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被災者交流:阪神と東北つなぐツタエテガミプロジェクト

被災地に思いをはせながら届いた手紙を読む稲冨歩美さん(左)と早瀬友季子さん=神戸市東灘区で、吉田卓矢撮影
被災地に思いをはせながら届いた手紙を読む稲冨歩美さん(左)と早瀬友季子さん=神戸市東灘区で、吉田卓矢撮影
稲冨さんや早瀬さんから届く手紙を楽しみに読み返す小松ちどりさん(左端)と家族=宮城県気仙沼市で2011年11月23日午後3時16分、吉田卓矢撮影
稲冨さんや早瀬さんから届く手紙を楽しみに読み返す小松ちどりさん(左端)と家族=宮城県気仙沼市で2011年11月23日午後3時16分、吉田卓矢撮影

 阪神大震災の被災地・神戸の若者と東日本大震災の被災者が文通で心を通わせている。神戸市東灘区の雑貨店員、稲冨歩美さん(24)と神戸薬科大6年、早瀬友季子さん(24)が共同代表を務める「ツタエテガミプロジェクト」。同区の岡本商店街の買い物客らに書いてもらった手紙を、宮城県気仙沼市の市民団体を通じて被災者に届け、交流のきっかけ作りをしている。これまでに約40通を送り、新たな絆が生まれた。

 2人は昨年6月、復興支援活動で気仙沼市に行った時、香川県の高校生が阪神大震災の被災者と文通していることを、神戸のNPO役員から教えられた。

 95年の阪神大震災当時、稲冨さんは兵庫県西宮市の小学1年。自宅は無事だったが、学校再開後も級友が3分の1しか戻らず、友人も転校した。同年夏、新潟県長岡市にホームステイをして、その家庭の小学生と文通を始めた。遠くの友だちとの交流が心の支えになった。

 当時のことを思い出した稲冨さんは神戸に戻り、早瀬さんとともにNPO役員に紹介された被災者に手紙を書いた。

 気仙沼市の小松ちどりさん(65)は昨年6月中旬、2人の手紙を避難所で受け取った。自宅や完成間近だった長男宅、所有のアパートが津波に流された。見知らぬ若者の手紙に戸惑ったが、無視できなかった。8月、気持ちに余裕ができて2人に電話した。「遅くなってごめんね。すぐに返事書くからね」。小松さんは初めての手紙に自分の写真を添えた。「家は流失しましたが、家族皆無事でした。不幸中の幸いです」

 手紙の交換が始まった。「夢は地域に愛される薬剤師。体や薬のことを相談して」「しっかり水分をとって元気に過ごして」。神戸の2人の手紙には、いつも体を気遣う言葉があり、小松さんはその優しさがうれしかった。気仙沼からサンマを、神戸から米や手作りの布バッグをそれぞれ送った。

 早瀬さんは10月、気仙沼を訪れ、小松さんと初めて対面した。「いつも気にかけてくれてありがとう」。小松さんの言葉ですぐに打ち解けた。小松さんの夫は漁師で9月に漁を再開した。漁に出ると1カ月以上帰らない。近所の友人もばらばらになった。自宅のあった場所にたたずむと、震災前の思い出が込み上げる。それでも神戸からの手紙に勇気づけられ、「一歩ずつ、前を向いて歩こう」と思っている。【吉田卓矢】

毎日新聞 2012年1月16日 15時58分(最終更新 1月16日 16時18分)

 
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