【コラム】台湾断交20周年

 「米国経済再生のためには台湾を見捨てるべき」

 昨年末、米紙ニューヨーク・タイムズに掲載されたこの見出しの記事が原因で、米国と台湾の間で激しい論争が起こっている。この記事を執筆したのは、ハーバード大学で「国家安全保障フェロー」として研修を行った米海兵隊の将校だ。記事の内容は単純に、オバマ大統領は米国が中国に対して抱える1兆1400億ドル(約87兆7200億円)の負債を帳消しにするため、中国との秘密交渉に乗り出すべきというものだった。問題は、その条件として挙げられたのが台湾に対する軍事支援の中断、米台間防衛条約の廃棄という点だ。台湾は米国にとって戦略的な利益に見合わないため「いけにえ」にすべきという論理だ。

 この記事は両国で大きな反響を呼んだ。台湾は「米国で危険きわまりない主張が広まっている」として強く反発した。台湾のある新聞はこの記事を掲載したニューヨーク・タイムズを「軽薄」と非難した。一方、保守的な考え方で知られる米国企業研究所(AEI)は「台湾を見捨てても米中関係にはプラスに作用しない」と題する資料を発表し、ニューヨーク・タイムズの記事に反論した。その趣旨は「台湾を見捨てることは、ほかの同盟国に対して非常に冷たいメッセージを送る結果になる」というものだった。そのほかにも同じような批判が相次いだ。

 これまで米国では「中国をけん制するために台湾との関係を維持すべき」という考え方が支配的で、この点については保守派もリベラル派も意見が一致していた。そのため今回の問題は、中国が主張する「一つの中国」という考え方が、米国の経済危機につけ込んで米国国内で広まっている結果と見なすこともできる。

 今年で中国との修好20周年を迎える韓国にとって、今回のエピソードは「台湾断交20周年」を改めて思い起こさせるものだ。韓国と台湾との国交は、韓国が中国と修好を開始する前日の1992年8月23日に終了した。両国が相手国に設置した大使館はこのとき閉鎖され、それに代わって登場した代表部は今も維持されている。しかしその一方で、中国政府による「一つの中国」政策は執拗に続いている。中国は李明博(イ・ミョンバク)大統領が先日訪中した際にも、この政策について言及することを強く求めた。韓国の政府関係者が台湾を訪問するたびに、在韓中国大使館の参事官クラスの外交官が抗議するといった状況も変わっていない。

 韓国政府としては、韓中修好の条件として合意した「一つの中国」という原則は守るしかない。中国との2010年の貿易額は、米国(902億ドル=約6兆9400億円)と日本(925億ドル=約7兆1200億円)を合計した額を上回る1884億ドル(約14兆5000億円)を記録した。そのため中国との関係は、今後もさらに緊密に維持していかなければならないだろう。しかし中国は「南北の間で中立を守る」という大義名分で、今も北朝鮮を支援している。中国のこのような姿勢をけん制するには、民間を中心に台湾を活用することも念頭に置かなければならない。昨年9月に日本は台湾と相互投資保障協定を締結するなど積極的に接近しているが、その理由についても考える必要があるだろう。幸いなことに、韓国と台湾は互いにそれぞれ5位の経済パートナーだ。年間の交易額もおよそ300億ドル(約2兆3100億円)に達し、航空便の数も大幅に増えている。

 今年、韓国国内では各所で韓中修好20周年を記念する垂れ幕が登場するだろう。こういう節目の年にこそ、外交戦略の必要性から細々と維持している台湾とのパイプを思い起こすことが大切だ。それは20年前、事前に何の手続きもなく、突然断行の通知を送りつけたことに対する反省になるかもしれない。

李河遠(イ・ハウォン)政治部次長
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