今の30歳前後が就職活動を始めた2000年代初めは、社会が変わりそうな予感があった。ベンチャー企業が注目され、正規社員と非正規社員の格差もなくなるような期待が持てた。足元の景気は不安定だけれど、いろんなことにチャレンジできそうだ、と。
法科大学院ができたり、カウンセラーやファイナンシャルプランナーなどの専門職志向が強まったのもこの頃。組織に頼らずフリーでもキャリアを積めそうだと思えた。
私も期待を抱いた一人。「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」という家庭に育った人が多く、親の堅実な人生が平凡でつまらなく見えた反動もあるだろう。「お金は何とかなるに違いない。プラスアルファとしてのやりがいを優先したい」という価値観が強く、「自分探し」もはやった。
しかし、結局、期待したような社会にはならなかった。夢を持って新しい職種に挑んだ結果、成功した人は一部だけ。大部分は期待外れに終わっている。
法科大学院が典型的だ。社会が流動化し、訴訟が増えるから法曹人が必要だとされたが、逆に弁護士さえも職探しに走る時代になった。
能力はあるのに、不安定で低収入のまま放置されている人が結構いる。本人はこれまでの努力が報われる仕事がしたいから、専門職なら非正規や非常勤職員でも喜んで引き受ける。今さら違う道にと言われても、気持ちを切り替えられないし受け皿もない。
残念ながら、その辺の事情が親には分からない。大学院に行ったり、専門的な勉強をしたのになぜ就職できないの?となる。「やる気があるならできるはず」と。しかも二極化しているので「よその子は定職に就き、結婚もしているのに」と考えてしまう。親は、安定雇用を享受した最後の逃げ切り世代だ。
もちろん昔も非正規の人はいた。しかし、かつてはパート主婦など扶養してくれる人がいる中での非正規だったのに対し、今は社会に出てから非正規のまま年月を重ねている人が増えた。その最初の世代が現在の30代だ。芸術家などの夢を追って非正規を続けた人も、バブルの頃までなら、夢に見切りをつければ定職が見つかった。今は、夢をあきらめた時には仕事がない。30代男性の自殺者増加とも関係があるだろう。社会全体で考えなければならない問題だ。【聞き手・鈴木敦子、写真・手塚耕一郎】
郵便は〒100-8051(住所不要) 毎日新聞くらしナビ「くらし」係へ。宛先に「リアル30’s」と明記して。ファクスは03・3212・5177、メールはkurashi@mainichi.co.jpまで。ツイートでも受け付けます。毎日新聞社の媒体に転載してよい場合はハッシュタグ#rt_30を付けてください。取材記者も@real30sでつぶやきます。
2012年1月16日