学校の式典で、日の丸に向かって起立せず、君が代を斉唱しなかった教職員を懲戒処分にするのは妥当か。東京都立学校の教職員が処分の取り消しを求めた訴訟で、最高裁が具体的な考え方を初めて示した。
結論としては、学校の規律や秩序保持などの見地から重すぎない範囲で懲戒処分をするのは、懲戒権者の「裁量権の範囲内」というものだ。
では、どういう場合が重すぎるのか。最高裁は「戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択するに当たっては、慎重な考慮が必要となる」と指摘して、まず線引きをした。
さらに、停職処分については「直接の職務上、給与上の不利益があり、昇給にも影響が及ぶ。式典のたびに懲戒処分が積み重なると、不利益が拡大する」と指摘。学校の規律や秩序の保持と処分による不利益の内容を比較し、「停職処分が相当だという具体的な事情が必要だ」とした。具体的な事情は、過去の処分歴や本人の態度などから判断するのだという。そして、最高裁は停職と減給処分を受けた2人の処分は取り消しが妥当と結論づけた。その点を都教委は重く受け止めるべきだ。
一方で、戒告処分の教職員について、判決は処分を妥当だとした。1度の不起立行為での戒告処分も認めた。要するに「行き過ぎ」はいけないということだろう。
都教委は03年、「式典の際に教職員は国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」と通達した。また、校長に職務命令を出すよう指示し、違反者に次々と懲戒処分を科して処分件数は400件を超える。
だが、そもそも教育現場で、力で抑え込むような指導が妥当なのかは疑問が残るところだ。生徒らの入学や卒業を祝う式典の場ではなおさらではないだろうか。
学校で君が代斉唱を巡り処分が相次ぐようになったのは、99年に国旗・国歌法が成立した影響も大きいだろう。だが、当時の小渕恵三首相が国会論議で述べたように、個々人に強制するものであってはならない。
最高裁は昨年、君が代斉唱時に起立を命じた校長の職務命令が合憲だとした判決で「君が代の起立・斉唱行為には、思想・良心の自由に対する間接的な制約となる面があることは否定し難い」と述べた。たとえ戒告処分であっても慎重に判断すべきなのは当然だ。判決を「より軽い処分」のお墨付きにしてはならない。
大阪府では昨年、公立校教職員に君が代の起立・斉唱を義務づける全国初の条例が成立した。府議会には、「常習的な職務命令違反者」の分限免職も規定した教育基本条例案が提出されている。最高裁の判決の内容も踏まえて議論してもらいたい。
毎日新聞 2012年1月17日 2時31分