入学式などで日の丸に向かい起立して君が代を斉唱せず懲戒処分を受けた東京都立学校の教職員ら計約170人が処分取り消しなどを求めた計3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は16日、「減給や停職には過去の処分歴や本人の態度に照らして慎重な考慮が必要」との初判断を示した。その上で、停職の2人のうち1人と減給の1人の処分を取り消す判決を言い渡した。
一方で「学校の規律の見地から重過ぎない範囲での懲戒処分は裁量権の範囲内」とも判断、戒告を受けた教職員らの処分を取り消した2審判決を破棄し、逆転敗訴とした。裁判官5人中4人の多数意見。宮川光治裁判官は「(不起立は)注意や訓告にとどめるべきだ」と反対意見を述べた。
小法廷は不起立行為について「学校行事の秩序を一定程度損なうが、個人の歴史観や世界観に起因し、積極的妨害はなく、どの程度の混乱を招いたかの評価は困難」と指摘。一度の不起立で注意などではなく戒告とすることは「直ちに違法とは言いがたい」と裁量権を容認した。
さらに停職と減給についても検討。停職の1人は過去に日の丸を引きずり降ろすなどしたことから処分を妥当とする一方、過去の不起立などによる処分の累積で停職、減給とされた各1人(計2人)については「処分は重過ぎて社会観念上著しく妥当性を欠く」と取り消した。
都教委は03年10月の通達で学校行事での起立斉唱を義務付け、最高裁は11年5月、通達に基づく職務命令を合憲と判断。一方、橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」は同一の職務命令違反3回で免職とすることを盛り込んだ教育基本条例案を大阪府議会に提出しており、判決は条例審議に影響しそうだ。【石川淳一】
・起立斉唱の職務命令違反に対する懲戒処分のうち、戒告は裁量権の範囲内
・減給以上の処分をすることは過去の処分歴や本人の態度に照らして慎重な考慮が必要
「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」などがあった場合に行われる処分をいい、国家公務員法や地方公務員法が定める。重い順に免職、停職、減給、戒告がある。一方、指導監督上の措置として訓告や厳重注意などもあるが、これらは法的な不利益処分にはならない。
毎日新聞 2012年1月16日 21時46分