ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
儚き世界の法則
詐欺師の罠
 同時刻アルファ“ユグドラシル”本部。
「マイダート峡谷です! 近くにいる偵察隊を向かわせてください。ドレイクに連絡を! 付近の討伐隊全てを向かわせてください!」
 クロウから念話を受け取った公潤は直ちに部隊を向かわせた。クロウとの念話を維持しているため他に念話を繋げられないのだ。

 マグモの子息が椅子を倒して立ち上がりました。その顔が紙のように白いです。
 恐らく知らなかった同盟の代表達が凍り付いています。アガタの次期領主は知っていたようですが。
「コボルト、ゴブリン、ホブゴブリン、オークが確認されている。このままでは同盟は前代未聞のモンスターの大群に蹂躙されてしまう」
「一万……そんな……」
 どこからか呟きが聞こえました。
「我がロゼリアは同盟を結ぶ全ての諸国に助力を求める」
 “封印されし都”が盾になっているとはいえ迂回されてはしかたありません。一万もの群はひとつふたつの国で対抗できるはずも無く──同盟の総戦力戦──それも多大なる犠牲を覚悟しての戦いとなるでしょう。
 『コモン』にとっては死活問題です。
 もっともそれ以上の“巣別れ”したモンスターが各地で討ち取られているという情報はまだないようです。
 実は状況はもっと深刻です。一万もの軍勢も一部でしかありません。『コモン』さんには秘密にしておいたほうがいいでしょう。
 どんだけ増えたんでしょうね、モンスター。
「と、当然貴殿らも協力するのだな」
 それまで敵対説を唱えていたマグモの子息が僕達に言いました。
「僕達が──ですか? ご冗談を」
「冗談だと!」
「依頼もされていないのに口出しするなんておこがましい。領地を守るのは領主の義務であり権利です。そんな僭越な真似はいたしません」
「───な──」

 同時刻離宮。
「───そんなっ!」
 フェリシアは悲鳴を上げた。
 一万ものモンスター。考えるだけで気が遠くなりそうだった。マイダート峡谷を南下してきているといえば、その矛先はロゼリアではないか。
「思い切ったねえ」
 胡蝶蘭が苦笑する。それがフェリシアには見捨てられたように感じられた。
「でもこれは仕方ありませんわ」
 ヘレーネという女性もそれが当然のように言う。
「あっ姫さん!」
 フェリシアは思わず離宮を飛び出した。

「お聞きになりませんでしたか? ロゼリア公は同盟を結んだ諸国とおっしゃいました。僕らは招かれた身ではありますが、同盟を結んでいるわけではありませんよ?」
「なにを言う! それだけの力を持ちながら! 同盟を見捨てるつもりか!」
「見捨てるも何も、依頼されておりませんが?」
 あちらこちらから非難する声が上がりますが、ヴォルグさんがそちらを見るとぴたりと止まります。さすがにアルファ最大の戦闘系ギルドのマスターという肩書きと無表情なところが非情だという誤解を生んでいるようです。ヴォルグさんはただそっちを向いただけです。威嚇するつもりなど欠片もなかったのでしょうに。
 乏しい表情から思いを汲み取るのがヴォルグウォッチで楽しいところなのですが。
 そもそも協力を要請しなかったのは僕らから話を切り出させようという意図があったものと思われます。それをマグモの若造がぶち壊しにした──というところでしょうね。
 突然騒ぎが大きくなりました。部屋に駆け込んできた人がいました。フェリシア姫です。
 ぼろぼろと涙を流しながら僕達の方を見ています。
「突然どうしたのだ、フェリシア。ここはおまえの来るべきところでは──」
「助けてください」
 ロゼリア公の叱咤も聞こえていないように僕らに助けを求めました。
「どうか、このロゼリアを助けてください! 一万ものモンスターに攻められてはロゼリアが滅びます。ここはわたしの大切な祖国。どうか、どうか助けてください……」
「フェリシア姫! なんということを! こんな下賎な者達を頼ろうとは──」
「わかりました」
 一瞬会議場が静まり返りました。
「あなたが望み、僕が引き受けます。クエスト成立です」
 静まり返った会議場に僕の声だけが響きました。
「内容は『一万のモンスターを蹴散らしロゼリアを救う』報酬は『麗しき姫君の憂いをはらす』。ヴォルグ! アルファの誇る銀の狼“巨人殺し”“狂戦士”ヴォルグ! このクエスト引き受けますか?」
「引き受けよう。お前が望むなら」
 ヴォルグさんが立ち上がります。僕が差し出した手を取ります。
「蹴散らしましょう。蹂躙しましょう。撲滅しましょう。なに、相手はたかだかゴブリンです。いくら集まろうと敵ではありません。勝利の美酒は僕らのためにあります」
 僕らは堂々と扉に向かいました。一度だけ振り向き──
「ジョンさん、後はよろしくお願いします」
「ちょっと待て! ゴラァ!」
 ジョンさんの悲鳴を背に城下町に作られた拠点に二人で飛びました。

「……に……逃げられた……」
 置いていかれたジョンはしばらく扉を呆然と見ていた。数人が後を追いかけたようだが、影も形も無かったという。“帰還呪文”を使ったのだろう。
(お、俺にどうしろとっっ!!)
 弁が立つほうでない自覚はある。だからこそ頭脳派を当てにしていたのだ。
 クロウのほかといえば『銀狼騎士団』の北川、『お茶会』のヘレーネ、『キノクニ屋』の柴──男尊女卑の同盟のなか頼りになるのが全員女なのが笑える。
 ざわめきだす会場に再び侵入者が現れた。
 着流しの新之介だ。
「迎えに来たぜ、姫さん。『B・スミス』の旦那も。これじゃあ会議にならんだろうが」
 床にへたり込んでいるフェリシアの耳元に新之介が囁いた。
「大丈夫。予定通り……いや、予定以上ですよ」
「え?」
「部屋にもどりますぜ」
 各国の代表は慌しく本国に連絡を取るため会議場を飛び出していた。

「予定とはどういうことなのですか?」
 離宮に戻ったフェリシアはすぐに問いただした。
「お姫様、あたし達はあなたの護衛。依頼をキャンセルされないかぎりあなたから離れるわけにはいかないの。これは分かりますわよね?」
「あっ!」
 胡蝶蘭に言われて初めてそのことに思い至りフェリシアは動揺した。
 確かにこれでは別の依頼をするわけにはいかない。だからこそ、父が助力を願わなかったのだと納得できた。
「もっともアガタあたりは報酬を払いたくないって腹が見えていましたけどね。こっちから言い出せば値切れますから」
 くすくすと柴が笑う。
「そうでしたわ……どうしましょう」
 フェリシアはなんの報酬も約束していない。それでもあの冒険者は引き受けてくれたのだが──後でどのような要求をされるのか分かっていない。
 自分で贖えるものならどんなことでもして見せよう。けれど──それ以上を求められたら──
 クリエッタがのんびりと言った。
「気にしなくていいですよ~。うちのギルマスがこんなことほっとくわけないです~。“法の番人”の二つ名は伊達じゃないのです~。とっくに対応策とってますよ」
「え?」
「『ワイルドカード』が動かなかったら『キノクニ屋(うち)』の旦那が尻蹴飛ばしますよ。『コモン』の村は大事なお得意さんですからね」
 『コモン』の村は大事な食料庫である。貴重な味のある加工品を作っている村もあるのだ。失うわけにはいかない大事なものである。
「“ユグドラシル”“リーフ”がとっくに動いてんだよ。マイダートの情報はまだなかったけどね」
 胡蝶蘭がまとめた。
「補充の要員はすでに手配済みだよ。夕方には『高雅楼(うち)』のメンバーがくるさぁ」
「……え?……」
 ふうっとヘレーネが息を吐いた。
「“黒の錬金術師”が張った罠ですわ。わたくし達の中で強そうなのは誰でした?」
 フェリシアは口ごもった。
 ジョンには一度助けられている。巨漢だからそれなりに迫力はあるのだが──
 妖艶な美女の胡蝶蘭。美少女のメイドであるマリー。金髪の優しそうな美女である北川。鋭利な雰囲気の銀髪の美女ヘレーネ。独特の装いの楓。追加ののんびりした口調のクリエッタ。寡黙な美少女夕暮。このあたりは女性である。護衛といっても強そうには見えない。
 優男で演奏家の健太郎など最初から問題外だし、料理人の武もとてもとても。柴はどこと無く線が細くときおり男にすら見えない。遊び人風の新之介はそもそも戦えるのか。
「あうう、その、あのっ」
「そんなに悩まなくてもいいよ。ヴォルグだろ? 実際、真正面から戦えばアレが一番強いよ」
 悩むフェリシアに胡蝶蘭が言い切った。謳うようにヘレーネが続ける。
「その一番強い兵が消えた。さらに出兵に備えてフェリシア姫の護衛は薄くなりますわ」
「くるよぉ。同業の勘って奴かね? あたしならこの好機は逃さない」
 フェリシアにもやっと“罠”の意味が分かった。この事態を利用してあの曲者をおびき出そうというのだ。
「大丈夫ですよぉ。姫様の身はこのクリエッタが守ります」
 そういわれても不安がないわけではない。『コモン』では女性が戦うことなどないのだ。まして麗しい美女美少女ぞろいの冒険者が強いとは──ふとジョンと眼があった。
「大丈夫だ。信じろ」
「お任せします。皆さんを信じます」
 フェリシアの覚悟はきまった。
三万ぐらいのモンスターが“巣別れ”しております。西方面だけで一万ってことです。多い。もっともまとまった行動ではなくバラバラなので各個撃破されております。

ヴォルグ、クロウ愛の逃避行(違う
残されたジョンの運命やいかに(さらに違う

クロウってこういうけれんみのあるやり方大好きですよね(笑)
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。