経済連携方針でEPA推進決定、TPPの対応や農業対策課題に
政府は9日、高いレベルの経済連携を推進していくため「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定した。基本方針はEPA(経済連携協定)を積極的に推進することを謳っており、それに伴い食料自給率の向上や国内農業・農村の振興を両立するための対策を実施することを決めている。一方、議論となっているTPP(環太平洋連携協定)については参加・不参加を判断していないが、情報収集を進めながら協議を行うとしたことから、参加へ一歩前進したものとして国内の農業関係団体等は参加反対を訴えている。
TPPはシンガポール、NZ、チリ、ブルネイの4カ国間(通称P4)の地域FTA(自由貿易協定)として06年に発効。物品貿易については、原則として全品目について即時または10年以内の段階的関税撤廃(除外は極めて限定的だが、最終的には交渉次第)を約束している。ことし3月、P4に米国、豪州、ペルー、ベトナムを加えた8カ国で広域経済連携協定をめざす交渉が開始され、10月にはマレーシアが新規参加し、現在9カ国で交渉が行われている。現状では多くの分野においてテキストが提示された形での交渉が始まっており、米国は来年11月にハワイで開催するAPEC首脳会議までの交渉妥結をめざしている。なお、カナダも交渉参加の可能性を検討している。
内閣官房は、日本がTPPに参加した場合の意義について▽国を開き、日本経済を活性化するための起爆剤になる(品目、分野によりプラス・マイナスはあるが全体としてGDPは増加)▽TPPがアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとして発展していく可能性がある―などとしている。
一方、TPP参加の留意点については▽予め特定セクターの自由化を除外した形の交渉参加は認められない可能性が高い▽10年以内の関税撤廃が原則▽既存の二国間の懸案への対応を求められる可能性がある(米国からは、牛肉や非関税障壁などへの対応が求められる可能性大)―としている。農水省は主要農産品19品目(関税率が10%以上で国内生産額が10億円以上)について、全世界を対象に直ちに関税を撤廃し、何らの対策も講じない場合の影響について▽農産物の生産額減少→年間4兆1千億円程度▽食料自給率(供給熱量ベース)40%→14%程度に減少―などの試算を示している。
試算対象の19品目のうち、牛肉は4等級および5等級は残り、3等級以下が置き換わるため、生産量は75%減少、生産額は4500億円減少する(このとき、輸入牛肉から徴収している牛肉関税約700億円も喪失)。豚肉については、銘柄豚は残り、その他が置き換わるため生産量は70%減少、生産額は4600億円減少。鶏肉は、業務・加工用の1/2が置き換わるため、生産量は20%減少、生産額は1900億円減少する。
今回の基本方針はEPAの積極的推進と国内農業対策の両立を図っていくことを決めたものだが、TPPへの参加・不参加の今後の判断を含め、貿易自由化と国内農業対策の両立、国内農業対策に要する財源、日本の食料安全保障の問題など課題は多い。
11月第1週の牛肉等小売価格、国産牛肉が19年4月以降最安値に
農水省消費・安全局が発表した11月第1週(1〜5日)の牛肉小売価格等調査結果(それぞれ100gあたりの価格)によると、国産牛肉冷蔵ロースは前週から4円値下がりの659円となり、平成19年4月の調査対象入れ替え以降では最安値、以前では15年12月第4週以来の660円割れとなった。また、輸入牛肉冷蔵ロースも343円と前週から4円値下がりした。このほか、豚肉ロースおよび鶏肉モモ肉は前週と変わらず、それぞれ246円、126円となっている。
県種牛に対する責任のあり方で議論、特例今後認めない―検証委
農水省は10日、第14回口蹄疫対策検証委員会を開催し、最終報告書に向けた議論を行った。会議後、山根義久座長(日本獣医師会会長)は、宮崎県の家畜改良事業団で飼養していた種雄牛を避難させ残したことについて、国と県の責任のあり方をめぐり議論が集中したと説明し、「県は国に種雄牛を残して欲しいと要請したが、その背景を考えた場合、県は県でもう少し早く対応すべき点がある。スーパー種牛を残すための責任として、たとえば事前に凍結精液を残しておけばかなりの部分で対応できた。これらの問題点について県の責任を含め検討している」と述べた。また、避難させた種雄牛で1頭から口蹄疫が発症したにもかかわらず残りの種雄牛を残したことにふれ「今後このような特例措置は一切認めないことで決定する。ヒアリングでも特例は認められないといった趣旨の意見をいただいている」と述べた。今後、2〜3回会議を開催し、11月内に最終報告書をとりまとめる。
(情報:食肉通信社提供)