経済

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リアル30’s:働いてる? 識者に聞く(中) 「社会変わる」予感 期待はずれ--中央大教授・山田昌弘さん

 ◇中央大教授・山田昌弘さん(54)

やまだ・まさひろ 1957年東京都生まれ。中央大文学部教授。「パラサイト・シングル」などの造語がある。著書に「ワーキングプア時代」、共著で「『婚活』時代」など。
やまだ・まさひろ 1957年東京都生まれ。中央大文学部教授。「パラサイト・シングル」などの造語がある。著書に「ワーキングプア時代」、共著で「『婚活』時代」など。

 今の30歳前後が就職活動を始めた2000年代初めは、社会が変わりそうな予感があった。ベンチャー企業が注目され、正規社員と非正規社員の格差もなくなるような期待が持てた。足元の景気は不安定だけれど、いろんなことにチャレンジできそうだ、と。

 法科大学院ができたり、カウンセラーやファイナンシャルプランナーなどの専門職志向が強まったのもこの頃。組織に頼らずフリーでもキャリアを積めそうだと思えた。

 私も期待を抱いた一人。「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」という家庭に育った人が多く、親の堅実な人生が平凡でつまらなく見えた反動もあるだろう。「お金は何とかなるに違いない。プラスアルファとしてのやりがいを優先したい」という価値観が強く、「自分探し」もはやった。

 しかし、結局、期待したような社会にはならなかった。夢を持って新しい職種に挑んだ結果、成功した人は一部だけ。大部分は期待外れに終わっている。

 法科大学院が典型的だ。社会が流動化し、訴訟が増えるから法曹人が必要だとされたが、逆に弁護士さえも職探しに走る時代になった。

 能力はあるのに、不安定で低収入のまま放置されている人が結構いる。本人はこれまでの努力が報われる仕事がしたいから、専門職なら非正規や非常勤職員でも喜んで引き受ける。今さら違う道にと言われても、気持ちを切り替えられないし受け皿もない。

 残念ながら、その辺の事情が親には分からない。大学院に行ったり、専門的な勉強をしたのになぜ就職できないの?となる。「やる気があるならできるはず」と。しかも二極化しているので「よその子は定職に就き、結婚もしているのに」と考えてしまう。親は、安定雇用を享受した最後の逃げ切り世代だ。

 もちろん昔も非正規の人はいた。しかし、かつてはパート主婦など扶養してくれる人がいる中での非正規だったのに対し、今は社会に出てから非正規のまま年月を重ねている人が増えた。その最初の世代が現在の30代だ。芸術家などの夢を追って非正規を続けた人も、バブルの頃までなら、夢に見切りをつければ定職が見つかった。今は、夢をあきらめた時には仕事がない。30代男性の自殺者増加とも関係があるだろう。社会全体で考えなければならない問題だ。【聞き手・鈴木敦子、写真・手塚耕一郎】

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2012年1月16日

 

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