずれにしろいったん嘘をついてしまうと大変なことになるので、とにかく伝えるべきことはきちんと伝えるしかないのですが、どう伝えるのかは大変難しいところです。


○『おかしな科学』ではこう書いた :

行政もおうおうにしてリスクをきちんと説明することを避けて、ゼロリスク的な話をするから危ういよね。原発は絶対安全なので避難訓練もしません、みたいな話がまかり通っていたわけじゃん


○07年にブログにも少しだけ書いた(2007/5/17のコメント):

原発に関しては、やはり長年の「隠蔽体質」によって市民の信頼を完全に失ったことが問題の根本にあると思います。もうひとつは「絶対安全神話」でして、「絶対に安全だから、事故を想定した避難訓練もやらない」などというナンセンスな話がまかり通っていたわけです。長年かけて培われた不信感はなかなか拭えないでしょうね。依然として「事故隠し」まがいのことが続いていますし。冷静な議論以前の問題になってしまっているのは不幸ですが、ちなみに、僕自身はやはり「廃棄物処理」の問題が解決されない限り、原発を増やすべきではないと思います。


○もうひとつ2006年のブログ(2006/3/17):

テレビで神戸空港をメインに「地方空港」の話をやってるんですが、今後の需要予測というのが、いつもながらとんでもない。空港に限らず、ダムでも原発でもそうだと思うのですが、「需要予測」ってのがくせもので、作ることを正当化するデータを出すとはじめっから決まっているとしか思えない。どう考えても、「需要予測を見て、作るかどうかを決める」ためのものじゃないよね。そういうのは「予測」と言わない。学者だの有識者だのが関与してる場合も多そうだけど、それってかなり悪質な「ニセ科学」なのでは。
(2011年現在の注: 空港やダムに比べると電力の需要予測はまともかもしれません)

― posted by きくち at 03:29 am commentComment [18]

放射能不安と対話

野呂美加さんのエントリーが荒れたのでこちらに

そこの記事の最後にも書きましたが、野呂美加さんなどが支持される理由のひとつは、不安をもつ親に対してわりとこまめに講演会などを開催し、その不安に応えるからです。
科学者も不安に応えているのではないかと思うかもしれないけど、なんというか「答えているが、応えていない」とでも言うか、「理屈じゃなくて納得したい」という気持ちには応えていないということだと思います

もちろん、やはり理屈に合わないことはいえないので、「EM菌で安心できるなら、効果がなくてもいいじゃないか」というスタンスは取りづらい。野呂さんのように「理屈はともかく不安を重視」のようなスタンスのかたには、ある意味、初めから勝ち目はないわけです。これは震災以前からずっとあった問題で、今にはじまったものではありません。解決法はありません。

しかし、「わりとこまめに講演会などを開催し」というところは、本当はできるはずで、そこをなんとかできないだろうかとずっと考えるだけは考えています。
大きな講演会ではなく、個々の不安を聞けるような、小さな会をたくさん開くのがよいはずだというところまでは、確信があります。

これはまさにいわゆる「欠如モデルがうまくいかない場合」そのもので、すると「双方向モデルでやれ」ということになります。まあ、僕はそう言っているわけです。不安は人それぞれだから、個々の不安というからにはそうなります。当然それは少人数を相手にするわけですから、おもいきり頻繁にいたるところでやらなくてはならない。科学コミュニケーション論のみなさんは簡単に「双方向」と言うんだけど、これ、ものすごくたくさんやれということですよ。本当に本気で実践したことあるのかな。
でも、それしかないのだろうと思います。

実際には地元の人が主催しないことにはどうしようもありません。誰を呼ぶかも重要で、これまた大変です。でも、なにかそういう方向でできないのだろうかと、問題提起だけはしておきます。組織的にやれればいいのですが

何かいいアイデアはないかな

[追記]
「欠如モデル批判」に対する僕の不満は、双方向モデルなら当然場数を増やさなくてはならないという点をまじめに考えているかどうかわからないことです。そういう実践例はどの程度あるのか

― posted by きくち at 02:23 am commentComment [62]

業務連絡

エントリーが荒れ気味なので

同意であれ反論であれ、コメントは穏やかに書いてください。
正直、ギャラリーから見て最後に説得力があるのは、どこまでも穏やかに書けたものですよ。
罵倒したっていいことは何もないし、罵倒されても気にしないことです。そういうコメントは無視して放置すれば、ギャラリーにはそれでわかります。そういうものは単に孤立させてしまえばいいのです

詰問してもしかたないし、逃げ道を塞ぐような議論のしかたも逆効果です。
ディベート的に議論に勝つのはきわめて容易ですが、それはギャラリーに好印象を与えません。
馬鹿にしているように見えたら、やはり逆効果です。
対話すれば理解してくれるかたに対しては時間をかけた対話だけが有効ですし、対話しても理解する気のないかたに対しては何をやっても無駄です

まあ、最大限淡々とやりましょう。
怒りをおぼえている瞬間にはコメントを書くべきではありません。

ひとつ指摘すると、うちの地縛霊はまさにそこを狙って書いてきますよ。あれは他人を苛立たせて、怒りのコメントを書かせるようにする戦略に特化した人工知能です。引っかかったら負け

― posted by きくち at 02:06 am commentComment [6] pingTrackBack [1]

高校生のためのスーパーコンピューティング・コンテスト

今週はずっと「高校生のためのスーパーコンピューティング・コンテスト」をやっていました。
本選と審査は昨日で終わり、今日は発表会(10:30-)と表彰式(13:00-)が阪大の21世紀懐徳堂で行われます。見学可。
ustream中継も予定しています

http://www.ustream.tv/channel/supercon?rmalang=ja_JPLink

今年の問題は「なくろん」と名づけたオリジナル・ゲームを解くプログラムを作ることでした。
「なくろん」の解説とPCやiPadなどで遊べるゲームは

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/naklon/Link

にありますので、遊んでみてください

― posted by きくち at 08:41 am commentComment [2] pingTrackBack [0]

初めてのかたへ: 「通りすがり」「匿名」等、発言者の同一性がわからないいわゆる「捨てハンドル」での コメント投稿はお断りしています。本名は求めませんが、区別のつくペンネームを使ってください。 また、単なる罵倒みたいなコメントは消しますし、言葉尻を捉えた「議論のための議論」も適当に消したりします。 なお、人間ではない「何か」が意味のない(しかし、巧みに人を いらだたせる)議論を書き込むことがしょっちゅうあります。 地縛霊とか座敷童みたいなものです。僕も正体を知りませんが、機械のような反応なので、人工知能かもしれません。 このブログの環境だとあきらめて、相手にしないでください。スルー力検定というやつです。
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