判決日付;平成14年6月10日
裁判所名;最高裁第二小法廷 判決
事件番号;平11(受)271号
判決結果;上告棄却
事件名;第三者異議事件
参照条文;民法177条、民法908条、民法985条
出典;家月55巻1号77頁、裁時1317号4頁、判時1791号59頁、判タ1102号158頁、金融法務1660号35頁、金融商事1154号3頁
裁判経過;
第一審 平 9年 8月20日 東京地裁 判決 平9(ワ)5202号 
第一審 平 9年 9月 8日 横浜地裁川崎支部 判決 平9(ワ)167号 
第二審 平10年10月14日 東京高裁 判決 平9(ネ)3969号等 
要約;
◆特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言によって不動産を取得した者は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとされた事例
◆「相続させる」趣旨の遺言による不動産の取得と登記
◆「相続させる」趣旨の遺言による不動産の権利の取得については、登記なくして第三者に対抗することができる。

◆ 平成14年6月10日 最高裁第二小法廷 平11(受)271号


 上告人 清水政憲
 上告人 清水靖幸
 上告人 有限会社○○○○
 代表者代表取締役 清水政憲
 上告人 出口敏典
 被上告人 安藤多恵子

   主  文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

   理  由

 上告代理人永盛敦郎、同滝沢香の上告受理申立て理由について
 1 原審の認定によれば、本件の経過は、次のとおりである。被上告人は、夫である被相続人安藤徹がした、原判決添付物件目録記載の不動産の権利一切を被上告人に相続させる旨の遺言によって、上記不動産ないしその共有持分権を取得した。法定相続人の1人である安藤武の債権者である上告人らは、武に代位して武が法定相続分により上記不動産及び共有持分権を相続した旨の登記を経由した上、武の持分に対する仮差押え及び強制競売を申し立て、これに対する仮差押え及び差押えがされたところ、被上告人は、この仮差押えの執行及び強制執行の排除を求めて第三者異議訴訟を提起した。
 2 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。このように、「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁、最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。
 3 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 福田博 亀山継夫 梶谷玄)

 上告代理人永盛敦郎、同滝沢香の上告受理申立て理由
 本件の最大の争点は次のとおりである。
 すなわち、特定の財産を共同相続人中の特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の効力については、分割方法の指定と解する最高裁判例(平成3年4月19日第二小法廷判決)が確立している。しかし、このような遺言が対第三者との関係においていかなる効力を持つかについては、従来学説等では論述されているものの、直接これにふれた最高裁の判決は存在していない。
 現判決はこの点につき、被相続人死亡後、遺言によって財産を相続するものとされた相続人は、その旨の登記なくして相続人の相続分について差押えを行った第三者に対抗できるとしたものであるが、これは遺産分割と第三者との関係について対抗問題であると解した最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決に反する不当なものである。
 よってこの争点につき新たに判決をもって権利関係を確定することは、今後の紛争を未然に防ぐという最高裁判決の機能からも要請されていることであるので、民事訴訟法318条1項により申し立てる次第である。
 なお、理由の詳細については、追って上告受理申立理由書をもって陳述する。
 上告代理人永盛敦郎、同滝沢香の上告受理申立理由補充書
本件申立が民法第177条の解釈に関する重要な事項に関することについて
 一 申立人らの上告受理申立の理由は、原判決が、不動産に関する物権の得喪及び変更につきその登記をなすにあらざれば第三者に対抗することができない旨を定めた民法第177条の解釈を誤っているということにある。
 原判決は、判決書22頁以下において、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨のいわゆる分割方法指定の遺言について、「被控訴人は、本件各物件について徹(被相続人)が有していた権利の相続による取得を、その旨の登記がなくても、控訴人らに対抗することができる」として、最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決にいう「遺産分割方法の指定」による遺言には、民法第177条の規定は適用されないとした。
 しかし、広く意思表示による物権の得喪を第三者に対抗するためには、対抗要件を必要とするというのがわが民法の大原則である。遺産分割方法の指定による物権の変動についても、「相続させる」ものとされた特定の相続人の固有の相続分はともかく、それを超える部分については、権利者である遺言者の死亡によって、同人の意思表示の効力が生じたことにより、遺言者から名指しされた得敵の相続人に対する権利の移転が発生するものであって、まさに意思表示による物権の得喪・変更に他ならない。
 二 原判決は、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については民法177条の適用があるとした最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決を引用しながら、その理由中の一部の記載をもって「『相続させる』趣旨の遺言による遺産の承継は、被相続人から当該相続人に対して、相続開始と同時に直ちに生ずるのであって、一時的にせよ他の相続人がその権利を取得することはないから、相続開始後における相続人間の権利の得喪変更を観念する余地はない」とか、「現行の相続制度においては、法定相続分による相続は、被相続人の意思内容を基準として考えれば、原則的な形態ではなく、被相続人の遺言による相続分の指定がない場合における補充的な形態と見ることができるのである。したがって、(中略)各相続人が法定相続分に従って遺産を承継するであろうとの期待は、制度上は、当然には保護されない」などとして、民法第177条の適用を否定した。
 しかし、遺産分割方法指定の遺言と同様に、受遺者は遺言者の死亡とともに遺産の所有権を取得する遺贈の場合には、第三者に対抗するには対抗要件を必要とするとされている。
 たとえば、昭和39年3月6日最高裁第二小法廷判決は、「不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和31年(オ)1022号、同33年10月14日第三小法廷判決、集12巻14号3111頁参照)、遺贈は遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によって物件変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効果を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、定全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法177条が広く物権の得喪変更について登記をもって対抗要件としているところから見れば、遺贈をもってその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもって物件変動の対抗要件とするものと解すべきである。」としている。
 三 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言で、遺産分割方法を指定したとされる場合でも、問題点は同一である。この場合、当該相続人の法定相続分については、被相続人の死亡という事実のみで相続人に移転する。しかしそれを超える部分については、遺言書に表示された被相続人の意思により当該相続人の所有に帰することになる。これはまさに意思表示による物権の変動であり、その点では遺贈との間に差はない。したがって、このような遺言があった場合であっても、当該相続人がその旨の登記手続を行なわない間は、完全に排他的な権利変動が生ずることはなく、当該相続人以外の共同相続人も、全くの無権利となるものではない。この対抗要件が具備される前に、被相続人の地位を引き継いだ法定相続人からその本来の法定相続分について譲渡を受けた第三者が対抗要件をそなえれば、当該相続人は遺言による所有権の取得を対抗できないと解すべきことは論を待たないというべきである。
 四 また、現行民法の法定相続分による相続制度は、戦前の家督相続制度を新憲法の法の下の平等の理念にしたがって改正し、原則的な相続形態としたものであって、広く国民の支持を得ている。現在のわが国においても、遺言による遺産の承継は法定相続分による相続と比較して庄倒的に少数である。むしろ、民法の規定ぶりからみても、法定相続分による相続が原則であり、遺言による遺産の承継は例外規定ということができる。しかも遺言の効力も絶対的なものでなく、相続分を根拠とした遺留分制度による制約を受けているのである。
 五 以上のように、原判決が遺産分割方法を指定した遺言による物権の得喪変動について民法第177条の適用がないとした判断は同条の解釈を誤ったものであり、現在の実務上、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言が作成される例が多いことを考慮すると、この解釈の誤りはきわめて重大と言うべきである。
 よって一刻もはやく上告を受理した上、この誤りを正されたく申立に及ぶものである。
 以上