【フィウミチーノ(イタリア中部)藤原章生】「子どもが泣いているのに、いい年した男性たちが我先にとはしごに群がった」--。地中海のイタリア中部ジリオ島の沖合で13日夜に座礁した豪華客船コスタ・コンコルディア(乗客乗員約4200人)に乗り合わせ助かった韓国の中学校女性英語教諭、康鎮珠(カン・ジンジュ)さん(47)が16日、ローマ近郊のホテルで毎日新聞に脱出までの模様を語った。
康さんは娘(10)と妹夫婦とその3人の男児ら(14~9歳)計7人で、11日夜にローマ入りした。初の海外旅行で、1週間ほど地中海クルーズを楽しむつもりだった。
13日午後2時ごろ、ローマ北西にあるチビタベッキア港から「コスタ号」に乗船し、遅い昼食を済ますと時差ぼけと疲れから3階にあるキャビン(個室)2室にこもった。娘と妹と一緒にお祈りをして寝ようとした午後9時42分、「ドーン」という衝撃で床に投げ飛ばされた。はって廊下(長さ約50メートル、幅約5メートル)に出るとすでに数百人の乗客が慌てふためいていた。直後に停電した。康さんは闇の中、服や靴、携帯電話を取りに戻れず、妹の夫と男児ら3人ともはぐれた。
「大声で泣き叫ぶ人がたくさんいてパニック状態だった。何を聞いても乗員は笑いながら『ノー・プロブレム(問題ない)』というだけで誘導もなかった。次第に船が傾きだし、英語、中国語、日本語などでの放送があったが、女性たちの泣き声でまったく聞き取れなかった。男性も含め西洋人がこんなに取り乱すとは思わなかった」
午後11時、救命ボートに「50人だけ乗れる」と言われたが、3階客室脇のボートに大勢が群がり、結局、脱出は取りやめとなった。その後、乗客約200人が2階上のデッキに上るはじごに殺到した。
「『女性と子どもが先だ!』と若い男性が叫んでも、何人もの老年男性が我先に登ろうとし若い男性に引きずり下ろされ、激しいけんかになった」
沿岸警備隊によると、座礁約1時間後の10時半の時点で船の傾きは20度だったが、深夜を回るころには80度になった。康さんは「娘を引っ張り上げ3時間かけてようやくデッキに上がったが、傾きがひどく海に滑り落ちそうになり、ロープにぶら下がり救援を待った」と語った。沿岸警備隊の船で救出され、ジリオ島に上陸できたのは座礁から5時間40分後の午前3時20分だった。
業務上過失致死容疑で逮捕されたスケッティーノ船長が脱出したのはその3時間40分も前だった。
結局、妹家族も含め全員無事だったが、康さんは「乗員が経験の浅い若者ばかりで頼りにならなかった。学校の英語の授業で何度もみた映画『タイタニック』を思い出し、怖くてたまらなかった」と話した。
毎日新聞 2012年1月17日 10時16分(最終更新 1月17日 13時02分)