停電で室内が真っ暗になる中、避難指示はなく、救命ボートに詰めかけた乗客を船員は押しとどめた――。イタリア西岸での巨大客船コスタ・コンコルディア(乗員・乗客約4200人)の座礁事故。救出された日本人乗客が、避難時の混乱した状況を語った。
かすかな衝撃とともに、「グオーッ」と何かをひきずるような音がした。船体は一瞬右にかしいだ後、左に傾いた。福岡県直方市の歯科医納冨(のうとみ)拓さん(34)、麻衣子さん(34)夫妻が異変に気づいたのは乗船当日の13日午後9時半ごろだった。夕食を終え、2階デッキ右舷の自室でベッドに入ったところだった。
傾きで机の上のものが滑り落ちた。「電気系統の故障です」「落ち着いて部屋にいてください」とイタリア語、フランス語、ドイツ語、英語で放送が繰り返し流れた。
携帯電話の明かりを頼りに2人で服をできるだけ着こみ、靴を履いた。救命胴衣をつけ、救命ボートのある4階へ。人が集まっていたが、船員は「大きな船を横付けして移送する」「落ち着いて待って」と乗り込むのを制止。船は今度は次第に右に傾き、「閉じこめられるのでは」と気が気ではなかったという。
三重県の自営業、加藤俊輔さん(33)、奈々美さん(33)夫妻は6階左舷で「ゴワーン」という音を聞いたが、異常な揺れは感じなかった。「部屋で待機してください」という日本語の放送を聞き待機していると、各部屋を回ってきた船員が「早く救命胴衣をつけて4階に」と言った。急いでパジャマの上に救命胴衣をつけた。